第10話《選別》
1.無言の特別授業
翌日。
アカデミーの戦術教室にて、“特別講義”と称した新しい授業が始まった。
講師は斎木。
彼は自己紹介をしなかった。
ただ、教壇に立ち、名簿を確認するでもなく、生徒全員の顔を一人ずつ静かに見ていった。
その視線はまるで「どの駒を使えるか選別している」ようだった。
生徒たちは息を飲み、レンだけがまっすぐにその視線を受け止めた。
「今日の授業は、個別評価だ」
斎木の声は低く、だがよく通った。
「一人ずつ、私と対峙してもらう。時間は3分。内容は……自由だ」
騒然とする教室。
「自由って、まさか戦うんすか?」
「攻撃しても、質問しても、黙っていてもいい。ただし、“無意味”な行動は評価に値しない」
その言葉の裏にある意図を、レンはすぐに理解した。
(……“殺さずに、殺意を見抜く”試験)
2.生徒たちの反応
一人ずつ、前に出される生徒たち。
ある者は戦闘を試み、即座に倒され。
ある者は心理戦を挑むが、斎木の表情は変わらず。
「……3分。終了」
その冷たい声が繰り返されるたび、空気は重くなっていった。
そして──
「次。九条レン」
教室が息を呑む。
レンは無言で席を立ち、前に進んだ。
斎木の前に立つ。
二人の間に、言葉はない。
3.対峙
3分間のカウントが始まる。
レンは斎木を見つめる。その瞳の奥。
気配の微細な揺れ、呼吸の速度、姿勢の重心。
「……お前が“あの時”の教官か」
斎木の目がわずかに細まった。
「記憶は、完全には消せないらしいな」
レンの足が動いた。
1秒後、机の陰から一気に距離を詰め、斎木の死角に回る──
だが、斎木の手が動く前にそれを阻む。
指先一本。
レンの攻撃をいなして、肩を押さえる。
「……なるほど。成長したな」
「まだ終わってない」
次の瞬間、レンの膝が斎木の腹部へ放たれる。
しかしそれすらも、斎木は身体を滑らせるように回避。
カウントダウンの声が鳴る。
「──残り10秒」
レンは攻撃を止め、睨むように斎木を見た。
「これは選別じゃない。警告だな」
「察しが良い」
「俺を“戻す”気か」
斎木は無言で背を向け、告げた。
「──3分、終了」
4.評価と影
授業終了後、教官たちが斎木に報告を求めた。
「どうでしたか? 九条レンの評価は」
「A++」
一言。
「戦闘・判断・心理制御。全項目において“実戦仕様”で再構築可能」
「つまり……」
「覚醒の準備は整っている。あとは、何を“引き金”に使うかだけだ」
その会話を、モニター越しに見つめるもう一人の影があった。
ケストレル。
「やはり、斎木を当てたのは正解だったな」
彼は呟く。
その視線の先にあるのは、
──セナの映像だった。
「彼女は“引き金”になるか。“制御装置”になるか」
彼らは、静かに次の“実験”の準備を始めていた。




