第17話 前奏曲
天から数多なる魔が降り注ぎ、大地を喰らい、大地を犯す。
どのような未来を辿ったとしてそれは必然である。
いかなるイレギュラーが発生しようとも、この事態を防ぐことは確実に無理だと割り切ってしまった方がいいだろう。
なぜならば、崩壊はもうすでに始まっているのだから。
『《___》による自国大厄災の予言』
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!
突然けたたましい音がして、見広は心臓を跳ね上げながら飛び起きた。
起きる時なのに、わぁと声をあげてしまったのはそういうことだからである。
人間、あまりにも驚きすぎた時には無意識下の状態の時でも悲鳴をあげてしまうらしい、と見広は認識した。
……いや、そんなことはないか。
「な、なんだぁ?」
そう呟いた自分の声が聞こえなくなるくらいに辺りを支配しているその音は、まるで火災検知器が作動したようなもので。
しかし、そんなものがこの世界にあるとは思えなかった見広はそんな疑問をつぶやいたのだった。
現在時刻は太陽の向きから考えるに、約午前七時と言ったところか。
こんな時間にこんなバカみたいな音を鳴らすなんて非常識にも程がある、と思いながらも外を眺めると学園の生徒たちが続々と集まり始めていて。
(なんだ? まじで火災警報的なもんなのか? ……いや、もしくはもっと別の?)
けいがいることから割と真面目に地球上で存在したものが作られていたとしても疑問を持つことはできないのだが。
少なくとも非常事態であるということを知覚した見広は、動きやすい服装に着替えると外へと出ていった。
(服を着替える暇があったらすぐに避難しろって? ごもっともですすんません)
なんて軽口が叩けるほどには冷静さを失っていなかった見広は、それでも少し急足だった。
途中、いつも一緒に働いている人たちが慌てたように外へ駆け出していたのが見えた。
そうして、見広が外へ出て少しすれば、その音は消えてしまって。
(なんだったんだ?)
本気でなんだったのかわからずに見広はきょとんとするのだった。
「何が起こっているのかわからないようだね」
「……けい、か。まったくいつも俺の後ろから登場するのはよしてくれ」
ぬっと顔を出しておかしそうに笑う彼に、見広がため息をつきながら突っ込んだ。
その呆れの混ざった声を聞いてもなお、けいはそうして来るのだからタチが悪い。
本当にこいつは大人なのか、と時々疑ってしまうことがあるほどには。
(どうせ変なところから湧いて来るなら、美少女にしてくれ!)
という欲望に塗れた話は置いておいて。
それよりも見広はけいに疑問の言葉を返した。
「これがどういう状況か、あんたは理解しているのか?」
「あぁ、もちろんさ」
そうして返ってきた答えが肯定だったことに見広はへぇと不思議そうに唸った。
こういうことに関してけいは疎いという偏見があったから、そうなってしまうのも必然だったか。
「意外そうな顔をしているけど、こんないかにも警報ですみたいな音を出されたら流石の僕でも覚えるよ?」
「まぁ、そういうものか」
確かにこれは一生忘れられそうにないな、と苦笑しながら思っていると。
あたりの空気が、ピリッと引き締まった気がした。
何が起きた、なんて見広は思わない。
その場にいるだけで勝手にその両手の異能が反応してしまう人間なんてこの世界に来てから一人しか会ったことがない。
「学長……」
彼女が、全生徒の前に立っていた。
それだけで、ガヤガヤと騒いでいた生徒の全員が、気をつけを強制された。
(本当によく調教されてやがるよ)
「おいそこの見広くん? 別に私はこの子達を調教してこの学校に置いているわけじゃないよ?」
「っ! 心を読むな心を!」
というか、この学長本当になんでもありである。
魔法を周囲の空気で構成したり、人の心を読んだり、おまけにそこにいるだけで威圧が完了するなんて、どこのラノベの主人公だよと言ってやりたい気持ちは山々だったが、これ以上何な口答えすると周りの生徒の視線に殺されそうなので見広は黙った。
「まぁ、とりあえずその話題は置いておくわね。この件が終わったら見広くんは学長室に集合ね」
「……」
「冗談よ、冗談。本気にしなくていいわぁ」
さて、と学長は生徒全員の方へ振り向いてそうつぶやいた。
それでやっと見広に集まっていた視線が目の前の彼女に戻ってホッと息をついた。
しかし、そんな彼女の顔には不敵な笑みが浮かんでいて。
「諸君、これから起きることは全て現実だ。夢物語でもなんでもなく、現実なんだよ」
ゾクリとその時、全身に悪寒が走ったのは果たして見広なのだろうか。
「なん、だ?」
空が、黒に染まった。
快晴だった上空に突然雲が集まり始めて。
(いや、それだけじゃない?!)
