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8 教会前、魔力操作練習での一幕

 昼頃に教会の前に集まった。魔力を使うスキル持ちの子どもは魔力の扱いに慣れている人からその運用方法を学ぶのだ。

 中には入らずに外で行うみたいだ。なぜだろう。暴走する可能性もあるからとか?練習するときにも気を付けないといけないのかな。その辺りも聞いておこうか。


 集まっているのは他の村の子どももいるので知らない子どもたちもいた。それでも全部で俺も含めて5人だろうか。連れてくるために一緒に来た大人たちもいるので思ったよりも人は多い。


「では集まったところで魔力操作の練習を始めましょうか」


「少し待っていただきたい」


「何でしょうか?」


 神父さんの仕切りで始まるのかと思いきや、それを止める男がいた。神父さんと小声で話しているかと思っていたら


「ならば結構!!」


 いきなり怒り出して戻ってきた。何だったのか分からないが、イチイチ首を突っ込まなくてもいいか。


「では今度こそ始めますね」


 そう言われて始まった。一番神父さんの近くにいた女の子から始めるようだ。一応今後の役に立つかもしれないのでタブレットで動画撮影をしておく。神父さんと女の子の両方が映るように近くまで飛ばすが、誰も気が付いた様子はない。本当に誰も見えないんだな。便利。


 魔力操作を学ぶ方法は割とシンプルだ。神父さんと両手を繋いで神父さんの魔力を流してもらう。その流れを受けながら自分の中の魔力を同じように動かしてみるのだ。自分の中の魔力の流れを自覚できれば後は自己鍛錬あるのみらしい。初めての時は本当に微量でないと危険なので上手な人にやってもらうのが良いらしい。

 ただ、魔力を自覚をもって使うようなスキルは高性能なものが多いらしい。近くの村の大人たちも顔を知っておく方が今後の顔つなぎになるためこの場を設けているのだとか。以上昨夜の記録より。


「では手を出してください」


「は、はい」


 神父さんが今対応している子は別の村の子だ。ここにいる以上、魔法に関するスキルなのだろうが厳密に何のスキルなのかまでは秘密らしい。あまり詳細を漏らすのは良くないみたいなので。同じ村の人なら知ってるんだろうけど、あまりそこまで興味はない。今は自分のことで手一杯だ。


 戻った記憶から考えると魔力の流れが見えないものかとじっと神父さんを見ているがさっぱり何も見える気配がない。せめてと思って周囲の大人子どもを鑑定モードで無断撮影しておく。詳しく見るのは後で良い。空中をぼーっと見つめるとかどう見ても怪しい子どもにしか見えないしな。


 俺は何番目なんだろうかと思って、大人しく順番待ちをしていると今の俺よりは体が大きい子どもがいきなり話しかけてきた。



「おれの名前はビース。おれのスキルはせいきしだぞ!おれの手下にしてやろう!」


 何か失礼なことを言っている気がするけど。対応は雑でいいか。


「誰?お前」


「は!知らないだろうからな。1回は許してやる。俺は村長の息子でせいきしスキルの持ち主のビース様だ!お前もここにいるってことは強いスキルを持ってるんだろ。おれの子分にしてやるぞ。そしておれの子分をこの村にふやすんだ」


 なんだ、アホの子か。さっきからせいきしって言ってるけど聖騎士か?名前だけは立派だな。でも声の大きさが距離と合ってない。


「イヤだ。うるさい。断る」


「よし、じゃあ……は?」


 断られるとは思っていなかったようで得意顔から困惑へと表情が変わっていく。今の言い方で初対面の子どもに通用するわけが無いと思うんだが…?

