第14話《観測者》
1.静寂の前触れ
夜明け前の学園。
誰もいない中庭に、黒いフードの人物が立っていた。
白い花弁を指先で転がしながら、その者は呟く。
「“器”は整いつつある……問題は、彼がどちらへ傾くか」
それは、ウィスパラーの“観測者”と呼ばれる者だった。
2.セナの気づき
レンと話した翌日、セナはぼんやりとした不安を抱えていた。
「なんだろう……あの笑顔、初めて見るのに……怖い」
教室でノートを取るレンの横顔。
その無垢な表情に、言いようのない違和感があった。
(彼が“普通”であろうとすればするほど、何かが揺らぐ)
放課後、セナは人気のない廊下で白い花を見つける。
「……これ、あの夜と同じ」
見つめていると、背後から声がした。
「それは、選ばれた者にしか見つけられない花だ」
振り向くと、そこには知らない青年がいた。
黒髪に灰色の目。感情の読めない表情。
「君は……誰?」
「ただの観測者だよ、セナ・アラタ。君を“見に来た”」
その言葉に、セナは凍りついた。
3.ウィスパラーの提案
セナが保健室に駆け込んだ直後、レンもそれを察知した。
「何かあったのか?」
「……変な人がいたの。私のこと、知ってて」
レンの瞳が一瞬だけ鋭くなった。
「そいつ、どんな声だった?」
「……静かだけど、響く声。まるで……夢の中みたいで」
レンはすぐさま教官室へ向かう。
斎木に報告すると、彼の眉が僅かに動いた。
「……ウィスパラーか。予想より早い」
「知ってるんですか」
「“囁く者”──思想の伝播を主とする、精神干渉型の組織だ。
目的は不明。だが、接触されたなら、次は引き込まれる」
レンは拳を握った。
「……させません」
4.神堂の呼び出し
その夜、レンは神堂理事長に呼び出される。
「ウィスパラーが動いた。……君を試しているな」
「俺を、ですか?」
「そう。“器”としての完成度を」
神堂は書類を一枚差し出す。
そこにはセナの出生記録が。
「彼女はただの庶民ではない。君にとって、失ってはならない存在だ。
だが──それを理解した瞬間から、君は“戦士”ではいられなくなる」
レンは黙ってファイルを返した。
「……それでも、守ると決めました」
神堂は薄く笑った。
「ならば進め。壊される覚悟を持て」
5.夜の決意
レンは屋上にいた。
夜風に髪をなびかせ、ただ一点を見つめている。
足音。
現れたのは、再び黒フードの観測者だった。
「……何を企んでいる」
「何も。ただ、見届けているだけだ。君が、どちらに転ぶかを」
「俺は、もう選んだ」
「そうかな? なら、近いうちに君の選択が問われる時が来るだろう」
風が吹き抜け、男は姿を消す。
その場に、白い花だけが残されていた。




