第16話《白と黒の記録》
1.監査官の影
内務監査官・風見仁は、アカデミーのデータベースルームにいた。
静かに、しかし冷徹な手つきで端末を操作している。
「九条レン──君の過去、掘れば掘るほど、何も出てこないな」
事故記録、戸籍、医療データ。
すべて“適切に処理”されていた。
「痕跡を消すというのは、国家の常套手段……だが」
ふと、ある映像ファイルが再生された。
荒れ果てた都市の衛星映像、その中で、子供と思われる影が武装勢力と交戦していた。
──背格好、動き、武装。
「これは……彼か」
2.セナの揺らぎ
一方その頃、セナは学園内の医務室で“定期検査”を受けていた。
「また貧血気味ですね。睡眠は?」
「……あまり、ちゃんと寝てなくて」
夢を見るのだ。
どこか知らない場所で、火の中に立ち尽くす夢。
燃える影、泣き叫ぶ声、自分の手が血に染まっている。
(私は……誰かを……)
「セナさん?」
「──ごめんなさい、大丈夫です」
自分の中に何か“欠けた記憶”があると、彼女は感じていた。
3.レンの自習
図書棟の地下、射撃シミュレータ室。
誰もいないそこに、レンの銃声が響いていた。
彼は黙々と、データ付きの標的を撃ち抜いていく。
速度、精度、冷静さ。
(クレイン……あれで良かったのか)
過去を殺した夜から、心に“空白”ができていた。
だがそれを埋める方法は、今も見つからない。
そんな彼の背後に、ふと誰かの気配が落ちる。
「君、何者なんだろうね」
振り返ると、そこにいたのは風見仁だった。
4.白と黒の記録
「これは、君の写真だ」
風見が見せたのは、砂漠地帯で銃を構える少年の画像だった。
顔はぼやけているが、目と姿勢がレンと酷似していた。
「これは8年前、某国の内戦映像に偶然映った一コマだ。正体は不明。だが──君にそっくりだ」
「……で、それが何だ」
「君の存在は、すでに『記録』として国家に把握されているということだ」
「殺すつもりか?」
風見は笑わなかった。
「──“利用”するつもりだよ」
5.セナの予感
その夜。
セナはふと寮の廊下で立ち止まった。
胸がざわつく。
(レン……)
彼の存在が、何か大きなものに巻き込まれようとしている気がした。
何が正しいか、誰が敵か。
そんなものは曖昧で。
ただ一つ確かなのは。
彼が、また“壊れてしまう”かもしれないという直感。
「──私が、いる」
呟いた言葉が、夜の闇に静かに吸い込まれていった。




