第18話《双子の夜》
1.仮面の裏
市街訓練区を撤収した仮面の人物は、監視棟の奥で装束を脱いだ。
姿を現したのは、切れ長の目を持つ若い女だった。
「……やはり“目覚め”つつある」
彼女の声は、冷静でありながら、どこか哀しみに濡れていた。
部屋の隅、無線端末が点滅する。
『次の観測は“彼女”のほうだ。コード名《セナ=エル》──“対”が揃えば、器は完成する』
女はゆっくりと、血のついた手袋を外した。
「双子の夜、ね……」
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2.目覚め
セナは医務室で目を覚ました。
しかし、レンと再会したとき──その瞳の色が違っていた。
「君……誰だ?」
「コードネーム《エル》。君とは以前、会っている」
その口調は、今までのセナとは明らかに異なる。
レンは一瞬、視線を逸らしかけたが、すぐに睨み返す。
「何者だ、お前は」
「“セナ”の人格は一時的に眠っている。私は、観測者によって造られた片割れ。もう一人の彼女──
記録に干渉する存在」
レンの中で、かすかな記憶が疼く。
──あの砂漠の夜。
──命令に背いて救った少女。
──瞳の奥で泣いていた“誰か”。
(まさか……)
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3.隠された過去
神堂の執務室。
風見監査官が映像データを持ち込んでいた。
「理事長。コード《セナ=エル》の存在、国家記録には存在しません」
「当然だ。“記録に干渉する”存在を、公にはできん」
「……レンと彼女が“同時期”に中東戦域で接触していた記録も」
神堂は無言で頷いた。
「“再会”させるために、我々は舞台を用意した。それだけの話だ」
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4.実験体の邂逅
医務棟の個室。
レンは椅子に座ったまま、ベッドのセナ(エル)と向き合っていた。
「君は……覚えてるのか?あの時、俺がお前を──」
「救ってくれた。あれが、私にとって最初の“記録の破綻”だった」
エルはうっすらと微笑んだ。
それは、どこかセナにも似ていた。
「記録にない行動が、私の中に“心”を生んだ。だから、今こうしてあなたに会いに来た」
「セナは──」
「眠ってるだけ。でも、すぐ戻る。あなたが、彼女を呼べば」
レンは息をのんだ。
まるで告白のようなその言葉に、胸の奥が妙に熱くなる。
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5.眼差し
数時間後、再び目を覚ましたセナは、普段どおりの彼女に戻っていた。
ただ、その目にはどこか“名残”のようなものがあった。
「……レンくん、私、なんか変な夢を見た気がする」
「……そうか」
彼は微笑みながらも、その眼差しの奥で何かを確かめていた。
“同じ瞳だ”
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6.観測者たちの会議
その夜。
観測者たちの会議が開かれていた。
「器の覚醒、第二段階に入った。人格統合は進行中」
「次の段階では、セナを“囮”にしてレンの最深部に干渉する」
「このまま進めば、《双子の器》は完成する」
誰かが言った。
「その時、少年は“人”をやめるだろう」
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7.雨音の中で
レンは夜の校庭で一人、ベンチに座っていた。
(あいつは、本当に……)
自分が何を守ろうとしているのか、まだわからない。
だが、確かに今、何かを守りたいと思っている自分がいる。
それが、希望の始まりかもしれなかった。




