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傭兵アカデミー  作者: 一ノ宮ことね
10/30

第10話《選別》

1.無言の特別授業


翌日。

アカデミーの戦術教室にて、“特別講義”と称した新しい授業が始まった。


講師は斎木。


彼は自己紹介をしなかった。

ただ、教壇に立ち、名簿を確認するでもなく、生徒全員の顔を一人ずつ静かに見ていった。


その視線はまるで「どの駒を使えるか選別している」ようだった。


生徒たちは息を飲み、レンだけがまっすぐにその視線を受け止めた。


「今日の授業は、個別評価だ」


斎木の声は低く、だがよく通った。


「一人ずつ、私と対峙してもらう。時間は3分。内容は……自由だ」


騒然とする教室。


「自由って、まさか戦うんすか?」


「攻撃しても、質問しても、黙っていてもいい。ただし、“無意味”な行動は評価に値しない」


その言葉の裏にある意図を、レンはすぐに理解した。


(……“殺さずに、殺意を見抜く”試験)


2.生徒たちの反応


一人ずつ、前に出される生徒たち。


ある者は戦闘を試み、即座に倒され。

ある者は心理戦を挑むが、斎木の表情は変わらず。


「……3分。終了」


その冷たい声が繰り返されるたび、空気は重くなっていった。


そして──


「次。九条レン」


教室が息を呑む。


レンは無言で席を立ち、前に進んだ。


斎木の前に立つ。

二人の間に、言葉はない。


3.対峙


3分間のカウントが始まる。


レンは斎木を見つめる。その瞳の奥。

気配の微細な揺れ、呼吸の速度、姿勢の重心。


「……お前が“あの時”の教官か」


斎木の目がわずかに細まった。


「記憶は、完全には消せないらしいな」


レンの足が動いた。


1秒後、机の陰から一気に距離を詰め、斎木の死角に回る──


だが、斎木の手が動く前にそれを阻む。


指先一本。

レンの攻撃をいなして、肩を押さえる。


「……なるほど。成長したな」


「まだ終わってない」


次の瞬間、レンの膝が斎木の腹部へ放たれる。

しかしそれすらも、斎木は身体を滑らせるように回避。


カウントダウンの声が鳴る。


「──残り10秒」


レンは攻撃を止め、睨むように斎木を見た。


「これは選別じゃない。警告だな」


「察しが良い」


「俺を“戻す”気か」


斎木は無言で背を向け、告げた。


「──3分、終了」


4.評価と影


授業終了後、教官たちが斎木に報告を求めた。


「どうでしたか? 九条レンの評価は」


「A++」


一言。


「戦闘・判断・心理制御。全項目において“実戦仕様”で再構築可能」


「つまり……」


「覚醒の準備は整っている。あとは、何を“引き金”に使うかだけだ」


その会話を、モニター越しに見つめるもう一人の影があった。


ケストレル。


「やはり、斎木を当てたのは正解だったな」


彼は呟く。

その視線の先にあるのは、


──セナの映像だった。


「彼女は“引き金”になるか。“制御装置”になるか」


彼らは、静かに次の“実験”の準備を始めていた。



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