第28話《記録なき英雄》
1.廃墟の始業
アカデミーの建物の半分は、未だ瓦礫に埋もれていた。
だが、再建は始まっていた。
朝の号令が鳴る。
教官陣と学生たちが、仮設棟に集まる。
「……これより、アカデミー再開を宣言する」
イグチ主任の声に、どよめきが走る。
「壊れたのは建物だ。教えは、心に残っている」
学生たちの顔に、誇りが戻っていた。
2.レンの選択
講堂の裏で、レンは神堂理事長と再び対峙していた。
「君の記録は、もう“存在しない”。記録官によって消去された」
「つまり、俺は……」
「──自由だ。過去に縛られることも、国家に監視されることもない」
「それは、本当に自由なのか?」
「“英雄”に名前はいらん。だが“人”として生きたいなら、選べ」
レンは一歩踏み出した。
「だったら、俺は“名前のある生き方”を選ぶ」
3.記録官エルとの契約
寮の中庭で、セナとレンが並んで座っていた。
「記録を持たないあなたを、私の“記録”にするわ」
「記録官が、自分の意志で記録を紡ぐなんて……前例はあるのか?」
「いいえ。でも、前例がないなら作ればいい。だって、あなたが私の最初で、最後の記録」
レンは短く笑った。
「……それは、なかなか重い契約だな」
「うん。でも、ちゃんと記録する。あなたが“人間として生きた証”を」
4.新たな敵影
その夜。
国際ネットワークに突如現れた“黒のコード”が、各国の記録システムに侵入していた。
《ERROR:抹消されたはずの記録──NO.099“リヒト”存在確認》
《観測不能領域にて活動中》
監視モニターの前で、ひとりの男が笑った。
「おかえり、“記録兵器”」
その名は──アダム・シュバルツ。
かつてリヒトを“実験体”として作り上げた、もう一人の“記録者”。
5.夜の訓練
アカデミーの射撃場。
レンが一人、静かに銃を手入れしていた。
「自由ってのは、意外と重いな」
「だから、背負ってくれる誰かがいるんだよ」
振り返ると、そこには風見教官。
「お前はまだ、成長途中だ。英雄でも化物でもない、一人の“少年”だ」
「……そう見えるか」
「見えるさ。俺たちがそう教えた」
夜風が吹く。
新たな物語の始まりを告げるように。
6.記録なき英雄
夜の見回りを終えたレンが、ふと星空を見上げた。
「俺は、もう名前で呼ばれてもいいんだろうか」
背後からセナの声がする。
「じゃあ、呼ぶわよ──“レン”」
その言葉に、彼は初めて穏やかに笑った。
過去の記録が消えた今。
新たな記録は、彼自身が作るもの。
──英雄とは、記録に残らない時もある。
だが、その生き様は、確かに誰かの心に刻まれる。




