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12 少年騎士は絶望の中で立ち向かう(フィオ視点)


 SIDE フィオ



 フィオ・コートニーは貴族の三男として生まれた。


 魔法の名門家系だったが、彼自身は魔力を持たずに生まれてきたため、両親からの期待は薄かった。


 特に父親はフィオのことを『いないもの』として扱い、魔法の素質に優れた上の二人の兄ばかり可愛がった。


 フィオはそんな父の愛情を欲して、魔法以外のことに自分の才能を求めた。


 やがて剣の筋がよいと褒められたこともあり、護身用のたしなみではなく、本格的に剣の修行をするようになった。


 俺にだってできることがある――だから俺を見てください、父上。


 幼少期のフィオはいつもそう思っていた。


 四歳のころから十年間、毎日剣に打ち込み、やがて王国騎士団に入団することが認められた。


 騎士になった日、父に報告に行ったが、何の関心も示してくれなかった。


「剣など野蛮だ。私の子であるなら、魔術師になってほしかった」


「お前は失敗作だな、フィオ。もう来なくていい」


 自分の十年の努力を全否定され、フィオは失意のうちに家から遠ざかるようになった――。




 その後も、フィオは剣に打ち込み、騎士団で頭角を現し、十六歳の今では若きエースの一人と称されるようになった。


 それでも――父はフィオと会おうともしない。


 フィオの中にはずっと空虚感があった。


 俺を見てほしい。


 俺を認めてほしい。


 ただ……ただ寂しかった。


 だから――自分を認めてくれたザックの存在が嬉しかった。


 年齢的にもちょうど自分の親くらいで、もしかしたら彼に父の面影を見ているのかもしれない。


 フィオは少しだけ自覚していた。


 だから――。


「ザックさんの前で、いいところを見せないとな」


 フィオはディオーネや騎士たちと一緒に街の人間の救助に向かう。




「――まずお前たちから殺す」




 頭上から、突然声がした。


「っ……!?」


 見上げると、そこには先ほどの魔族たちの姿がある。


 魔将軍ザラディーザ。


 そして、腹心の三体の高位魔族たち。


「えっ、ザックさんは――」


 フィオは驚きの声を上げた。


 高位魔族を瞬殺し、【雷鳴六閃】の半数をも撃破したザックの力をもってしても、彼らには勝てなかったのか?


 あるいはザックの元から逃げて来たのか?


「おのれ、魔族たちめ」


 ディオーネが、そして騎士たちがいっせいに抜剣する。


 フィオも剣を構えた。


 身長5メートルほどの巨大な有翼魔族――ザラディーザ。


 そして女剣士に魔術師の少女、竜人の姿をした高位魔族たち。


 そのいずれもが人知を超えた圧倒的な戦闘能力を持っているだろう。


 勝てるのだろうか。


 いや、そもそも戦いになるのだろうか。


「くっ……!」


 フィオは恐怖で全身が震えるのを感じた。


 以前、高位魔族二体を向かい合ったときと同じ――いや、あのとき以上の恐怖だ。


「静まれ、俺の体……!」


 フィオは必死で自分自身に言い聞かせた。


 別れ際、ザックから言われたのだ。


『殿下を頼む』と。


「そうだ、ディオーネ殿下は俺が守る……っ!」


 フィオは前に出た。


「ほう? 我らを前にしても臆せぬようだな」


 ザラディーザはフィオたちを見回し、微笑んだ。


「その意気や由。だが――」


 どんっ!


 魔族の全身から禍々しい黒色の波動が放たれた。


 それは津波のように騎士たちへと殺到する。


「う、おお……」


「が……はっ……」


 波動に触れた騎士たちは、いずれも顔を土気色に変え、まるで生命そのものを抜き取られたかのように崩れ落ちた。


 一瞬で――。


 彼らはただの骸と化した。


「俺の即死魔法に【対抗】することもできんか。まあ、人間などこんなもの――」


 ザラディーザはつまらなそうにつぶやく。


 その場に残されたのは、ディオーネとフィオだけだった。


「……なんだ、そっちの二人は無事か。俺の即死魔法の効果圏外に逃れたか? それとも運よく即死判定から逃れたか――?」


 ザラディーザがフィオたちを見て、わずかに眉を寄せる。


 即死系の魔法は、基本的に確率で即死効果が発動すると聞いたことがある。


 今のは、ほとんどの騎士が即死したのを見ると、その確率が相当に高い魔法なのだろう。


 それでも幸運にもフィオとディオーネは助かった、ということだろうか。


 だが――幸運が二度続くとは思えない。


「……ディオーネ殿下、お逃げ下さい」


 フィオがうめいた。


「ふん、逃がしはせん」


 ザラディーザが、今度は黒い魔力の刃を生み出す。


 狙いは――ディオーネだ。


「危ない!」


 とっさにフィオは動いていた。


 彼女を突き飛ばす。


 ざんっ!


