第13話 棲み着く者
その結果に音はない。
異常なほどに静かに、そうして一瞬でそれの結果は現れた。
単純な話。
呪い如きを飲み込めないほど、《魔を喰う者》の吸収能力はチャチなものではなかった。
そんなあっけない結末を迎えた呪いだったが、対して見広が感じたのは軽い抵抗感だった。
呪いを喰らった瞬間に、目眩のようなものがしてそれが本当に起きたものだったのかはわからないが、少なくとも見広の体に今まで以上の力が流れているのは間違いなかった。
数秒して彼は、その光景を呆然として見つめている大男の方を振り返った。
「終わった、みたいだな」
もうちょっと小ネタが欲しいイベントだったな、と見広は思う。
ゲームだったら読み飛ばされるタイプのシナリオだ。
「何をした?」
ふぅ、と汗を拭うような仕草をした見広に対して大男は端的にそういう声をかけた。
「《魔を喰う者》っていう俺の固有能力(?)みたいなもんだ」
その力を詳細に語ることはしなかった。
まぁそもそもの話、使用者の見広でさえもその力が一体どんな物なのか正確に把握仕切ってはいないので説明をすることができなかったの方が正しいか。
嘘だろ、俺の今までの苦労は……、とかなんとかぶつぶつ呟き出した大男は放っておいて。
見広は、呪いから解き放つことに成功した剣を探す。
(……これ、なのか?)
そうして、今の今まで剣と見広の両手が合った場所に落ちているものを見て、見広はあれ、と奇怪なものを見たような表情をした。
なぜならばそこに落ちていたのが質素な剣ではなく、何かしらの紋様が掘り出された精密な短剣だったのだから。
それを手に取ってみて、思い出す。
(この模様とは違うけど……。確か、シルルの短剣もこんな感じの模様がついていなかったか?)
部屋の荷物の中においていて、まだ荷下ろしさえも終わっていない状況なのだがうる覚えの記憶の中からその全体像をイメージしてみた。
「そろそろ決まった? って、見広はそこで何を?」
そのタイミングでリシアがカウンターの方へ来たようだった。
そんなリシアに軽く声をかけると、見広は短剣を目の前に出す。
「これ、シルルの部屋から出てきた短剣にもついていなかったか?」
「この模様のこと? ……確かに似たような模様がついていたような。でもそれがどうしたの?」
「いや、さっきあそこにあった呪われた剣の呪いを解呪してな。それで見てみたらこんな短剣が出来上がっていました、と」
大雑把に説明をして、リシアによくわからないと言われた。
本人が絶賛混乱中なので、全く仕方のないことだ。
「でも、シルルの部屋にあったのは白色っぽかった気がするわね」
「だっけ? まぁ、こんな色ではなかったな」
鞘の中から取り出してみるとその短剣の色は、黒だった。
黒光するその刀身が妙に艶かしいように感じるのはきっと見広だけではないだろう。
「ちょっと見せて?」
リシアがそう言ってきたので、見広はほいよとその短剣を渡す。
それで彼女が柄を持って剣を鞘から引き抜こうとした瞬間。
「あれ?」
その短剣はまるで触られることを嫌がるかのように見広の方に舞い戻ってきた。
二人とその奥の大男は「え」とか「はぁ?」とか各々瞬きを繰り返しながら呟いた。
「なんだ? この剣には意思が宿っていますとでもいうのか?」
冗談まじりに見広がそう言って。
「剣自体に意志はありませんが、精霊なら宿ってますよ新たな持ち主」
と、そんな声が帰ってきて吸い込みかけていた息が変なところに入った。
ゴホゴホと咳を漏らしながら、見広は簡単に。
(うっそぉ?!)
