13 黄金の両腕の力で猛攻する(フィオ視点)
「これは……俺の、腕……?」
試しに指を動かしてみる。
思うがままに、滑らかに動いた。
両腕から力がみなぎってくる。
「失ったはずの腕が再生しただと? しかも、治癒魔法の類ではない。なんだ、その現象は――」
ザラディーザが困惑したように眉を寄せた。
「俺にも分からない。けど――」
フィオは光の腕を握りしめた。
もう恐怖はない。
絶望もない。
あるのは、闘志だけだ。
「――これなら、お前と戦える!」
地面に落ちていた自分の剣を、光の腕で拾い上げる。
重いはずの剣が、まるで紙切れのように軽い。
それだけこの両腕に力がみなぎっているのだろう。
「調子に乗るな!」
ザラディーザは、今度は黒い波動ではなく、黒い稲妻を放った。
フィオはそれを片手で払う。
ばちぃっ!
稲妻はあっけなく飛び散った。
「貴様――!?」
「いける――!」
驚くザラディーザと、意気込むフィオ。
「さあ、仕切り直しだ!」
フィオは剣を手に、魔将軍に突進した。
「はあっ!」
繰り出した剣撃は、以前とは比べ物にならないほどの膂力と速度を備えていた。
「させるか!」
と、【雷鳴六閃】の女剣士と竜人の魔族が左右から飛び出し、フィオの斬撃を止める。
「……だったら、まずお前たちからだ!」
吠えて、さらに剣を繰り出すフィオ。
一撃。
二撃。
三撃。
剣を振るうごとに、斬速が上がっていく。
「な、なんだ、これは――!?」
女剣士と竜人が同時に驚愕の声を上げた。
「【加速する斬撃】」
脳裏に自然と浮かんできた能力の名を、フィオが告げた。
そう、本能が教えてくれている。
突然現れたこの黄金の両腕の能力――。
「はあああああああああっ!」
斬り結ぶたび、斬りつけるたびに、どこまでも加速していく斬撃は、ついに二体の魔族の反応を超える。
ざんっ!
女剣士と竜人は、フィオの繰り出す剣の前に相次いで斬り伏せられた。
「ば……か……な……」
二体がともに驚愕の声を残し、倒れる。
「次はお前だ!」
と、残った魔術師の少女に向かうフィオ。
「ひ、ひいっ……」
おびえたように後退する彼女。
その頭を、フード越しにザラディーザがつかんだ。
「……もういい」
怒りをにじませた声だった。
「人間ごときを相手におびえるなど【雷鳴六閃】の名折れだ」
ぐしゃっ……。
あっさりと。
ザラディーザが力を込めただけで、彼女の頭部が砕け散る。
「なっ……!?」
こともなげに側近を殺してしまった魔将軍を前に、さすがに驚愕するフィオ。
「次は俺が直々に相手をしてやろう、若き騎士よ」
ザラディーザが静かに告げた。
――ぞくり。
全身の毛が逆立つような威圧感を受け、フィオは動きを止めた。
こいつは……違う。
先ほどまで戦っていた【雷鳴六閃】とは、次元が違う。
「それでも――俺は!」
闘志を奮い立たせ、フィオはザラディーザに向かっていく。
ふたたび【加速する斬撃】を発動し、斬りつける。
ぎんっ! ぎんっ! ぎんっ!
激しい金属音が連続して響き渡った。
「むっ……!?」
フィオの猛攻が、ザラディーザをたちまち防戦に追い込んだ。
「くっ……この人間、なぜ急にこれほどの力を……!」
ザラディーザの表情から先ほどまでの余裕が消えている。
「先ほどの戦い以上に――速い……!」
――なぜ、これほどの力が湧いてくるのか。
フィオは戦いながら、その答えを自分の中に探していた。
――俺は、父に認められたかった。
魔法の才能がない『失敗作』だと見下され、ただその愛情が欲しくて剣を握った。
騎士になれば、父も自分を見てくれるかもしれない。
そう、ずっと思っていた。
――けれど、違う。今はもう、違うんだ。
そう、フィオは誰かに認められるためだけに戦っているのではない。
脳裏に、ザックの顔が浮かぶ。
『お前のような騎士がこの国を守ってくれる限り、民たちは安心して生きていけるんだ』
彼の言葉が、フィオの心の奥深くで響いた。。
散っていった仲間たちも、最後まで民を守ろうと戦った。
その志は、フィオの中で生きている。
そして彼自身も同じ志の下に剣を振るのだ。
「そうだ、俺は――」
フィオの斬撃が、さらに加速する。
「俺が戦うのは――!」
剣筋はより鋭く、より重く、ザラディーザを追い詰めていく。
「おおおおおおおっ!」
雄叫びとともに、フィオは渾身の一撃を叩き込んだ。
ざしゅっ!
胸元を大きく切り裂く。
「馬鹿な……っ」
ザラディーザの体勢が大きく崩れる。
「これで、終わりだぁぁぁっ!」
勝利を確信し、フィオはとどめの一撃を放つべく剣を振りかぶった。
その、瞬間。
「おのれ……」
ザラディーザが、崩れた体勢からフィオをにらみつけた。
「――この俺が、人間ごときに!」
ごごごごご……っ!
ザラディーザの体から、先ほどとは比較にならないほど禍々しい魔力が噴き出した。
周囲の空気が震え、天からは無数の雷が降り注ぐ。
フィオは一瞬ひるんだ。
雷を避けるために退くべきか、それともこのまま最後の斬撃を放つべきか。
戦場において、その一瞬が致命的となる場合もある。
がしっ!
「しまっ――」
「判断が遅い」
フィオが振りかぶった剣を、ザラディーザがつかんでいた。
「確かに貴様は強い。強くなった。だが急激な強さの進化に、貴様の精神が追いついておらん」
「は、離せ――」
「迷いを抱かなければ……あるいは貴様が勝っていたかもしれんな」
ばきんっ!
硬質な破壊音とともに、フィオの黄金の腕が砕け散った。
光の粒子となって、夜の闇に消えていく。
「あ……ああ……っ」
右腕を失い、後退するフィオ。
左手で剣を拾い直す前に、ザラディーザが右手を突き出した。
「塵となれ」
その掌に巨大な黒雷の塊が生み出される。
駄目だ、敵の攻撃の方が速い――。
フィオは絶望とともに、その事実を悟った。
――ばしゅんっ!
次の瞬間、ザラディーザの手から黒雷が消滅した。
「えっ……?」
「なんだと……?」
戸惑いの声はフィオとザラディーザの両方から同時に上がる。
「遅くなってすまなかった」
前方から人影が進み出た。
フィオは呆然と目を見開く。
「あ……あ……」
安堵感で涙がこぼれ落ちた。
「ザックさん……!」
「よく頑張ったな、フィオ。後は――」
悠然と歩いてきたザックがザラディーザと対峙する。
「俺に任せろ」
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