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傭兵アカデミー  作者: 一ノ宮ことね
24/30

第24話《夜と名を持つ者》

1.沈黙の空港跡地


廃棄された地方空港の滑走路に、黒い影がひとつ降り立った。


観測者・抹殺部隊《黒曜》所属。

コードネーム《ヨル》。


彼は人間ではない。

あるいは人間であることをやめた者。


「ターゲット・コード“リヒト”──記録の逸脱因子。抹殺を開始する」


無線に向かって、冷淡に告げる。

その声は、まるで感情という機能を削除されたプログラムのようだった。



2.警告


アカデミーの本部棟。

主任教官イグチのもとに、一通の暗号化通信が届いた。


「観測者側が動いたか……」


彼の背後に立つ神堂理事長は、静かに目を細める。


「ターゲットを“生かす”場合、正面衝突は避けられんぞ」


「承知しています。ですが──我々には、九条レンという希望がある」


「希望か。……あるいは引き金かもな」


神堂は静かに席を立つ。


「“抹殺者”を迎える準備をしておけ。アカデミーが試される」



3.侵入


深夜。

寮のセキュリティシステムが一瞬、沈黙した。


その隙を突いて、滑るように影が校舎へ入り込む。


ヨル。


彼は血の通った者には不可能な角度で首を傾け、室内を確認する。


「記録の匂い……確かにここだ」


彼が足を踏み入れたのは、九条レンの部屋。

だがそこに、レンはいなかった。


代わりに──


「“人の記録”に、触れていいの?」


後ろから、セナの声。



4.エルの干渉


ヨルが振り返る。

その瞳に、人間の感情はない。


「貴女は、記録官《EL》。解析済み」


「だったら、わかるはずよ。リヒトは“記録”なんて、もう求めてない」


「求めなくても、彼は“記録を揺るがす存在”だ。存在そのものが改ざん因子」


セナは息をのむ。

だが──その目は、揺らがない。


「それでも、彼は“私”にとって、ただの……レン、なの」


ヨルの目が、わずかに細まった。


「理解不能。処理対象を変更……君も含めて、削除する」



5.夜の戦場


アラームが鳴る。

アカデミー全体が緊急モードに突入。


──そして、レンが駆けつけた。


廊下の奥、黒い影と向かい合うセナ。


「……その女から、離れろ」


レンの声は低く、しかし確かだった。


ヨルはレンに顔を向けた。


「確認完了。対象・リヒト──確定。殺害プログラム起動」


次の瞬間、床が爆ぜた。


──戦場が、始まった。


レンは弾丸を避けながら接近。

だがヨルの動きは異常だった。重力を無視したような反応速度。


「なんだ、こいつ……!」


「解析不能。対象に“記録外”能力あり。危険因子レベルA」


ヨルが発光する。


「……これが“夜”の力だ」



6.刃と記録


交差する刃と銃弾。


レンの体は傷つきながらも、一歩も引かない。


──誰かを守る戦い。


それは、彼にとって初めてのことだった。


「セナ、お前は逃げろ」


「いやよ。だって私は、あなたの“記録官”なんだから」


「……バカ」


そう呟いて、レンは最後の一撃に踏み込んだ。


拳と刃が交わるその瞬間、セナが叫ぶ。


「“記録、更新──対象:リヒト。状態──『誰かを守る者』”」


その言葉が、ヨルの動きを一瞬止めた。


記録官の宣言。


──それは、観測者にとって絶対的な改ざん命令。


そして次の瞬間、レンの拳がヨルを打ち抜いた。



7.静寂の後で


ヨルは動かなくなった。

だが、その肉体は煙のように崩れ始めていた。


「自壊プログラム……!?」


セナが駆け寄る。


「記録官が更新したから……彼は、存在理由を失ったのよ」


レンは黙って空を見上げた。


星のない夜。


だが、彼の心には、ひとつだけ光が灯っていた。


「……俺は、誰かを守れる人間でいたい」


その願いが、確かに世界の“記録”を、変えはじめていた。


──次回、《反撃の狼煙》。

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