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傭兵アカデミー  作者: 一ノ宮ことね
22/30

第22話《鍵と箱》

1.開かれた扉


セナは、その日も資料室にいた。


いつもは閉ざされた“記録保管庫”。だが、今日は鍵が開いていた。

扉の奥には、鉄製のキャビネットと数台の旧式モニターが設置されている。


その中央、ひときわ異質な“箱”が置かれていた。


──錠前がついた、漆黒の金属製ボックス。


「……呼ばれてる?」


セナの指先が、自然と箱へと伸びる。

触れた瞬間、低く唸るような音が鳴った。


“記録官、識別完了──開封を許可”


機械的な声が脳に響く。


(なんで……私にこんなことが)


ふたを開けた瞬間、記憶の波がセナを襲った。



2.記録官・エル


白い部屋。無数のスクリーン。

その中心で、少女──エル──は座っていた。


「世界は、誰かが記録しなければ、何も残らない」

「改ざんされた過去は、未来の殺人と変わらない」


エルの言葉が、セナの心に重く響く。


(これが……“私”?)


記録官エルは、観測者によって造られた“観察と記録”の権限を持つ存在。

その任務は、戦争で消されゆく“真実”を保管し、決して歪めないことだった。


だが、エルは逃げた。

観測者の手を離れ、記憶の箱を封印し、自らを“セナ”という存在に書き換えた。



3.彼の声


セナが目を覚ますと、箱の中には古びたUSBのようなデバイスが入っていた。


『R-00X-001──九条リヒト』と刻まれた名札。


その瞬間、セナの脳裏に映像が流れ込んだ。


──少年が泣いている。焼け跡の村。

──銃声。血。

──名もなき小隊。倒れていく仲間たち。


そして、ひとりだけ立ち上がる少年。


「名前なんていらない。俺は、生きるためだけにここにいる」


レン──いや、リヒトの過去だった。


セナは手を震わせた。


「……全部、消される前に。記録しなきゃ」



4.神堂の決断


一方、地下の理事長室では、神堂蓮司が密談を行っていた。

相手は元・観測者ネットワークの協力者、通称“影使い”。


「計画を進めろ。観測者どもが記録を操作している以上、我々の“正史”は守られない」


「つまり……抹消する、と?」


「“彼ら”が全てをコントロールしようとするなら、

こちらは“真実”を暴露してやればいい」


神堂の目が鋭く光る。


「戦争を知っている者が、未来を決める。それがこのアカデミーの存在理由だ」



5.レンの迷い


その夜、レンは屋上でひとり、空を見上げていた。


ポケットには、小さな録音端末。

セナから渡された、“過去の自分”の声が記録されたものだった。


──『お前は、名乗るな。名を持つと、情が生まれる』


──『情を持てば、迷う。迷えば、死ぬ』


録音はそこで切れていた。


レンは端末を握りしめる。


「……名乗ることが、そんなに怖かったのか」


自分は、いったい誰なのか。

“名前”とは、何を意味するのか。


その問いが、彼の中で静かに揺れていた。



6.次なる動き


翌日。

アカデミー外部の統合軍本部では、

ある作戦名が秘密裏に通達されていた。


《Project VESSEL(器)》


その目的は、「記録官セナの再起動と、記録改ざん者の処分」


対象には、既に“九条レン”の名前も記されていた。


そして、その命令書の最下段には、

見覚えのあるサインがあった。


──クラウス・ハルト


“再び、記録の裁定が下る時が来た”


物語は、“記録”を巡る決戦へと向かい始める──。

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