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傭兵アカデミー  作者: 一ノ宮ことね
13/30

第13話《傭兵の器》

1.再始動


翌朝、レンは訓練場の前に立っていた。


特別演習──それは、Aランク候補生以上しか許可されない模擬実戦訓練。


「申請? ……B評価の君が?」


訓練管理官が驚きを隠さず訊いた。


レンは迷いなく頷く。


「“試したいこと”がある。それだけです」


その目に、躊躇はなかった。


管理官は黙って通信機を操作し、許可を取った。


「……訓練チームは“殺人蜂”の連中だ。気をつけろ」


「ええ」


そのまま、無言でレンは訓練場へと足を踏み入れた。


2.蜂の巣


“殺人蜂”──アカデミー内でも凶悪と恐れられる戦闘特化ユニット。


実弾を使わずとも、精神を破壊する手練れ揃い。


その中心に立つのは、指導教官クラスの元傭兵、グレゴリー。


「ほう……坊やがひとりで俺たちに挑むと?」


「よろしくお願いします」


「謙虚だが無謀だ。気に入った」


グレゴリーは笑い、指を鳴らす。


戦闘開始の合図。


銃声はなく、だがレンの前に次々と影が躍る。


(速度、連携、包囲網──これが“訓練”か)


レンは呼吸を整え、跳ぶ。


──数秒後、3人が崩れ落ちる。


グレゴリーの顔から笑みが消えた。


「……こいつ、やっぱり」


「戦い方が、抑制されてる。殺せるのに、殺さない」


「戦場で“殺し”を学び、“制御”を覚えた奴の動きだ」


「坊や、お前──どこで育った」


答えは返らない。


だが、グレゴリーはその沈黙に“傭兵の器”を見た。


3.教官陣の会議


訓練の様子はモニター越しに教官たちに共有されていた。


若宮、イグチ、斎木──そして神堂。


「殺人蜂を3分で沈黙させたか……」


「制圧ではなく、抑制された反撃。どこまで意図的かは分かりませんが」


若宮が呟く。


斎木は画面を睨んだまま、ぼそりと漏らす。


「……動機が変わったな。あいつ、誰かのために戦ってる」


「女か?」


「わからん。ただ、今のあいつは──戦場の“死神”じゃない」


神堂は静かに椅子から立ち上がる。


「実に面白い。もう少し泳がせよう。だが、覚醒因子の兆候が出たら即座に報告しろ」


4.“勝者”の帰還


レンが訓練場から戻ると、誰もが彼を見た。


嘲笑でも羨望でもない。


ただ静かに、彼の前を空けた。


それが何を意味するか──レンは知らなかった。


セナが待っていた。


「お疲れさま……すごかった、らしいね」


「見てたのか?」


「見れなかったけど……怖かった。誰かが“壊される”気がして」


「大丈夫。俺は、誰も壊さなかった」


そう言って、彼は初めてセナに笑ってみせた。


その笑顔は、僅かに幼さを残していて──


“戦場の子ども”が、初めて人間らしい顔を見せた瞬間だった。


5.覚醒の兆し


夜、セナが部屋で休んでいると、窓の外に誰かの気配。


だが、誰もいない。


ただ、白い花がひとつだけ窓辺に置かれていた。


──ウィスパラーからの“観測サイン”。


“傭兵”と“標的”が交差する場所に、またひとつ、運命の兆しが芽を出した。



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