なり損ないネズミはただ胸を焦がす
今日は可愛くはないお話です。
初めての期末テストで成績を落とした。
私が通っているのは市立高校の附属中学で……クラスメイトは皆、厳しい受験戦争を勝ち抜いて来た猛者たちだ。
その中での学年3位は普通で言えば悪くはないのだろうが、私は最初の中間テストでは1位だった。
将来の目標は……文系なら裁判官か国家公務員総合職、理系なら外科医と決めている私は、今の学校じゃ常に1位じゃなきゃダメなんだ!
小学校の時から通っている塾では「1位と2位は雲泥の差」と言われている。
それなのに今の私は3位止まり!! まったくの“論外”だ!
「次こそは!リベンジ!!」と固く心に誓い、母から頼まれる“お手伝い”にもすべて頭を振って机に向かっていたら、部屋に入って来た母にため息を付かれた。
「娘が勉強しているのにため息付く親が居る??!!」って食って掛かると、母は目に涙を浮かべて私に“事実”を伝えた。
「あなた……もう白髪が出ている」
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期末テストの1位は3組の向井結人だった。
この子、一部の女子から『才色兼備』って言われる位の“美少年”でスポーツマン!しかも誰に対しても分け隔てなく優しい。
きっとそれは、自らの能力が他人より抜きん出ている者の余裕だ!!
私は彼を『打ち倒すべき最大の敵』と想定し、その顔写真(5月の体育祭の時のスナップ写真)を自室の壁に貼り、日夜睨み続けた。
ところがこの“仮想敵国”から!!
事もあろうに!!
助けられた。
学級委員の私は先生から言い付かってクラスみんなから“課題ノート”を集め、紙の手提げ袋に入れて職員室へ持って行く途中だった。
クラス全員分のノートはとても重く、取っ手の所から袋が破れそうだったので途中から両手と胸に抱えて階段を下りていたら、踏み外してしまって……ちょうど階段を上がって来ていた向井に抱き留められた。
向井は散乱したノートを拾い集めただけではなく、その束を全部抱えて
「紙袋ダメになってるから持って行くの手伝うよ」
と事も無げに私に言った。
やむなく、職員室までの間を向井と横並びで歩いたのだけど、彼は私が転ばない様、いちいち声まで掛けてくれた。
私は『恥ずかしい』のと『悔しい』のとでずっと無言で……職員室から出る時になってようやくお礼が言えた。
これは『一生の不覚!!』に間違いなかった!!
だってあれ以来……結人くんの写真を見るたびに胸が苦しくて目を逸らすけど、いつの間にかボーっと見ている……
こんな事してる暇無いのに!!
しかもよりによってアイツの事を!!!!
どう歯噛みしてもそれらは、『今まで読破したあまたの小説や物語に記されている病』に私が罹患してしまった事を示していた。
でも私は白髪を振り乱し、“地頭”では私の遥か上を行っている結人くんに対し「せめて勉強だけでも上になりたい!!」と言い続ける事しかできない。
可愛らしさなど欠片も無く、只みっともない私に泣けて来る。
小4の時、ダニエル・キイス著の「アルジャーノンに花束を」を読んだ。
その時は感動するばかりだったが、今は私とあの主人公たちを重ねてしまう。
あがいた挙句、ポッ!と光を放ったとしても瞬く間に燃え尽きてしまうマッチ棒……
それが私。
焦がした胸はドス黒い煙を上げるだけなのだ。
おしまい
最近の私は迷走しています(-_-;)
このお話も最初は可愛らしく書いていたのですが、「これではだめだ!」と冒頭部分を丸々カットして書き直しました。
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