 どこの村か知らないけど連れて来たのならちゃんと首に縄付けて管理しとけよ。さすがにこの村の子どもはこんなこと言うヤツいないぞ。俺が下の子はもちろん3歳上くらいならきちんとしつけたからな。


 困惑に染まった顔の子どもの後ろには同じような顔をした大人が一人いる。さっき神父さんに話しかけてた男だ。よく見ると似ている。あれが父親か。ということは村長自ら子どもを連れて来たってことか。じっと見ているとこちらにズカズカと足音を立てながら近づいてくる。


「うちの子の言うことを聞かんとはどこの村の子だ!」


 え?怒るのそこ?驚いているとさっきの子どもが乗っかってくる。


「そうだ!せいきしのおれに逆らうといたい目にあうぞ!」


 親の登場に勢いを取り戻したのか陰で声をあげだした。自分のやっていることが間違ってないって顔に戻っている。


「いや、別の村の子どもにいきなり手下になれとか言う方が変じゃないですか」


「何を言う!お前はまだ子どもだから知らないだろうが、ジョブスキルの持ち主は国の中でも優遇されるような存在になるんだぞ。今のうちに私の子の従者にでもなれば国の首都で好待遇を受けられるのだ。このチャンスを掴もうとは思わないのか?」


「やめてもらえますか。その子はこの村の子です。揉め事を起こされるならお引き取り頂いても構いませんよ」


「神父さん…」


 場を仕切る者として神父さんが仲裁に来てくれた。珍しく怒っている。庇ってくれているとはありがたい。


「神父様。ジョブスキルを発現した子に向かってそれはないでしょう。あなたの株も上がるというものですよ」


「私は既に隠居の身、今更出世しようなどとは思いません。しかもただ担当したなんていう運に縋るつもりなど毛頭ありませんので。それよりも平穏を望みます。無用な争いを起こすような方はお帰り頂いて結構です。アーウィン来なさい」


「は~い」


 呼ばれたので神父さんの元へと急ぐ。


「さ、さっきから私の子を優先しないとはどういうことなんだ!?」


「神の名において皆平等です。ただし、個人的な好みですが上下関係を付けようとする方は嫌いでしてね。昨日の時点からあまりあなたの相手はしたくなかったのですよ」


「この村よりも今は私の村の方が栄えているんだぞ!本当ならあなたは私の村にいるべき人のはずだ!」


 うちの村長が白髪もきらめくおじいちゃんだとすると、この人はまだ若い。父アレクよりも少し上の年齢かな。まあやり手ではあるのだろう。人望が無さそうなだけで。この人の村人は大変だろうな。憶測だけで言ってはダメか。


「そういうのは私はもういいのですよ。若い時に散々やりました。今の私と同じ価値観で暮らしてくれる方々が多い方が良いですね。あなたのお考えとは一致するとは思いません。お引き取りください」


「もういい!無駄足だった!後悔するぞ!」


「その言葉は何かするつもりですかね。私だけならば結構。村の者にまで手を出すようであれば私も容赦は致しません。あ、そうそう。お子さんへの魔力操作の方はやりますのでどこかに行くのはあなただけですよ」


「不要だ!行くぞ、ビース!」


「最後ならば一言だけ。気を付けてください。親の振舞いを子どもは全て見ていますからね」


 聞いていたのか分からないがさっさと帰っていってしまった。ビースという子どもも困惑した表情で父親に引っ張られながらどこかへ行ってしまった。


「騒がしくして申し訳ありません。今見たことについてどう伝えるかはお任せいたします。それぞれの村で検討してください」


 それを言われて他の村から来た人たちは帰っていく。要するにうちの村からは魔力が必要そうなスキル持ちは俺以外いなかったんですね。って俺の魔力操作の練習は?


「では、アーウィン始めましょうか。立っていて疲れました。中でやりましょうか」


「あ、分かりました」


 教会の中に誘われたのでついて行く。


「よっこいしょっと。すいませんね。年は取りたくないものです」


「いえいえ。いつもありがとうございます」


 向かい合わせで座って両手を握り合う。


 う~ん。


 う~ん。


 あ、なんか流れてる気がする。これが魔力か。自分の中にもあるな。うん。うまくいきそう。これならあとは自分でもいけるな。




「アーウィン、あなた何か隠し事してるでしょう」


 表情が固まるのを自覚した。

お読みいただきありがとうございました。

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