第24話《夜と名を持つ者》
1.沈黙の空港跡地
廃棄された地方空港の滑走路に、黒い影がひとつ降り立った。
観測者・抹殺部隊《黒曜》所属。
コードネーム《ヨル》。
彼は人間ではない。
あるいは人間であることをやめた者。
「ターゲット・コード“リヒト”──記録の逸脱因子。抹殺を開始する」
無線に向かって、冷淡に告げる。
その声は、まるで感情という機能を削除されたプログラムのようだった。
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2.警告
アカデミーの本部棟。
主任教官イグチのもとに、一通の暗号化通信が届いた。
「観測者側が動いたか……」
彼の背後に立つ神堂理事長は、静かに目を細める。
「ターゲットを“生かす”場合、正面衝突は避けられんぞ」
「承知しています。ですが──我々には、九条レンという希望がある」
「希望か。……あるいは引き金かもな」
神堂は静かに席を立つ。
「“抹殺者”を迎える準備をしておけ。アカデミーが試される」
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3.侵入
深夜。
寮のセキュリティシステムが一瞬、沈黙した。
その隙を突いて、滑るように影が校舎へ入り込む。
ヨル。
彼は血の通った者には不可能な角度で首を傾け、室内を確認する。
「記録の匂い……確かにここだ」
彼が足を踏み入れたのは、九条レンの部屋。
だがそこに、レンはいなかった。
代わりに──
「“人の記録”に、触れていいの?」
後ろから、セナの声。
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4.エルの干渉
ヨルが振り返る。
その瞳に、人間の感情はない。
「貴女は、記録官《EL》。解析済み」
「だったら、わかるはずよ。リヒトは“記録”なんて、もう求めてない」
「求めなくても、彼は“記録を揺るがす存在”だ。存在そのものが改ざん因子」
セナは息をのむ。
だが──その目は、揺らがない。
「それでも、彼は“私”にとって、ただの……レン、なの」
ヨルの目が、わずかに細まった。
「理解不能。処理対象を変更……君も含めて、削除する」
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5.夜の戦場
アラームが鳴る。
アカデミー全体が緊急モードに突入。
──そして、レンが駆けつけた。
廊下の奥、黒い影と向かい合うセナ。
「……その女から、離れろ」
レンの声は低く、しかし確かだった。
ヨルはレンに顔を向けた。
「確認完了。対象・リヒト──確定。殺害プログラム起動」
次の瞬間、床が爆ぜた。
──戦場が、始まった。
レンは弾丸を避けながら接近。
だがヨルの動きは異常だった。重力を無視したような反応速度。
「なんだ、こいつ……!」
「解析不能。対象に“記録外”能力あり。危険因子レベルA」
ヨルが発光する。
「……これが“夜”の力だ」
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6.刃と記録
交差する刃と銃弾。
レンの体は傷つきながらも、一歩も引かない。
──誰かを守る戦い。
それは、彼にとって初めてのことだった。
「セナ、お前は逃げろ」
「いやよ。だって私は、あなたの“記録官”なんだから」
「……バカ」
そう呟いて、レンは最後の一撃に踏み込んだ。
拳と刃が交わるその瞬間、セナが叫ぶ。
「“記録、更新──対象:リヒト。状態──『誰かを守る者』”」
その言葉が、ヨルの動きを一瞬止めた。
記録官の宣言。
──それは、観測者にとって絶対的な改ざん命令。
そして次の瞬間、レンの拳がヨルを打ち抜いた。
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7.静寂の後で
ヨルは動かなくなった。
だが、その肉体は煙のように崩れ始めていた。
「自壊プログラム……!?」
セナが駆け寄る。
「記録官が更新したから……彼は、存在理由を失ったのよ」
レンは黙って空を見上げた。
星のない夜。
だが、彼の心には、ひとつだけ光が灯っていた。
「……俺は、誰かを守れる人間でいたい」
その願いが、確かに世界の“記録”を、変えはじめていた。
──次回、《反撃の狼煙》。