見広がそう思った矢先、バチバチバチ_____!!
空が、弾け飛んだ。そう勘違いしてしまうほど、空が揺れた。
最初見広はそのことを知覚することができなかった。
自分の立っている地面が揺れたのかと思った。
(空の反射する光の色が乱れた?! どうして?!)
そして、それで、かくて、それから_____。
展開されたのは、空を覆い尽くしてしまうほどの魔法陣。
「なんだよ、あれ」
そういうような反応をしたのは見広だけではなかった。
生徒もそれ以外も、皆それを見て畏怖の念を浮かべていた。
しかも、口ぶりからするにそれをひき起こしたのは学長本人ではないというのだ。
生徒の頭の中に浮かんだのは、これほどの大規模な魔法をこの人間以外が発動できるのか、という純粋な疑問などではなかった。
そもそもの話、それを正確に疑問に思えるほど思考がうまく機能してはいなかった。
皆はただ、壊れたパソコンのように中身が空になって、目の前から現実逃避するしかなかった。
ただ一人、この事態を事前に予知していたかのような学長を除いて。
そうして、それ以外の中で真っ先に取り戻したのは他でもない見広だった。
世界への当て付けも込めて声出る限りを叫ぶ。
「剣と魔法と非常識の世界ってのは、ここまでぶっ飛んでいやがるのかよ。くそっ!」
それを面白そうに眺めていた学長だったが、流石にこのままではいけないと思い直したのかクフフと意味深に笑いながら、両手を上に掲げた。
「さぁさぁ生徒諸君。我々はこの日のために今まで訓練を重ねてきた。学業に身を浸してきた。それなのに、よもや戦わずして逃げるなんて言わないわよねぇ?」
生徒がそれで奮い立たされる、なんて起こるはずがないと見広は思った。
でも、そんなことはなかった。
その声がかかった瞬間に生徒たちの目に光が戻ってきた。
「これは……」
「学長が精神に呼びかけるタイプの魔法を使ったんだろうね」
「____本当にあの女、なんでもありだな!」
空から、数多なる魔物が降り注ぐ。
厄災が始まる。
それがどのような結果を招くか、など見広には想像もつかなかった。
これから何が起きるのかということも、当然ながらわかるはずがなかった。
それでも見広という少年は笑う。
《星読み》が予言した崩壊をぶち壊すために、その両の拳を握りしめて。
「その厄災ごと、食い散らかしてやる!」
一つだけ、天智見広という少年の特徴を追加しよう。
彼は、今も昔も変わらず自分の日常を壊す恐れのあるものは、多少自分の日常を壊してでも潰すのだ。
《行間》
「あぁ、この時がやってきた」
「俺はここで死んだな」
「俺もここで死んだわ」
「俺はここは生き残れたぞ?」
「生き残ったのは俺だけだった」
「殺されたよ」
「あっけなく」
「ここを乗り越えられた天智見広は少数だろ」
「でも、今回のやつは心が死んでいないぞ?」
「言野腹進というイレギュラーがいたのか」
「誰だそいつ」
「俺は知らない」
「俺も知らない」
「俺も」「俺も」
「まぁまぁ、落ち着けよ天智見広ども。今までの何かが通用するほどこの世界は退屈じゃねぇぞ?」
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