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9 年の功強し

「な、何をデショウ?」


 声が裏返った!不意を打たれて驚いた。なんで分かったの?


「ふむ。あなたから聞き出すよりは秘密の共有の方が良いですかね。理由は2つあります」


「は、はあ」


 ちょっと落ち着こう。俺はどうするべきだ?神父さんは俺が産まれてからイヤなところの無い良い近所の人だった。その人が落ち着いて話をしているのだから聞こう。多分聞いた方がいい。聞く以外の選択肢が無いだけだけど。


「私のスキルはね。『罪悪感』というものです。他人の罪悪感を感じ取ることができるスキルなんですよ。あなたは昨日の朝にスキルを手に入れ、昨日の夕方のとき、そして今日と。あなたの罪悪感はどんどん増えています。今までの経験的に罪というほどのものではない。精々が秘密を抱えていて悪いなって感じですね」


「えぇ…。それって…」


 とんでもないスキルじゃないですか~。なんでこんな片田舎にいるの~。


「安心してください。ユニークスキルですよ。私の前にも後にも聞いたことないスキルです。私も若いころはこのスキルで色々やりましてねぇ。疲れたので幼馴染の彼が村長をやっている村に来たんですよ。この村の人は素直に生きる人が多い。君みたいに人を気遣うくらいの嘘しかつかない。スキルに振り回されなくて済むんですよ」


 そういえばこの村の人は良い人が集まるようになってるみたいなこと言ってたな。神父さんもたまたまかもしれないけどその恩恵を受けてたんだ。まあしんどそうな話だし、ゆっくり過ごせるなら越したことは無いよな。


「そ、そうなんですね。……あ、じゃあそのスキルで罪悪感がすごかったから、さっきの人の話をぶった切ったんですか?」


「ぶった切った……。あぁ、さっきのですか。あっはっは!確かにそうですね。でも判断したのは今日ではなく、昨日ですよ」


「昨日ですか?」


 昨日って何があったっけ…。昼過ぎから他所の村の子が来てたんだっけか。


「ええ。昨日は連れてくる子どもの人数が多かったから大人も多かったんです。一緒に来ている大人から色々と感じましてね。今日はうちの村長がいなかったでしょう?代わりに件の村に行って調べてもらっています。今日のうちに解決は無理でも横暴な輩が大きな顔で歩くことが出来なくなるくらいには処理するでしょうね」


 人の良い笑顔で笑ってるけど、あのおっさんはもしかすると村長ではなくなるのかもしれないんだね。どんなことをやらかしてたんだろうか…。


「ちなみにすぐに動いてもらったのは理由は単純ですよ。昨日もあの方は来られてましたが、彼からは罪悪感は出てませんでしたよ。だからすぐに動いてもらったんです」


「え?」


「アーウィン、キミの年齢でこれを言うには早いかもしれませんが覚えておきなさい。世の中には罪悪感を持たずに罪を犯す人間がいるんですよ」


「ハイ。覚えておきます」


 神父様の笑顔が怖いんですけど。何か一番最初の人生で見たことある顔だな。横暴な上司に振り回されてどうしようなくがんばってた友人が行動を起こす前にあんな顔してた気がする。彼は元気かな…。


 完全にビビってしまった俺を気遣っていつもの笑顔に戻った神父さんは咳ばらいを1つして話を戻した。


「そんなわけでアーウィンの罪悪感が刺激されたのが1つ。もう1つは、あなたから神気を感じるようになりました。ほんの少しですが」


「しんき…?」


 心当たりがないので分からないという表情をすると意外そうな顔をした後にまた笑った。今の笑顔は週に一度の授業をするときの感じだな。


「知りませんか?まず我々には通常魔力がありますね。スキルを持っていなくても多少は備わっている力です。スキルの使用に魔力が必要なスキルもあるので人によって多寡はあります。ここまで良いですか?」


 頷くことで理解を示す。


「次に使う人が多いのが命力です。聞いたことはありますか?」


「めいりょく…。いえ、無いです」


「構いません。教えたこともありませんからね。肉体を使った戦闘によって鍛錬を積んだ人が使えるようになる力ですね。獣人などがよく使ったりします。彼らは先天的に魔力が少ない種族ですから。ちなみにアレクも使えるはずですよ」


