第20話《青と灰の狭間》
1.残響の記憶
任務からの帰還から三日。
セナは寮の自室で静かに目を閉じていた。
──夢の中。
廃墟のような空間で、自分ではない自分が、銃を構えていた。
「動くな」
「……やめて、撃たないで」
声が、誰かのものと重なって聞こえる。
──パァン。
銃声とともに、世界が割れる。
セナは跳ね起きた。
額には汗。
そして、心臓が早鐘のように打っていた。
(……私、あれ、知ってる)
(あの子……“私”だった?)
ベッドサイドには、保護者欄に「九条レン」と書かれた登録端末。
「……行かなきゃ」
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2.レンの疑問
同じ頃、レンは訓練場の一角にいた。
日課の射撃調整をしながら、ふと銃口を見つめる。
(あれは……選べた選択だったのか?)
殺さなかった。
だが、殺せば全てが終わっていた。
あの観測者は、生きている。
(いつか、また誰かが傷つくかもしれない)
引き金にかかる指先。
その瞬間、背後から声がした。
「……おはよう」
振り返ると、セナがそこにいた。
「少し……話せる?」
レンは頷いた。
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3.過去と向き合う
セナとレンは中庭のベンチに腰掛けた。
木漏れ日が、静かに落ちる。
「夢を見たの。多分、昔の記憶」
セナはそう告げた。
「誰かに銃を向けて、撃とうとしてた。でも、その相手は──私だった」
レンは黙って聞いていた。
「もう一人の“私”が、何かを守ろうとしていた気がする。だけど……わからないの」
「じゃあ、わかるまで探せばいい」
レンの言葉は、単純で力強かった。
「誰に何をされたか、どう生きてきたか。それが自分を形作る」
セナは、わずかに目を伏せた。
「……ありがとう」
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4.灰色の再会
その日の夕方。
本部棟裏の搬入口に、一人の青年が姿を現した。
灰色の軍服、銀のバッジ。
イグチが迎えに出る。
「久しいな、クラウス・ハルト」
「こちらこそ。アカデミーには……6年ぶりか」
「国家統合軍──灰の部隊にいたと聞いているが、今さら戻ってどうする」
クラウスは微笑んだ。
「“あいつ”がここにいると聞いた」
「九条か」
「──いや、“リヒト”だ」
イグチの目が細くなる。
「忘れた方が、幸せな名前だ」
「だとしても。あいつがどこまで変わったのか、確かめに来た」
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5.観測者の動き
一方その頃、観測者たちは別の視点から事態を注視していた。
「灰の部隊が動いた」
「接触は避けられない」
「ならば──“連結”を開始する」
幾重にも重なった声が、廃棄ビルの中に響く。
その中央、浮かぶ無数の端末と映像。
そこには、レンの顔が鮮明に映っていた。
「“選び続ける者”は、どこに行き着くのか」
「この世界は、記録と選択の連鎖で出来ている」
「いずれ、彼は“記録の改ざん者”として──世界と対峙することになる」
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6.次なる予兆
夜。寮の一室で、レンは久々に深く眠っていた。
だが、夢の中。
──また、あの戦場。
──また、あの名前。
「リヒト──!」
目を覚ました彼の目には、揺れる光と、もう一人の“自分”が映っていた。
(俺は──誰なんだ)




