第12話 武器を探して
そうして約束通りに十分後、リシアの元に見広が行くと少しだけ慌てたようにリシアがその扉を開けた。
リシアの寮と見広の寮はそこまで遠い訳ではないので、毎日通ってもそこまで負担にはならないだろう。
というよりは、どうしてそんなに慌てるんだ、と見広は深掘りこそしないものの疑問に思った。
そんな見広に対して、ふぅとリシアが小さく息を吐き出して、
「行きましょうか」
と、手を差し出してきた。
なんとなく、その手を握り返そうとして見広は直前でその手を引っ込めた。
あくまでも冷静にツッコミを入れる。
「いや、子供じゃないんだから」
手を繋ぐ、という行為に恥ずかしさを感じたというのも理由ではあったがそれよりも、手を繋ぐことによって身動きが制限されるのが嫌だった。
起きないに越したことはないが、非常事態が起こるかもしれないから。
「別にいいと思うんだけどな……。手を繋がないなら、はぐれないようにしてね」
「だから俺は子供か」
これでも、道順を覚えるのは得意な方だとリシアに向かって見広は文句を言って、それでもどこか楽しそうだった。
柔和に浮かんだ笑みからは、緊張感などは全く感じられない。よかった、とリシアが言って微笑む。
見広にはその意味がわからずに首を傾げたが、リシアの方がなんでもないよと言ってその話題を話すことはなかった。
「そうだ、どうせならあの場所で選びましょうか」
「どの場所だよ」
「いけば見広も興味を示しそうな場所」
武器屋だったらどこでもはしゃげる自信があるな、と見広は密かにつぶやいたがそれを彼女に聞かせるまでもないだろう。
そもそも、ファンタジー世界の武器屋なんて大体露店なんかで……。
「ここだよ」
「いや、思ってたよりでかいな」
イメージと違いかなりきちんと建てられたその石材構築の家に見広は驚愕の声を漏らした。
それはあたかも地球のスーパーマーケットに来ているかのようで、たくさんの人が談笑しながらこれらの横を通り過ぎていく。
「異世界、か」
「うん、何か言った?」
「いいや、俺のいた場所でもこういうところがあったなと」
へぇ、とリシアが唸って見広はハハハと苦笑いを決めて。
「……なんか、見られてねぇか俺たち。___特にリシア」
多くの視線を感じ取った見広は、リシアに懸念をぶつけた。
彼女も、確かにねと頷いて見広はそういえばリシアがお貴族様を守る騎士の役職についていることを思い出す。
「それは、実際には見習いの研修期間なんだけどね。今みたいに、違う子がついてたりもするし」
「まぁ、とは言っても立派な雲の上の人間なのかもな。冒険者とか商人とかとはまた違ったステータスなわけだし」
騎士の権力。
それは他の物語でも多く語られる通り、一般人とは比べ物にならないものになっている。
命を研いで研鑽を重ねる努力家はもちろん、そういう才能がある人間が集まった場所なのだから。
それに、極め付け騎士という職は貴族に近づくことが可能であったり、そもそも純貴族の人間、貴族の後継以外がなることが多い。
(リシアは、純貴族____士爵の家の出だったか)
詳しいことは聞いていないし、彼女も特にその出のことを気にしている感じがなかったので今まで忘れていた設定だったが。
こうして街に出てみると、彼女の顔は広く知れ渡っているようで見広は少し不思議な気分になった。
(まるで偶像として、他人から担ぎ上げられているような)
とはいえ、見広は周りの人間にどうもこうもいうつもりはなかった。
「さ、行こう見広」
本人が、全く気にしてないようだったから。
店内に足を踏み入れると、ひんやりとした空気が見広の肌を撫でた。
まるでクーラーがかかっているかのようなそれに見広は天井を見たりしてみたが、何かが設置されているわけではなさそうだった。
「これは?」
「ん、あぁ。最近はここのお店に冷却装置ができてね。効果範囲内に、冷たい空気を届けられるようになったんだ」
そういうことらしかった。
