幕間〜誰かのAnother route Ⅰ 〜 開示版
attention!)本編13章までのネタバレを含みます
元々本編にあったAnother route Ⅰの×などの開示版です。
内容は、全く同じですが、×やーが消えています。
「や、やめて…来ないで!」
その叫びは虚しく、押し入ってきた男にナイフで刺され、私:藤堂瑠璃は命を落とした。
体から力が抜ける。
目を覚ますと、そこは広い花園だった。
数々の花が咲く丘。
美しい太陽。
そんな場所にいた。
「天国…かな?」
私は、目の前の花園に寝転がった。
心が安らかになった。
ずっとここにいたい…心地いい…
美しい花の絨毯の上で、私は昼寝をした。
遠い風の音が聞こえ全身の力が抜ける。
右手には、森が広がっていて、多様な生物が暮らしていた。
「はぁ…ケイルンだぁ…」
「瑠璃!瑠璃っ!」
花畑で飛び起きる。
兄の声が聞こえた気がした。
辺りを見回すが、当然そこにいるはずがない。
なんとなくの感覚だったのだろうか、私は急に目を閉じた。
目の前で、兄が呆然と座り込んでいた。
「夢…夢…これは、夢」
焦点のあっていない目で、呟き続けている。
涙が流れた。
当然、現実の体に反映されることはなかった。
「ごめんね…ごめんねっ…お兄っ…ちゃん…ごめんね…」
ただ、私も謝り続けることしかできなかった。
その後、私は土葬されると何も見えなくなった。
ただ、言葉ははっきりと聞こえた。
「お前を殺した奴を………絶対に俺が見つけ出す。そして、同じ目に合わせる……だから、行ってくる。
またな瑠璃………必ず生きて帰ってくるから待っててくれ」
兄が、どんな顔でそれを言ったのか分からなかった。
でも、「やめてほしい」とは言えなかった。
言っても伝わらないし、声色は兄の強い覚悟を示していた。
あの、両親が死んだと伝わった日と同じような。
だから、兄にもう一度会いたい。
それがダメなら、せめて伝えたかった。
「大好きだよ…お兄ちゃん…」
その時、目の前が花園に戻った。そしてそのまま、私の体は透明になっていった。
再び、視界が戻ると、そこは王座のある大きな部屋だった。
そして、目の前に巨体の男が豪華な椅子に座っている。
「貴様か…珍しいタイプだな…死んでから意志を持つとは」
全く理解できない。
「アニムス…ってなんですか?」
「お前の願い…だな。簡単に言うと。アニムスを持つ限り、人は完全には死なない」
「それが…私に…?」
「あぁ、兄に伝えたいんだろう?」
「は、はい」
「叶えてやる。ただ、条件付きだ」
「条件ですか」
「あぁ、お前が選べ。一つは、完全にアニムスを消しあの楽園ですごす。もう一つは、あの楽園を捨てイデアで働くことだ。後者なら願いを叶えてやろう」
「イデア…?ですか…」
「あぁ、お前はアニムスができたことにより、少し死が薄れている。イデアとは、その中間の場所だ。何もなく、たまに来るアニムスを持った境目の者に指示される質問をすることしかやることはない。ほぼ無の空間だな」
『無の空間』
その響きが恐ろしかった。
ただ、私に迷いは無かった。
兄に一つ伝えられるなら、それで良かった。
「イデアに行かせてください」
「いいのか」
「はい」
「…君は…神の意思があるね」
「神の意思?」
「あぁ。まぁ説明はいい。それならこの杖が使える。で、願いはなんにする?」
「兄に言葉を伝えたいです」
「どちらの兄だ?君の兄は2人いるぞ」
…はい?
「藤堂流羽人…と藤堂…玲人だな」
その名前で、私は全てを思い出した。
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衝撃的な事実を知ったが、それでも願いは変わらなかった。
渡された石に向かって涙を流しながら言う。
「大好きだよ…お兄ちゃんたち………」
言い終わらないうちに、石が天高く飛んで行った。
最後の最後は入らなかった。
「終わったか?」
「はい。では、イデアに案内しよう」
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イデアに入ってからのしばらく(イデアに時間の概念は存在しない。)は、驚きの連続だった。
イデアにいると、自分の姿が幼い容姿に変わっていき、元の顔の跡は無くなった。
杖の使い方を学び、魔力について知り、最初の者の選択を聞き死者の国に導いた。
ただそんなことにはもう慣れてしまい、たまに来る生死を彷徨う者が来ること以外は、暇な時間が過ぎていった。
玲人兄のことや神の意思について考えていたり、本当にただ何もしないでいた。
時間感覚も人間が来た時にしか分からなかった。
16人の選択が終わってからしばらく経った。
「最近人間が少ないな…」
その発言をしながら、自分が自分のことを人として認めなくなっているところが怖かった。
優しいハーブのような音が鳴る。
人間が来たみたいだ。その音の方へと向かう。
その人間の後ろ姿を見た瞬間、思わず叫びそうになった。
「死ん…だのか?」
見間違えるはずのない兄の姿があった。
思わず思いを伝えたくなる。ただ、それはイデアのルールで許されない。
私は、ただ淡々と選択を与えた。
兄は、揺れ動いていた。ただ、そんな甘い人間では無かった。
「俺は…俺は戻る!あの飛び降りた場所に…瑠璃の復讐のためにも!」
「それが、貴方の選択ですか」
「あぁ」
彼は、自分のアニムスを貫いた。
そして、私はいつものように兄に笑いかけて、生を与えた。
顔は、全く違うので気づかないだろう。
兄は、透明になっていきやがて消え去り、イデアには静寂が戻る。
私は、一人で兄のいた地点を見つめて立っている。
涙が頬を伝う。
「死んで私のためにここまでするなんて、流羽人兄ちゃんはバカだよ…」
嗚咽が漏れる。
「お兄ちゃんをっ…こんな目に合わせてっ…ごめんね…ごめんね、お兄ちゃん…」
ただ最後の言葉は、なんとか涙を止めて言う。その先には誰もいない。それで構わない。
「ありがとう。大好きなお兄ちゃん。私は、絶対に生きて会いに行くから。その時までは、生きて…」
私の中に新たな強い意志が生まれた。