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傭兵アカデミー  作者: 一ノ宮ことね
28/30

第28話《記録なき英雄》

1.廃墟の始業


アカデミーの建物の半分は、未だ瓦礫に埋もれていた。


だが、再建は始まっていた。


朝の号令が鳴る。

教官陣と学生たちが、仮設棟に集まる。


「……これより、アカデミー再開を宣言する」


イグチ主任の声に、どよめきが走る。


「壊れたのは建物だ。教えは、心に残っている」


学生たちの顔に、誇りが戻っていた。


2.レンの選択


講堂の裏で、レンは神堂理事長と再び対峙していた。


「君の記録は、もう“存在しない”。記録官によって消去された」


「つまり、俺は……」


「──自由だ。過去に縛られることも、国家に監視されることもない」


「それは、本当に自由なのか?」


「“英雄”に名前はいらん。だが“人”として生きたいなら、選べ」


レンは一歩踏み出した。


「だったら、俺は“名前のある生き方”を選ぶ」


3.記録官エルとの契約


寮の中庭で、セナとレンが並んで座っていた。


「記録を持たないあなたを、私の“記録”にするわ」


「記録官が、自分の意志で記録を紡ぐなんて……前例はあるのか?」


「いいえ。でも、前例がないなら作ればいい。だって、あなたが私の最初で、最後の記録」


レンは短く笑った。


「……それは、なかなか重い契約だな」


「うん。でも、ちゃんと記録する。あなたが“人間として生きた証”を」


4.新たな敵影


その夜。

国際ネットワークに突如現れた“黒のコード”が、各国の記録システムに侵入していた。


《ERROR:抹消されたはずの記録──NO.099“リヒト”存在確認》


《観測不能領域にて活動中》


監視モニターの前で、ひとりの男が笑った。


「おかえり、“記録兵器”」


その名は──アダム・シュバルツ。

かつてリヒトを“実験体”として作り上げた、もう一人の“記録者”。


5.夜の訓練


アカデミーの射撃場。

レンが一人、静かに銃を手入れしていた。


「自由ってのは、意外と重いな」


「だから、背負ってくれる誰かがいるんだよ」


振り返ると、そこには風見教官。


「お前はまだ、成長途中だ。英雄でも化物でもない、一人の“少年”だ」


「……そう見えるか」


「見えるさ。俺たちがそう教えた」


夜風が吹く。

新たな物語の始まりを告げるように。


6.記録なき英雄


夜の見回りを終えたレンが、ふと星空を見上げた。


「俺は、もう名前で呼ばれてもいいんだろうか」


背後からセナの声がする。


「じゃあ、呼ぶわよ──“レン”」


その言葉に、彼は初めて穏やかに笑った。


過去の記録が消えた今。

新たな記録は、彼自身が作るもの。


──英雄とは、記録に残らない時もある。


だが、その生き様は、確かに誰かの心に刻まれる。





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