表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傭兵アカデミー  作者: 一ノ宮ことね
21/30

第21話《記録の番人》

1.再会


訓練棟の第7フィールド。

夕刻の空が赤く染まる中、一人の青年が待っていた。


クラウス・ハルト──国家統合軍「灰の部隊」に所属していた男。

かつて“リヒト”と名乗っていたレンと、生死を共にした戦友でもある。


扉が開く。


「……呼び出したのは、お前か」


足音を鳴らして現れたのは、九条レン。

その目は、変わらず静かなまま。


「変わってないな、お前は」

「そっちは、誰だ?」


問いに対し、クラウスはわずかに口角を上げた。


「“灰の番犬”さ。お前が死んだと思っていた時代の残骸だよ」


レンは一歩、近づく。


「クラウス──なぜ今、現れた」


「確認しに来た。お前が“本当に”戻ってきたのか、

それとも──別人になったのかを」



2.試す者、試される者


クラウスは、訓練場の銃器を手に取り、レンに差し出す。


「一発だけの模擬戦だ。撃たなくてもいい。撃ちたければ撃て」


レンは銃を受け取り、静かに構えた。


「記録はもう、残さないのか」


「──記録なんて、必要な奴にしか意味はない」


クラウスの瞳に、一瞬、何かが宿る。


「お前は、まだ“名前”で迷ってるんだな」


引き金が引かれる。

しかし銃声は鳴らず、セーフティがかかったままだった。


「……それが答えか」


クラウスは笑った。


「よかったよ、“リヒト”じゃない」

「お前は、ようやく“九条レン”になったんだな」



3.灰の任務


その夜、クラウスはイグチと対面していた。


「見届けたか?」


「ああ。彼はもう“戻らない”。あの地獄に縛られたままじゃない」


イグチは黙って資料をめくる。


「だが、“記録の番人”は別件だ。クラウス、次の任務がある」


「また記録回収か?」


「否、“改ざん”だ」


クラウスの眉が動いた。


「中東で失踪した民間人が、国家機関によって再教育された痕跡がある」


「つまり、九条の“空白の7年”……」


「それを帳消しにする書き換えが、始まっている」



4.セナと“番人”


翌朝、セナは図書棟の資料室である一冊のファイルを手にしていた。


『観測記録・旧東域戦線 第Ⅲ編』


それは閲覧制限のある記録文書。

しかし、セナにはなぜか中身が読めた。


(……なんで、これが)


「それは“番人”にしか開けない」


不意に背後から声がした。


セナが振り返ると、そこにはスーツ姿の風見が立っていた。


「君の中には、かつて“記録官”としての役割が埋め込まれていた」


「私が……?」


「記憶を奪われた、もう一つの君──“エル”の中枢機能だ」


セナはその名を聞いて、ふっと胸を押さえた。


「……何をされていたの、私は」


「記録すること。そして、改ざんを許さないこと。

世界を“残すため”に存在していた。それが君の役割だった」



5.消されゆくものたち


その頃、地下のモニタールーム。

観測者たちは、古い映像を次々と消去していた。


「接触済み記録:削除完了」

「灰の部隊:影響なし。続行可能」

「九条レンの“出自”関連:上書き中」


液晶に映る、幼い少年の映像。

記録番号“R-00X-001”。


「この世界から、“彼”を消去する準備が整いつつある」

「この先は、レン自身が記録者となるか、消去対象となるか」


「運命は、彼自身の“選択”に委ねられる」



6.予兆の声


夜、レンは再び夢を見る。


廃墟の中、銃を構えた少年。

自分と同じ顔。


そして、どこかで見たことのある少女の手を取って、振り返る。


「リヒト、もう逃げよう」


その声は、かつて“家族”と呼ばれた誰かのものだった。


「……無理だよ。俺たちは、選ばれた」


夢が消える直前、彼の耳元でささやく声。


「君が、記録を選ぶなら──私は、真実を隠す」


目覚めたレンの目に、かすかな涙が浮かんでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