17 王都メルディオン
魔将軍ザラディーザとの戦いから数日が経った。
破壊された街並みも復興が進み、予定より遅れたものの、俺たちはふたたび王都に向かうことになった。
なお、俺の力で魔将軍を倒したことは、ディオーネとフィオ、そして彼女の側近騎士たちだけの秘密ということになった。
住民たちには『王国騎士団と協力者が力を合わせ、魔将軍を撃退した』とだけ伝えてある。
俺一人の手柄にして騒ぎが大きくなるのは避けたかったし、何より、魔将軍と戦って命を落とした騎士たちやフィオの名誉を守りたかったからだ。
「ザック、本当に感謝する。お前がいなければ、この町は……私も、フィオも、皆死んでいただろう」
――魔将軍を倒した後、ディオーネは俺に深く頭を下げた。
「顔を上げてください、ディオーネ様。それに私一人の力ではありません。命を懸けて戦った騎士たちと……フィオの奮戦のたまものです」
俺はフィオに視線を向ける。
彼の右腕は失われたままで、今は左腕だけになっている。
その左腕も戦闘時は黄金の輝きを放っていたが、今は鉄の色に変わっていた。
外見としては左腕に鋼鉄の義手を装着しているような感じだ。
あの戦いで現れた黄金の腕は一体なんだったのか――。
ツクヨミに聞いたところ、俺の【上位存在】の力がフィオに作用したんじゃないか、という話だった。
高位魔族や魔将軍を、自らの魔力を使って滅ぼさせたように。
俺はフィオに【上位存在】の力を作用させ、彼の能力を引き出し、新たな異能を与えた――その結果が黄金の腕ではないか、と。
その引き金となったのは、おそらく俺が別れ際にフィオにかけた言葉。
『殿下を頼む』と言った、それが一種の『命令』のように作用したのかもしれない。
もっとも、ツクヨミもこんな現象は過去に見たことがないと言っていたから、依然として謎は残ったが。
「フィオの右腕は、私が責任をもって王都で最高の治癒術師に診せる。必ず、手立てはあるはずだ」
ディオーネが言った。
「……ありがとうございます」
フィオが頭を下げた。
その言葉には力がなかった。
現状では利き手で剣を握れず、戦闘能力が大幅に減っているのだから、気落ちするのも無理はない。
俺もフィオに『命令』をして、腕を治そうと試みたが上手くいかなかった。
ツクヨミ曰く、
『【創造】は【破壊】の命令よりもずっと【コスト】が上なの。前回は偶発的に上手くいっただけで、自由自在に【創造】するのは、今のザックには無理かな~』
とのことだ。
――俺が【上位存在】の力を、もっと自由に操れるようになったら。
あるいはこの力の、さらなる深淵に到達することができたら。
フィオの腕も治せるんだろうか――。
その後、俺たちは辺境都市を出立した。
数日間の旅路の末、王都に到着する。
メルディア王国の王都メルディオン。
勇者パーティに所属していたときの拠点の一つだ。
活気あふれる街並みは、まさに世界有数の大国の王都という感じだ。
だが、その活気に触れていると、俺はもう勇者パーティの一員じゃないんだという気持ちがよみがえってくる。
「どうした、ザック? 顔色が悪いぞ」
ディオーネがたずねた。
「いえ、なんでもありません」
「何か嫌なことでも思い出したか?」
ディオーネは俺の内心を見透かしたように声をかけてくる。
「かつて私が所属していたパーティは、ここを拠点としていましたから。それなりに思い出があります」
俺は言って、苦笑した。
「ただの感傷ですよ」
「……そうか」
王立救護院にフィオを連れていき、治療の手はずを整えると、俺はディオーネと一緒に王城へ向かった。
もともと彼女がお忍びの旅に出ていたのは、魔王軍の侵攻による王国の各都市の現状を把握するためだ。
その報告を国王に行うためだった。
「ザックのことは単なる協力者として報告する。案ずるな」
「……お気遣いありがとうございます」
「だが、いいのか? 本当のことを明かせば、お前は英雄として歓待されるぞ」
ディオーネが確認してくる。
「高位魔族を退けたのは、フィオやガーレルでの戦いで命を落とした騎士たちです。私はそれで構いません」
俺は微笑んだ。
「分かった。ただ、お前の能力を、私は非常に欲している。今後、魔王軍との戦いの際には前線で活躍してほしいと思っている」
ディオーネが言った。
「遅かれ早かれ、お前の力は万人が知るところになるだろう」
「……分かっています」
俺はうなずいた。
「いずれはそうなるでしょう。ただ、今は――」
話しながら、俺たちは王城に入った。
ここから――俺の未来は動き出すだろう。
俺は、英雄への道を歩むのか。
それとも――。
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