21 降臨、神の使徒(セラ視点)
その日の夜――。
セラたちが部屋に集まって談笑していた時、異変は起きた。
ばたんっ!
部屋の窓がひとりでに開く。
その向こう側から強烈な光が差し込み、室内を満たした。
「何……!?」
まぶしさに目を細めるセラたち。
その光が収まると、彼女たちの前に三つの人影が立っていた。
光り輝く体に純白の翼。
そして神々しさを伴った威圧感――。
「あなたたちは……!?」
「我らは天使――神の使徒なり」
「見つけたぞ、穢れたる勇者よ」
「汝に審判を下す」
三人の天使たちが順番に告げる。
男とも女ともつかない中性的な声音だ。
いや、あるいは天使とは性別を超越した存在なのかもしれない。
「勇者セラ――汝の魂は地に堕ち、穢れてしまった。ゆえに汝の勇者としての資格を剥奪し、同時に断罪する」
ヴンッ……!
天使たちの手に、それぞれ光の剣、槍、弓が出現した。
完全に戦闘態勢だ。
「断罪? それって……処刑ってこと?」
セラが天使たちを見据えた。
天使たちは無言だ。
武器を構えた姿からは、すさまじい殺気が漂っており、セラの命を奪うつもりなのは間違いなさそうだった。
「……確かに、あたしは過ちを犯した。後悔しているし、贖罪したいとも思ってるわ」
セラが天使たちを見回す。
「けれど、殺されるつもりはない。あたしは生きる。生きて、もう一度ザックに会うの」
言って、聖剣を抜く。
その刀身にはあいかわらず亀裂が入ったままで、輝きも失われている。
けれど、それでもこの聖剣がセラの力の源だ。
「あたしは――戦う」
「そうよ、それでこそ勇者セラよ」
マリンが側に並ぶ。
「わたくしたちはそんなセラ様を支えるのが使命」
「力ァ貸すぜ、セラ!」
ユウナが胸の前でガツンと両拳を合わせる。
「私はいつも通りに盾になる」
シーリスが淡々と言って前に出た。
「やっぱり……勇者パーティはこうでなくっちゃね」
セラが微笑む。
ようやく思い出してきた。
これが、あたしだ――。
「我ら【光】の軍勢に逆らうとは……愚かな」
「我ら神の使徒の名において、お前たちを滅し去る」
「覚悟せよ、愚かなる人間ども」
天使たちが武器を構えなおした。
そして――戦いが始まった。
「【ライトニングボム】!」
マリンの雷撃が天使たちを襲う。
「無駄だ」
上級魔法の一撃を、しかし天使たちは生み出した不可視の障壁であっさりと防いだ。
攻撃の余波で部屋の壁の一部が吹き飛ぶ。
「みんな、外に! 部屋の中じゃ戦いづらい!」
セラが指示し、全員が壁の穴から外へと飛び出した。
天使たちがそれを追い、戦いの場所は宿の中庭へと移る。
宿泊客たちが何事かとやってきた。
「こっちに来ないで! 巻き添えを食うから!」
セラが慌てて叫ぶ。
と、
「罪もない者を傷つけるつもりはない」
天使たちが言った。
次の瞬間、周囲の景色が一変する。
白いモヤに包まれたような場所へと。
「邪魔が入らぬよう、異空間に移動した」
天使たちがこともなげに告げる。
「さあ、続きだ。堕ちた勇者よ、その仲間たちよ」
「はあ、はあ、はあ……つ、強い」
セラたちは苦戦を強いられていた。
こちらの剣や魔法は天使たちにまるで通じず、天使たちの攻撃は凌ぎきれない。
「まだまだ……っ!」
だがセラの闘志は萎えない。
この戦いで、もう一度自分を取り戻したい。
『勇者』としての自分を――。
だから、ここで折れるわけにはいかないのだ。
「はあああああああっ!」
セラは長剣で斬りかかった。
聖剣は刀身にヒビが入り、壊れてしまう危険性があるため、今使っているのはシーリスから借りた予備の剣だ。
普段使っているのとは違う大剣サイズの剣だが、セラは器用に使いこなしていた。
勇者として戦う日々が、ただの村娘だった彼女に卓越した剣士の技能を授けてくれていたのだ。
「ふん、思ったよりはやる――だが!」
三体の天使が反撃を見舞う。
剣が、槍が、矢が――。
次々に浴びせられ、セラは後退した。
「敵の攻撃は三位一体、そして攻防一体――隙がない」
シーリスが冷静に分析する。
「突破するには、あと一手足りないわね」
マリンがうめく。
「ちっ、そんなもん気合いで乗り越えんだよ! おらああああっ!」
ユウナが突っこんでいくが、簡単に弾き返される。
「そのような根性論では無理ですわ。もっと策を……」
エルザがうつむく。
「――いや」
セラが前に出た。
「今は、その根性論でいい」
「えっ?」
四人が驚いたように彼女を見る。
「あたしがもう一度行く。援護を」
セラの全身からオーラが立ち上った。
普段、勇者として戦う時にまとう黄金のオーラではない。
金と黒が混じった混沌のオーラが――。
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