第11話《標的》
1.静寂の午後
その日、学園は異様な静けさに包まれていた。
模擬戦も特別講義もない午後。
生徒たちは思い思いに過ごしていたが、どこか空気が重い。
教室の窓際で、九条レンは一冊の書類を読んでいた。
だが、背後から小さな足音。
「──九条くん」
振り向くと、そこには鷹野セナ。
「時間、ある? 少しだけ……話したいことがあって」
レンは黙って頷いた。
セナはほっとした表情を見せ、窓際の隣に腰を下ろす。
「……この間の選別授業。すごかった。見てた。怖いくらいだった」
「怖がる必要はない。俺はお前に向けてやってない」
「それでも……」
セナは迷うように唇を噛み、やがて意を決したように口を開く。
「私、狙われてる気がするの」
レンの目が細まる。
2.違和感
「昨日から、変な気配がする。部屋のドアに傷がついてて、誰かが寮の廊下で様子を見てた……気がする」
「報告は?」
「した。でも、“気のせい”って言われて終わりだった」
レンは静かに立ち上がる。
「案内しろ。寮まで」
セナは驚いたように彼を見る。
「えっ、今? 教官に報告してからのほうが……」
「遅い」
その声に、有無を言わせぬ鋭さがあった。
3.セナの部屋
女子寮。
セナの部屋の前。
レンは壁際の死角、窓の外の足跡、扉の隙間などを丹念に観察する。
「……間違いない。誰かが、鍵を使わずに中に入った痕跡がある」
セナが息を呑む。
「どうして……?」
「“試してる”んだ。誰に価値があるか。誰が“引き金”になるか」
「引き金……?」
「俺にとっての、な」
セナの瞳が揺れる。
4.現れた影
その瞬間。
窓の外から何かが投げ込まれる──小型の閃光弾。
「伏せろ!!」
レンがセナを抱き込むように床に引き倒す。
爆音と閃光。
視界が焼ける中、レンはすでに身を翻し、机を盾にしながら侵入口へと飛び出していた。
侵入者は一人。
顔を覆い、実戦装備に身を包んだ男。
「排除対象、確認」
銃口がセナに向く。
だが──その前に、レンの拳が喉元を撃ち抜いていた。
「が……ッ!」
敵は呻き、レンが関節を極めて沈める。
「誰に命令された」
「……お前が……覚醒するか、どうか……見るためだ……」
その言葉を最後に、侵入者は意識を失った。
5.揺らぎ
部屋には、まだ閃光の名残が残っていた。
セナは床で震えていた。
「なんで……なんで私が……」
レンは黙って、彼女の肩に手を置いた。
「お前は“誰かの実験道具”にされた。だが──俺はもう、見逃さない」
「……九条くん……」
セナの声がかすかに震える。
レンの中にもまた、小さな波紋が生まれていた。
それは、“護る”という意識。
戦場では決して抱かなかった、誰かを救いたいという感情。
だが、それこそが──彼にとって最も危険な“引き金”であることを、彼はまだ知らない。




