19 冴えないおっさん、宰相を一蹴する
「無礼者が! 平民風情が身分もわきまえず、この私に意見するか!」
バルデスが怒声を発した。
顔が真っ赤だ。
何を言われても泰然としていたディオーネに比べると、器が随分と小さそうだった。
「宰相閣下に対して、なんたる口のきき方だ!」
「まったく、たかが平民が!」
「早く平伏して詫びぬか!」
などと、バルデスの派閥らしき貴族たちが口々にわめく。
「――静粛に。王の御前ですよ」
俺はバルデスや彼らを見回した。
「うう……」
たちまち連中は口をつぐむ。
俺の『意志』が『命令』となって彼らに作用したのだ。
「う……ぐ……」
バルデスも同じだった。
それ以上、俺に何も言えなくなる。
「宰相閣下、あなたが私を蔑むのは構いません。ですが、国のために尽力したディオーネ殿下に不当な評価を下させるのは、いかがかと存じます」
俺はバルデスを見据えた。
「殿下に比べて、あなたはここで何を為さっているのですか? この国を良くするため、日々何を積み上げてきたのか――それをこの場で発表していただきたい」
ニヤリと笑う。
さあ、見せ場をやるぞ、バルデス。
「存分に語って下さいませ。包み隠さずに、すべてを」
おおかた、お前は汚職や賄賂など表では言えないようなことをしているんだろう?
それをお前自身の口から語るんだ。
心の中で、そう『意志』を込める。
といっても、汚職や賄賂はあくまでも俺の推測に過ぎない。
もし違っているなら、俺はこいつへの評価をあらためようと思う。
「さあ、閣下。遠慮なさらずに」
「う……ぐぐぐ……」
バルデスの顔が真っ赤になった。
先ほどまでは怒りによる紅潮だったが、今度は明らかに別の理由のようだ。
そう――驚愕と恐怖。
「お、俺は……第一王子アバロ殿下に次期国王となってもらいたい……そのためにはディオーネの存在が、邪魔だった……」
バルデスが語り出す。
たちまち謁見の間にどよめきが起きた。
特にバルデスの派閥らしき貴族たちは呆然とした顔で彼を見ている。
が、バルデスは止まらない。
「ディオーネはただでさえ、その美貌と実力で民からの人気は抜群だ……これ以上の功績を上げれば、ますます民の支持を集め、王位継承においてアバロ殿下の脅威となる。それを阻止するため、俺は……」
そこで言葉が止まった。
ますます顔を赤くするバルデス。
どうやら必死で俺の『命令』に抵抗しているようだ。
その精神力は大したものだが――。
「どうなさいました、閣下? ご遠慮なさらず、お話を続けてくださいませ」
俺はさらなる『意志』を込めて、続きを促した。
どうやら俺の『命令』は言葉に出した方が、より効力を強めるらしい。
バルデスの全身がビクンと震え、同時に先ほどの続きを話し始めた。
「ディオーネの遠征費を不正に報告して横領した。物資の横流しを行い、ディオーネの騎士団の足を引っ張ってきた。あるいはディオーネの悪い噂を市井に流し、その評判を貶めることもしてきた」
どよめきがさらに大きくなる。
「俺は長年にわたり、我が国の軍事予算を流用し、自分の懐に入れてきた。国中の施設の建設費を水増しして報告し、着服してきた。だが、俺の一番の罪は――我が国と敵対するヴァールハイト帝国と通じ、我が国の機密情報を流していたことだ」
「な、なんだと……!」
国王が血相を変えて玉座から立ち上がった。
俺もさすがに驚いていた。
汚職だけでなく、敵国と内通までしていたとは。
「お、俺は一体……何を、言って……」
すべての罪を自白したバルデスは、その場にへたり込んだ。
「ええい、国家への重大な反逆を行ったこの罪人を捕らえよ!」
王が怒声を上げた。
「バルデスを牢に入れ、徹底的に尋問せよ! 余罪がないかを追求し、すべてを明らかにしたうえで沙汰を言い渡す! 覚悟せよ、バルデス!」
「へ、陛下、お待ちください、これは何かの――」
間違い、と言おうとしたのだろうば、バルデスはそれ以上抗弁できなかった。
それどころか、
「い、いや、俺は確かに帝国と内通した! この国からも帝国からも甘い汁を吸うためにな!」
と、さらに自白してしまう始末だった。
【上位存在】である俺の命令は絶対だ。
こうして、メルディア王国で権勢を誇っていた宰相バルデスは、俺の意志一つですべてを暴かれ、あっけなくすべてを失ったのだった。
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