 次の瞬間、熱い衝撃が走った。


「あ……っ……が……」


 一瞬、何が起こったのか、分からなかった。


 肘のあたりが熱い。


 腕が、妙に軽い。


「えっ……?」


 恐る恐る見下ろす。


 フィオの両腕の――肘から先が切断され、失われていた。


「ぐおおおおお……っ」


 地面に崩れ落ち、フィオは声にならないうめき声を上げた。


 両腕があったはずの場所から、凄まじい激痛が全身を駆け巡る。


「フィオ! しっかりしろ、フィオ!」


 ディオーネが駆け寄り、悲痛な顔でフィオを見つめている。


「ディオーネ……でん……か……」


「喋るな! 今、治癒魔法をかける!」


 ディオーネが叫んだ。


「【ヒール】!」


 彼女の手から温かい緑色の光があふれ出す。


 その光が、フィオのずたずたになった両腕の傷口を包み込んだ。


 どれだけ高位の治癒魔法でも、失われた腕が元に戻ることはない。


 ただ、それ以上の悪化を防ぎ、治療することはできる。


 血が少しずつ止まっていき、痛みも薄らいでいく。


 数秒にしてこれだけの回復具合――ディオーネの治癒魔法はかなりハイレベルなものらしかった。


「応急処置しかできんが……とにかく下がっていろ」


 ディオーネはフィオの体を抱え起こしながら、険しい表情で前方をにらみつけた。


 そこに、魔将軍ザラディーザが冷たい笑みを浮かべて立っている。


「応急処置?」


 ザラディーザは嘲笑した。


「どのみち、お前らは全員ここで死ぬ。無駄なことをする」


「そう簡単にはやられんぞ、魔族め……」


 ディオーネが低い声で言い返す。


 この状況でも恐怖の感情を一片たりとも見せず、王族の威厳を一片たりとも損なわない――さすがはディオーネだった。


 それでも、状況が絶望的なことに変わりはない。


「ぐ……うう……」


 フィオが歯を食いしばり、よろめきながら立ち上がった。


 ディオーネの前に進み出る。


「お下がりください、ディオーネ殿下……」


「……何を言っている。お前こそ下がれ」


 ディオーネが言った。


「その体で何ができるというのだ」


「俺は、騎士です。あなたを……民を守るのが、俺の仕事ですから――」


 両腕はなく、剣も握れない。


 けれど――、


「俺の命が尽きるまで、あなたの盾になります。だから、殿下はお逃げ下さい」


「フィオ――」


「これが、俺の最後の仕事です……!」


「ほう、その状態でまだ俺と戦うつもりか? その闘志だけは褒めてやろう」


 ザラディーザの口元から笑みが消える。


「人間の中にも、本物の戦士はいると見える。だが――容赦はせんぞ」


 ザラディーザの全身から黒い波動が放たれる。


 言葉通り、容赦のない致命の一撃――。


 避けられない。


 せめて一撃で死なないように、なんとか踏ん張りたい。


『殿下を頼むぞ』


 ザックの言葉が、ふたたび脳裏によみがえった。


(そうだ、俺は――)


 フィオは死を覚悟しながらも、ザックのことを思うと不思議と勇気が湧いてくるのを感じていた。


 次の瞬間、




 ばちぃっ!




 予想された苦痛も、衝撃も、やってこなかった。


 黒い波動はまるで見えない壁にぶつかったように弾け、霧散する。


「何……!?」


 ザラディーザが驚いたように目を見開いた。


「えっ……?」


 驚いているのはフィオも同じだった。


 次の瞬間、自分の身に信じられない変化が起きていることに気づいた。


「これは――」


 失ったはずの両腕が、まばゆい光を放っている。


 光は確かな輪郭を持ち、腕の形を成していく。


 それは生身の腕ではない。


 黄金の光で構成された、輝く両腕だった。

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