第13話《傭兵の器》
1.再始動
翌朝、レンは訓練場の前に立っていた。
特別演習──それは、Aランク候補生以上しか許可されない模擬実戦訓練。
「申請? ……B評価の君が?」
訓練管理官が驚きを隠さず訊いた。
レンは迷いなく頷く。
「“試したいこと”がある。それだけです」
その目に、躊躇はなかった。
管理官は黙って通信機を操作し、許可を取った。
「……訓練チームは“殺人蜂”の連中だ。気をつけろ」
「ええ」
そのまま、無言でレンは訓練場へと足を踏み入れた。
2.蜂の巣
“殺人蜂”──アカデミー内でも凶悪と恐れられる戦闘特化ユニット。
実弾を使わずとも、精神を破壊する手練れ揃い。
その中心に立つのは、指導教官クラスの元傭兵、グレゴリー。
「ほう……坊やがひとりで俺たちに挑むと?」
「よろしくお願いします」
「謙虚だが無謀だ。気に入った」
グレゴリーは笑い、指を鳴らす。
戦闘開始の合図。
銃声はなく、だがレンの前に次々と影が躍る。
(速度、連携、包囲網──これが“訓練”か)
レンは呼吸を整え、跳ぶ。
──数秒後、3人が崩れ落ちる。
グレゴリーの顔から笑みが消えた。
「……こいつ、やっぱり」
「戦い方が、抑制されてる。殺せるのに、殺さない」
「戦場で“殺し”を学び、“制御”を覚えた奴の動きだ」
「坊や、お前──どこで育った」
答えは返らない。
だが、グレゴリーはその沈黙に“傭兵の器”を見た。
3.教官陣の会議
訓練の様子はモニター越しに教官たちに共有されていた。
若宮、イグチ、斎木──そして神堂。
「殺人蜂を3分で沈黙させたか……」
「制圧ではなく、抑制された反撃。どこまで意図的かは分かりませんが」
若宮が呟く。
斎木は画面を睨んだまま、ぼそりと漏らす。
「……動機が変わったな。あいつ、誰かのために戦ってる」
「女か?」
「わからん。ただ、今のあいつは──戦場の“死神”じゃない」
神堂は静かに椅子から立ち上がる。
「実に面白い。もう少し泳がせよう。だが、覚醒因子の兆候が出たら即座に報告しろ」
4.“勝者”の帰還
レンが訓練場から戻ると、誰もが彼を見た。
嘲笑でも羨望でもない。
ただ静かに、彼の前を空けた。
それが何を意味するか──レンは知らなかった。
セナが待っていた。
「お疲れさま……すごかった、らしいね」
「見てたのか?」
「見れなかったけど……怖かった。誰かが“壊される”気がして」
「大丈夫。俺は、誰も壊さなかった」
そう言って、彼は初めてセナに笑ってみせた。
その笑顔は、僅かに幼さを残していて──
“戦場の子ども”が、初めて人間らしい顔を見せた瞬間だった。
5.覚醒の兆し
夜、セナが部屋で休んでいると、窓の外に誰かの気配。
だが、誰もいない。
ただ、白い花がひとつだけ窓辺に置かれていた。
──ウィスパラーからの“観測サイン”。
“傭兵”と“標的”が交差する場所に、またひとつ、運命の兆しが芽を出した。




