10 絶望の襲来
俺とツクヨミが宿のロビーで食事を終え、部屋に戻ろうとした、その時だった。
どおおおおおおおおんっ……!
都市全体が、すさまじい地響きとともに揺れた。
「きゃっ」
ツクヨミが俺の腕にしがみつく。
周囲の客たちも何事かと騒ぎ始めた。
俺は窓の外に目を向けた。
カッ!
夜空が真っ昼間のように白く染まった。
直後、何条もの稲妻が降り注ぎ、町のあちこちが爆発する。
「これは――」
ただの雷じゃない。
俺の中の何かが――おそらく【上位存在】としての力が、異常な気配の接近を告げていた。
邪悪な気配の、接近を。
「行くぞ、ツクヨミ」
「おっけー」
軽い調子でうなずくツクヨミを伴い、俺は宿の外に出た。
「町が……!」
俺の目の前に広がる光景は、まさに地獄そのものだった。
破壊された城壁の向こうから、六体の異形の魔族が悠然と歩いてくる。
奴らが通った後には、騎士たちの亡骸が無数に転がっていた。
異変が起きてから、おそらくまだ数分――すでに都市の守りは完全に崩壊しているようだ。
俺は魔族たちに目を凝らした。
巨大な戦斧を振るう屈強な中年戦士。
常人には目で追えないほどの速さで駆け抜ける女剣士。
不気味な赤いローブをまとった魔術師の少女。
全身が鋼鉄でできた巨躯の魔人。
咆哮する竜人。
空には二つの頭を持つ巨大な怪鳥が飛んでいる。
いずれも、並の魔族とは比べ物にならない威圧感を放っていた。
この間の二体と同じか、それ以上――。
そのうちの一体、中年戦士の魔族が高らかに叫んだ。
「我らは【雷鳴六閃】! 栄えある魔将軍ザラディーザ様の腹心なり!」
「魔将軍……?」
俺は眉をひそめ、奴らの視線の先を見上げた。
そこには、ひときわ巨大な影が浮かんでいる。
三対六枚の翼を備えた高位魔族。
あれが、奴らの言う魔将軍ザラディーザなのだろう。
都市を襲った雷撃は、おそらくあいつの仕業だ。
「魔将軍が自ら出てきた――か」
勇者パーティにいたころ、セラたちが魔将軍の一人と戦うのを見たことがある。
パーティの戦闘要員の五人が総がかりでも互角の戦いだった。
いや、わずかに押されていたかもしれない
現状では、勇者たちの力をもってしても討つのは難しい――そのレベルの魔族である。
もちろん、この前戦った二人の高位魔族より格上だ。
「我が配下のラグーザとファイゼラを屠った者がこの町にいるはずだ。名乗り出るがいい――」
ザラディーザが威厳に満ちた声で告げた。
「ザック、あれ……」
隣でツクヨミが俺の服の袖を引いた。
「分かっている。行くぞ、ツクヨミ」
俺はツクヨミを伴い、奴らがいる広場へと歩を進めた。
俺たちは奴らの元までやって来た。
「町を焼くのはやめろ。俺が相手をしてやる」
と、言い放つ。
「高位魔族たちを殺したのは、この俺だ」
「ほう?」
ザラディーザは俺を見て、意外そうな顔をした。
「なんの変哲もない凡庸な男に見える……が、我が部下たちを殺したからには、ただ者ではあるまい」
と、
「ザック、無事か!」
ディオーネがフィオをはじめとする騎士たちを率いて駆けつけた。
「あいつは――」
「魔将軍ザラディーザと、その腹心の【雷鳴六閃】だと名乗っています」
俺が答えた。
「ザラディーザだと……!? まさか、腹心の六人とともに、たった一日でリジュ公国の国土の半分を焼き払ったという、あの雷鳴の魔将軍か……!?」
ディオーネは戦慄した様子でザラディーザたちを見る。
「とてつもない脅威だ……我がメルディアの全軍を挙げて対処する必要がある――」
「手ごわい敵のようです。私が相手をしますので、ディオーネ様たちは住民の救助をお願いできますか?」
「しかし、相手は魔将軍と腹心だぞ? いくらお前でも、たった一人で――」
「だからこそ、です。巻き添えを出したくありません」
俺はきっぱりと言った。
「……そちらの少女は?」
と、ディオーネの視線がツクヨミに向けられた。
「彼女は――俺の相棒です。俺の能力を補助してくれます」
「その気配……人間ではなく精霊の類か?」
「まあ、そんなところで……」
眉を寄せてたずねるディオーネに、俺は言葉を濁して答えた。
「とにかく、私にお任せください。ディオーネ様たちは早く救助を」
俺は彼女を急かした。
と、
「――ザラディーザ様、ここは我らが」
【雷鳴六閃】が俺たちの前に進み出た。
「将軍閣下が自らお相手するほどの者ではなさそうです」
女剣士が嘲るように言った。
「――油断はするなよ」
ザラディーザはそう忠告すると、腕を組み、空中で静観する構えを取った。
「我らが人間ごときに後れを取るとでも?」
「いかにザラディーザ様のお言葉とはいえ、聞き捨てなりませんね」
「あたしたちが六人で戦うまでもないです」
「いや、一人ですら余る。俺たちがこんなオッサンを相手にするなど」
「屈辱だ。だが、こいつがラグーザとファイゼラを倒したということなら――」
「全力で殺す必要がある」
六体は口々に俺を侮り、同時に殺意をみなぎらせた。
「油断をするな、とそっちの魔将軍がせっかく忠告してくれたのにな」
俺は六体を順番に見回し、
――自らの力で滅びろ。
『意志』を込めた。
どんっ!
次の瞬間、爆音が響き渡る。
【雷鳴六閃】のうち、前に出ていた中年戦士、鋼鉄の巨人、そして怪鳥の三体が、内側から弾けるようにして砕け散った。
もちろん、即死だ。
「……何?」
静観していたザラディーザが、わずかに目を見開いた。
生き残った竜人、女剣士、魔術師の少女は、目の前で起きたことが信じられないといった様子で呆然としている。
「な、なんだ、貴様――」
「い、今、何をしたの……!?」
「ど、どうして、三人が……一瞬で……!?」
三者三様の驚愕と混乱の声が上がった。
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