 父は使えるのか。すごいみたいだし。学んでみたいな。

 あとは獣人さんいるんだ。会ってみたいな…。動物に触れ合う機会ってなかったしな。いやいや、神父さんの話をちゃんと聞いておけ。


「魔力、命力は鍛え上げれば使えるようになりますが、一般に知れ渡っているのはこの2つです。実はもう2つ、あるんですよ」


「そのうちの1つがしんきですか」


「はい。神の力を帯びた力のことですね」


 あ~~~、はい。しんきって神気ですか。犯人はヤツだ!心当たりありま~~~~す!!


「その顔は」


「はい。心当たりあります」


 おそらく神父さんのスキルで誤魔化しも効かないだろうから素直に答えるしかない。


「ちなみに神気を感じ取れる人って多いですか?あと隠す方法はありますか?」


「そうですね。真面目に修行した修道者やシスターであれば感じ取れるでしょうね。私くらいの年齢であればいますね。アレクくらいの年齢だとまだ難しいですね」


 なるほど。父くらいだとまだまだ無理で、神父さんくらいのおじいさんかおばあさんを注意すべしということか。年の功ってやつだな。考えて罪悪感沸いたらバレるからこの考えも散れ。


「隠す方法ですが、私は知りません」


「え」


「祈りを捧げている時に少し感じるだけの力の隠し方を知っているわけはないでしょう?」


「そうですね」


 メッセージの機能は使うつもりは無かったけど早急に消せるように何とかしてくれと送らなくてはいけないな。後ですぐやっておこう。


「それで、あなたの隠し事は聞いても良いことですか?」


「あ~、そうですね~…」


 全部を話すか。一部だけ話すか…。話すにしてもどれを?考えがまとまらない。


 悩む俺を見て神父さんがふっと笑う。


「あなたを試すつもりも無理に聞き出すつもりもありません。年上相手にも手が出ることはあってもあなたが家族思いの良い子であることは私も知っています。あまりにも罪悪感が大きいので一緒に背負うつもりで聞いたのですよ」


 子どもが背負うには余りにも大きそうだったので、と小声で呟かれていた。要するに心配してくれていたのか。元から信用していた人物ということもあって、体の力が抜けた。知らないうちにかなり緊張していたらしい。


「ふふふ。まあ今日は聞いておくのはやめておきましょう。あなたが落ち着いて話せるようになったらおいでなさい。一年くらい経っても全く問題ありませんからね」


「良いんですか?」


「神父をやっている人間が無理やり聞き出すわけないでしょうに。教会を頼りに来た者は漏れなく受け止めるのが私の仕事です。抱えきれないとなったらおいでなさい。どんなスキルを授かったとしても受け止めてくれる人はあなたの家族以外にもたくさんいると知ってくれたら良かったのでね」


 そう言って神父さんはウィンクを決める。あ~、この人若いころは相当モテただろうなと確信させるほどお茶目な笑顔だった。かわいすぎるよ。


「………分かりました。ありがとうございます」


 ゆっくり呼吸を整えてスキルについて考える。使った方が色々と便利ではあるんだけど、人に教えるかどうかの基準を考えていなかった。教えるなら両親が先じゃないかって気持ちもあるし。


「では魔力操作に戻りましょうか」


「あ、はい」


 最初の目的を果たすために神父さんと両手を繋ぐ。繋いですぐに神父さんから温かい流れが来るのが分かる。


「魔力の流れる感覚は分かりますか?」


「はい。これを自在に動かせるようになればいいんですね」


「初めのころはへそのあたりに魔力お大きな塊があるとイメージすると良いでしょう。微量しか流していないのに理解できるならあとは自分でやっても大丈夫です。急に大きく放出すると気絶しますから気を付けなさい」


「わかりました!」


 少しずつ多くしていくようにだけ厳しく注意されて教会を出た。信用できる人に見守られていると思うと少し心が軽かった。






「神気を纏うスキルなど聞いたことはありませんが…。アーウィンの行く先に幸多からんことを…」

お読みいただきありがとうございました。

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