18 宮廷の権力争い
ディオーネは各地を視察した報告のために、謁見の間に向かっていた。
俺も従者としての扱いで彼女に着き従っている。
と、
「ディオーネ殿下、ご帰還なされたか。お忍びでご旅行されていたとか。公務を放り出して、さぞや満喫されたことでしょうな」
まるまると太った豚のような中年貴族が話しかけてきた。
いかにも嫌味そうな男だ。
「ナレンザ卿、ごきげんよう」
相手の嘲笑にもディオーネは顔色一つ変えず、優雅に微笑んでみせた。
「おかげさまで実りの多い旅だったよ。新たな気付きも、得るものも多かったと感じている。宮廷でぬくぬくとして私腹を肥やすことに勤しんでいては手に入らない、有意義な時間だった」
「……!」
ナレンザの顔色が変わった。
「私腹を肥やしているとは心外な。私はこの国をよくするために日々、粉骨砕身――」
「メルディアの宮廷は腐敗している。汚職の報告や内部告発など、実に様々な情報が私の元には入ってくるんだよ、ナレンザ卿」
ディオーネは微笑みを絶やさない。
その瞳の奥で赤い光が揺らめいているのが見えた。
彼女の野心を表す色――俺の【上位存在】の力が見せているらしい、心の色を可視化した光だ。
「な、何を……まさか脅しか」
「脅し? これは奇妙なことを仰る。貴殿は汚職などとは無縁であろう? 何を怯える必要がある」
「と、当然だ、私は……清廉な身……」
言いながらも、彼の眼光が揺らめくのが見えた。
こちらは【上位存在】の力を使うまでもない。
明らかにナレンザは動揺している。
ディオーネが汚職の話を振って、この反応をするということは……まあ、そういうことなんだろう。
「私は陛下への報告がある。では、これにて。行こう、ザック」
「はっ」
俺はディオーネに従い、先へ進む。
すれ違いざま、ナレンザが小さくつぶやくのが聞こえた。
「おのれ、女狐め……」
謁見の間――。
玉座に座る国王は、年のころは五十代だろうか。
さすがに大国の王らしい威厳にあふれていた。
「ディオーネ。このたびの魔将軍の撃退、大儀であった」
「はっ。ですが、多くの騎士たちの犠牲がありました。私の力不足を痛感しております」
ディオーネが謙虚に頭を垂れる。
その時、国王の隣に立つ恰幅のいい男が口を開いた。
宰相のバルデス公爵だ。
ディオーネと対立する第一王子の懐刀とも称される男であり、この国の政治を裏で牛耳っているという話だった。
「して、ディオーネ殿下。あなたは国内を回られ、有望な人材に声をかけてきたと聞いております。そちらの従者もその『有望な人材』なのですかな?」
バルデスの視線が俺に向けられた。
いきなり矛先がこちらに来るとは思わず、戸惑う俺。
「こんな薄汚い中年男がなんの役に立つというのか……国内の視察とは名ばかりの、ただ遊び歩いていたのではあるまいな?」
あからさまな挑発だったが、ディオーネは動じる気配がない。
きっと――こんなことには慣れっこなんだろう。
彼女が普段過ごしている宮廷がどんな場所なのか、さっきのナレンザや今のバルデスとのやり取りだけで十分に想像がついた。
まあ、ディオーネに矛先が向いている間は、彼女に任せておけばいいが、俺自身にそれを向けるなら――。
受けて立っておくか。
「見た目だけで人を判断するのは、ご見識を疑われますよ、宰相閣下」
俺がバルデスに言い返すと、謁見の間がシンと静まり空けった。
「……なんだと?」
バルデスの顔から笑みが消える。
『薄汚い中年の従者』が反撃してくるとは、夢にも思わなかったんだろう。
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