11 【上位存在】VS魔将軍ザラディーザ
「命令しただけだ。自壊しろ、と」
俺は平然と告げたが、内心ではわずかに動揺していた。
今の俺の一言は、目の前の六体すべてに加え、空にいるザラディーザも対象に含めていた。
正確には、こう命令したのだ。
『この場にいる魔族全員――自らの魔力をもって、自らの体を破壊しろ』と。
それなのに、半数しか倒せなかった。
と、
「んー、【上位存在】にはルールがあるからね」
俺の疑問を察したのか、ツクヨミが解説を始めた。
「ザックの力は、相手がザックのことを『命令してくる存在』だってはっきり認識しないと、効果が薄いんだ」
「認識……?」
「そう。この魔族たち、ザックのことをめちゃくちゃナメてたでしょ? 『こんなオッサンが何できるんだ』って。だから、ザックの言葉を『命令』としてちゃんと受け取れなかったんだよ」
ツクヨミが説明する。
「まあ、並の相手ならそういうのに関係なく問答無用で『命令』を作用させられるんだけど、魔将軍とかその腹心クラスになると、そう簡単にはいかないかな」
「じゃあ、倒せた三体は?」
「あいつらは、君を『倒すべき敵』としてはっきり認識していたんだと思う。だから命令が通った。それと――基本的に『命令』は距離が近ければ近いほど効力や精度を増すんだ。後ろにいた三体や、もっと遠くにいたザラディーザは、まだ君を脅威だと認めていなかったし、距離も遠かった。だから命令が弾かれちゃったんだ」
つまり、相手がある程度強い場合、ただ言葉を発するだけでは不十分で、相手に俺を『命令者』として認識させる必要があるのか。
「そういうことさ」
ツクヨミはにこっと笑う。
「でも、見て」
俺が視線を戻すと、生き残った三体の魔族と、空に浮かぶ魔将軍ザラディーザの雰囲気が一変していた。
さっきまでの侮りや油断は完全に消え去っている。
代わりにむき出しの殺意と、そして未知の力に対する警戒心があらわになっていた。
「お前たちは今――俺を敵として認識した」
次の命令は、通るはずだ。
と、
「お、お前、その力は……!」
ディオーネたちは呆然とした様子で俺を見ていた。
配下の騎士たちも同じだ。
フィオだけは、以前にも俺の戦いぶりを見ているため、驚きぶりが若干緩やかだが、それでも目を見開いている。
「これで少しは信用していただけましたか、殿下」
俺はニヤリと笑った。
「……分かった。だがザック、無理はするなよ」
と、うなずくディオーネ。
「問題ありません」
微笑み交じりに答える俺。
「まったく……頼もしいな、お前は」
ディオーネは笑うと、騎士たちを連れて町中に消えていく。
「ああ、フィオ」
俺は別れ際に、彼に言った。
「殿下を頼むぞ」
万が一のために、な。
「――はい、俺が殿下を守ります」
フィオは真摯な表情でうなずき、去っていった。
「さあ、次で終わりだ」
俺は生き残った三体の魔族と、空に浮かぶザラディーザに向かって、ゆっくりと歩を進めた。
ツクヨミの解説で、この力の特性がまた一つ分かった。
相手に俺を『命令者』だと強く認識させる必要がある。
そして距離が近ければ近いほど、その効果は増す。
「……なんなのだ、貴様は……」
俺が近づくにつれて、ザラディーザの顔から余裕が消えていくのが分かった。
そして、それは残る三体の腹心たちも同じだ。
「たかが人間が、どうしてこれほどの力を……」
女剣士が震える声でつぶやく。
「うう、我らは栄えある【雷鳴六閃】だぞ……」
竜人が後ずさる。
「こんな得体の知れない奴に……」
魔術師の少女は顔を青くして、おびえていた。
全員、さっきまでの威勢はどこにもない。
「うろたえるな」
ザラディーザが腹心たちに言った。
「魔族としての矜持を見せよ。たかが人間一人に、我らが敗れることなど――断じてあり得ん!」
さすがに魔将軍だけあって腹心たちより肝が据わっているようだ。
「お前の力は魔法の類ではない。明らかに、そんなものを超越した力だ……」
ザラディーザは俺をにらみつけた。
「あまりにも得体が知れぬ。だが、いくつか気付いたことがある……」
「気付いたこと?」
ハッタリか? それとも――。
「貴様の力は万能ではない。発動には何らかの条件がある。それは――」
ヴンッ!
次の瞬間、ザラディーザと三体の魔族の姿がいきなり消え失せた。
「何……っ!?」
俺は思わず声を上げた。
「あいつら、空間転移で逃げたんだ!」
ツクヨミが叫ぶ。
「単純に考えるなら、態勢を立て直して奇襲を仕掛けてくるんじゃない?」
「正面から来てくれれば、すぐに俺の勝ちだったんだけどな……」
敵を目の前に捉え、命令を下す。
シンプル極まりないそれこそが、俺にとって最強の戦法だ。
だが、相手も簡単にそこには乗ってくれなかった。
人間相手に逃走するなど、仮にも魔将軍の地位にあるザラディーザからすれば屈辱だっただろうに、躊躇なくそれを選択した。
「勝利のためなら誇りも捨てる……手ごわそうだな」
俺はうなった。
「だが、俺が奴に命令を届けられる状況になれば、それで勝負は終わる」
「ザックからしたら、やるべきことは変わらないよね」
と、ツクヨミ。
そう、もう一度ザラディーザと対峙すること――。
そして、今度こそ俺の命令を叩きこんでやる。
「奴を探そう、ツクヨミ」
「うん、分かった!」
俺たちはうなずき合い、走り出した。
【読んでくださった方へのお願い】
日間ランキングに入るためには初動の★の入り方が非常に重要になります……! そのため、面白かった、続きが読みたい、と感じた方はブックマークや★で応援いただけると嬉しいです……!
ページ下部にある『ポイントを入れて作者を応援しましょう!』のところにある
☆☆☆☆☆をポチっと押すことで
★★★★★になり評価されます!
未評価の方もお気軽に、ぜひよろしくお願いします~!