そうこうしている間も、リシアは迷わず奥まで進んで行って、それから階段を登っていく。
数階ほど登った後に二人が出たのは……。
「わぁお。アメージング!」
そんな間抜けな声を見広が出すほどフロア全体が武器や防具で埋められた、そんな異質な空間だった。
見広はロマンの塊のようなこの空間を見て目をキラッキラに光らせた。
「すげぇわ。うん、すげぇ」
本物のロマンだろ、と近場にあった武器を持ち上げながら見広は吟味する。
リシアはそれを見て満足したらしく私もそろそろ新しいのを探そうかな、とそんなことを口にして他の武器場所へと移動してしまった。
しばらくフラフラと異世界らしさを堪能して、気がつけばカウンターの目の前まで移動してしまっていたようだった。
カウンターの奥には、なぜかそれだけショーケースに入れられて、保存させられているそんな剣があった。
「あれは……」
「あぁ? 兄ちゃんあれに興味が?」
その剣に目を奪われて、見広がぽつりと声を漏らすと武器屋の、それまた印象に合ったごつい大男にカウンター横から声をかけられた。
そちらをチラリと見てから、見広はあぁと頷く。
「どうにも、あの剣はただものじゃない気がしてな」
直感、というには及ばない、ただ見た時の感想だった。
それに大男は高笑いをした。
「なんだ、兄ちゃん。見る目があるじゃねぇか」
見広はそれに眉を寄せる。
男はこう言っているが、見広自身はそういうのに精通しているわけでもなければ、自分が見る目があるとも思ってはいなかった。
「あれだけ異質な待遇で置かれてるのがちょっと気になったんだよ」
「どうしてだ?」
「だってあそこにあるのは、どう見ても普通の剣だ。なんなら、ここに置いてあるどんな剣よりも安価で買うことができそうな。それなのに、あれは見せ物にされるようにカウンターの奥に飾られている。……何か思い入れでも?」
綺麗な装飾が施された、シルルの形見のような。
大男は、見広の問いに苦笑して「そんなに綺麗なものじゃねぇよ」と視界の端にそれを入れながら言った。
「兄ちゃんの言った通り、あれは外見だけなら普通の剣だ。でもな、あの剣は呪われてんだ」
「呪われて?」
それはまた物騒な、と見広はつぶやいて。
だったらあんなところに置いておいていいのかよ、と聞き返した。
「あそこに置いておくのは俺としてもあまり得策ではないと思うんだが……」
頬をかきながら大男は見広から目線を外して、その剣を今度ははっきりと見ながら言った。
「あれは、ここに帰ってくるそうだから」
あるいは、誰か呪いを解いてくれる人間を探しているんだろうな。
と、大男がそう言ったので見広は自身の手に視線を落とした。
(俺のこの両手なら、その呪いも食い尽くせるのか……?)
魔法以外のものを食ったことはないから断言ができないことだった。
しかし、どうにもその両手ならそれが可能だという自信がどこからか溢れ出してくるようだった。
否、それよりも何か自分が呪いというものの力を渇望しているような。
そんな衝動にかけられて、ゾクッと見広は背筋を震わせた。
「……やったろうじゃねぇか」
「?」
無意識に口からそう漏れた言葉に、大男は首を傾げる。
「その呪いとかいうやつを、俺が解くことができたらあの剣くれるか? 気に入った」
簡素だが、何か秘めたる力を感じるような。
大男は「はぁ?」と驚いたような顔を見せながらもその剣のところに案内してくれた。
「このショーケースは?」
「呪いの漏洩を防ぐ結界魔法だよ。有名な魔法使いにかけてもらったんだ。解除方法も教わっているが……。外すか?」
ふむ、と見広は短く思考した。
「いや、解除しなくてもいいな」
「分かったが……、それで呪いがお前に飛び火しても知らないからな」
わかってるって、と見広は言って。
その剣を目線の中心に置いて、両の手を伸ばした。
「その結界も呪いも、まとめていただきます」
その結果に、音はない。
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