『とは言っても、この武器を守っていた付喪神のような者なので呪いが解けた以上出ていきますけどね』
その声は、見広以外には聞こえていないようで、見広も実際にはどこから聞こえてきているのか正確にはわからなかった。
剣に宿っているのだから、剣の方から聞こえてくるのではないかと思ったのだが、もっと何か。
見広の存在の奥底へ響くような。
「あん、たは」
『ですから付喪神ですよ』
「取り憑いて? あぁ、そうか」
この世界には魔物とかそういうものがうろちょろしているんだったな、と思い出して見広は密かに納得した。
そんなことを呟いた見広にリシアが怪訝そうな顔を向けてくるが、それに苦笑いして見広はさらに問う。
「お前がいなくなってもこの短剣は大丈夫なのか?」
『もちろんです。あくまで私はその剣を守ために取り憑いていただけですから』
「じゃぁ、呪いが解けたからこの剣を守る必要がなくなったと?」
見広の素朴な疑問に返ってきたのは否定だった。
『いいえ? 別に呪いが解けたとしてもこれの有用性は変わりませんから。誰でも住み慣れた依代をわざわざ捨てるようなことをするはずがありませんしね』
「だったら、どうして?」
『この短剣はあなたを使用者として認めたのです』
それがどうした、と見広は言った。
『ですから、あなたがこの剣を使うのに私は邪魔なんですよ』
《魔を喰う者》のことを言っているということはなんとなく分かった。
「どうしてそれを」
『どうしてもこうしても。付喪神として存在してきた私のような精霊ですらあなたのそれに吸い込まれそうになったのですから』
それは呪いを喰らった時か、それとも今現在手に持っているからか。
否、見広という存在が同じ空間内に存在するだけで多少なりとも反応していたのか。
その真相は特に必要な情報ではないなと見広は判断した。
「俺が、この剣を使っても大丈夫なのか?」
『えぇ、もちろん。剣にとって使われることはこれ以上ない名誉なことですから。それに、あなたとは相性がいいらしいですからね』
「相性?」
剣を扱うのに、相性もクソもないと思った見広だった。
元々、彼の考えは使えるものは徹底的に使っていくというものだったため、そんなことを考えもしなかったのだが。
『剣の性質ですよ。いわゆる、剣の《固有能力》ってやつです』
「……そんなものまであるのね」
『何か今、そこはかとなく呆れられたような感じがしましたが?』
「いや、色々詰め合わせすぎてご都合主義も行きすぎてるななんて思ってないぞ?」
『それ、語るに落ちてません?』
落ちてません、と言えなかったので見広はダンマリとした。
そうして、露骨に話題を逸らすようによし、といった。
「その、《固有能力》ってのはどんなのなんだ?」
『それはですね。____________』
聴いて見広は、ハハッと笑った。
「そりゃいいや」
『でしょう? っと、これ以上話しているとお仲間さんの理解度を超えそうですから私はもういきますね』
あぁ、と見広は頷いて。
そうすると、剣の中にあった気配がゆっくりと消えていって。
最後に、それの残香に向かって言葉を投げかける。
「これは、必然だったのか?」
答えるものは、もう居ない。
「えっと、見広。今のは?」
「……なんだかよくわからねぇ奴がこの剣の中に住んでたんだよ」
はぁ、とリシアが首を傾げたので、まぁそういう反応が普通なのだろうなと見広は苦笑した。
自分の反応が薄すぎるというか、肯定感が高すぎるだけだということくらいは彼自身も理解していた。
「ま、もういなくなったからな。気にしなくてもいいだろ」
「……そういうものなのかしら」
見広は軽く言いながら、リシアよりも先に階段のほうに歩いていく。
「あ、ちょっと待ってよ見広」
そんな彼の背中を彼女もおいかけるようについてくる。
そんな日常となりつつある風景に追加されたのは装飾された短剣。
それが、違和感なんて全くないとでもいうかのように控えめに腰に据えられていた。
同時刻。
どこかで、とある男が薄ら笑いを漏らす。男の周りには誰もいない。
そうして、奇しくも見広が思ったことを、この男も同じように同じ時に思ったのだった。
「さぁ、次のステップへ進んでいこう」
一方は前を向いて、信頼できる仲間と共に。
もう一方は、ハイライトを消した瞳で淡々と獲物を狙うかのように。
あるいはその瞬間に、物語の序章が幕を閉じたのかもしれなかった。
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