第19話《彼の選択》
1.再びの呼び出し
翌朝、レンは指導教官イグチに呼び出された。
場所は、本部棟地下の戦術研究室──普段は使用されていない極秘の区画だ。
「来たか、九条」
「……ここで何を?」
「任務だ。模擬ではない、本物の任務だ」
レンはわずかに表情を動かす。
「相手は?」
イグチは無言でタブレットを渡す。
映っていたのは、街中の監視映像。
──セナが誰かに連れ去られる瞬間だった。
「“実験”を仕掛けてきたな、観測者どもが」
「……なんで、彼女を?」
「“お前の選択”を測っている。国家も、あの連中も」
レンは無言でタブレットを見つめる。
その目が、鋼のように静かに冷えていった。
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2.風見の警告
アカデミー近郊の監視センター。
風見は神堂に詰め寄っていた。
「理事長──これは明らかな越権行為です。未成年を“囮”に使うなど!」
「彼女は“記録改変体”。観測対象であり、同時に引き金でもある」
「九条レンが“超える”瞬間を仕掛けたというわけですか」
神堂は一度だけ頷いた。
「お前も見ただろう。あの少年には“選ばせる”しかない。
何を守り、何を壊すかを」
風見は唇を噛んだ。
「……彼が“人間”のまま帰ってくる保証はあるのか」
神堂の答えは、静かな沈黙だった。
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3.選ばされた戦場
誘拐されたセナは、廃棄された実験場に拘束されていた。
暗闇の中、仮面の観測者が告げる。
「君の存在が“彼”を定義する。今から、その確認を行う」
──爆音とともに、建物の一角が吹き飛ぶ。
「……やっぱり、いたか」
瓦礫の中から、レンが現れる。
その背には武装装置。
そして、その手には──実弾仕様のカスタムM1911。
「返してもらおうか、俺の“大切なもの”を」
観測者は軽く笑った。
「自分のためか? それとも、彼女のためか?」
「関係ない。ただ──壊されたくないものがある、それだけだ」
その瞬間、引き金が引かれる。
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4.抑えられた殺意
レンは、敵の急所を外して撃った。
銃弾は肩を貫き、観測者の仮面が砕ける。
「……甘いな。殺しに来たんじゃないのか」
「“殺せば勝ち”じゃない。俺は、俺のやり方で戦う」
セナを拘束していた機械装置を破壊し、レンは彼女を抱き起こす。
「……無事でよかった」
彼女は、まだ目を覚まさない。
だが、その胸は静かに上下している。
“あの時と同じだ”
──昔、炎の中から少女を救った。
──同じように、何も奪わせたくなかった。
(俺は……)
「もう誰も、失いたくない」
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5.帰還と報告
任務から戻ったレンは、報告書の提出を求められた。
教官室で、それを受け取ったのは風見だった。
「……一人で、やったのか?」
「はい」
「殺しは?」
「していません」
「理由は?」
「殺さなくても、“守れた”からです」
風見は少しだけ口角を上げた。
「それなら──君は、まだ人間だ」
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6.彼の選択
夜、レンは屋上にいた。
風が吹いている。
空を見上げて、レンはひとり呟いた。
「俺が何を選んだのかは、まだわからない。
でも、守りたいと思ったことだけは──嘘じゃない」
その時、背後から小さな声がした。
「……ありがとう」
振り返れば、そこにセナがいた。
「迎えに来てくれて、ありがとう」
彼女の笑顔が、すべてを救った気がした。
レンは目を伏せ、力なく笑った。
(もう一度、選んでよかったと思えるなら……)
「明日も、生きよう」




