7 昨夜、大人たちの会話
さて、おはようございます。俺だけに聞こえるサイレントアラームで起きました。サイレントなのかアラームなのか謎だね。俺以外に聞こえないアラームだと思ってくれたらいいよ。
昨日一日の密度が濃すぎて大変です。思い出した記憶の量が多すぎて頭が重いけど、ゆっくりしている暇も無いので早いところ活動を開始します。
見えないようにして録画をしていたタブレットを呼び寄せて内容を確認する。寝ている時でも使えるんだという確認がしたかった。それと昨日の晩の両親の会話を確認したかった。おそらくレアでは足りない、ユニークスキルである『出入』について何か話すんじゃないかと予想したのだ。
再生して見てびっくりだ。なんと村長と神父さんまで参加していた。
「遅くなって申し訳ありませんな。おや、私が最後でしたか」
「お気になさらず。どうぞ中へ」
「ありがとうございます」
神父さんは父アレクに促されるまま案内された席へと座る。腰掛けると母ウィノナからすぐに温かいお茶が用意される。
「ご丁寧に」
「いえいえ。我が子の話をお聞きするためですから」
既に座っていたの村長も出されていたお茶を一すすりしている。案内が終わった両親もいつもの席に座る。
神父が来る前は3人でこれからの開拓計画や雑談をしていた3人だったが、集まった理由のカギを握るのか神父さんが来ると緊張感が増した。神父がお茶を飲んで一息ついたことを確認するとアレクは本題を切り出した。
「それで、神父様。アーウィンのスキルはユニークスキルですか?」
「そうでしょうな。私が分かった範囲だとどんな大きさでどんな量でも袋を通して持ち運びできるようですね」
スキルを授かるとき、神父さんも何のスキルか名前だけは分かる。初めて見るものだった場合は本人と一緒にある程度は確認するが、俺は頭痛で倒れて起きた後にすぐに逃げたから一緒に確認する時間を持たなかった。
戻った後に少し見せただけだ。思った通り袋を通して発動するスキルだと思ってくれたようだ。袋よりも大きなものを扱うときはボロが出そうなのでとても大きな袋を用意しておこう。
「それに少しだけ魔力操作が出来るようになっていました。驚異的な早さですね」
「えぇ…!?」
「う…うそ…」
「な、なんと!!?」
残りの3人が信じられないと声をあげる。信じられないが村民の中では魔力について一番詳しい神父が言うことであるので信じるしかない。信じられないと言ったところで話が進まないという顔だ。進まないようだが、一言くらいは言わないと気が済まないとアレクは口を開く。
「俺でも魔力の扱いを覚えたのはスキルを授かってからかなり苦労したんですよ?コツコツ1年以上はかかったのに…」
その言葉から察するにスキルが授かったとしても、いきなり魔力が自在に使えるようにはならないようだ。魔力を扱っている感覚がないので少し戸惑うばかりだ。『出入』を使うのに魔力が必要でそれを勘違いされているのかな?手を握ったり開いたりしてみるが良く分からない。
「珍しいスキルのようですが、事実としてそのようですからね」
「受け止めるしかなさそうじゃな」
「そうなんですね…」
老人たちの会話を聞いて両親は萎れた顔で項垂れる。珍しいスキルなのにそんな表情になられるとキツイんだけど…なぜだ?
村長は神父さんの方を見ると両親に気の毒そうな表情を浮かべている。
「簡単に報告をあげるわけにはいかんようじゃな」
「すいません。村長。実家が何て言ってくるか分からないので」
実家、両親の実家。つまりは祖父母か。両方とも面倒なことを言ってくるのか、どちらかだけか?それは話に挙がらなかったので不明だ。
「で、あれば今回は別の村でしたが聖騎士スキルの子どもがいましたからその子のことだけを報告しましょう」
「それは神父様にご迷惑がかかるのでは?」
その提案はありがたいという表情を一瞬浮かべたアレクだが、我が子のためにお世話になった神父に迷惑をかけるわけにもいかないと神父に訴える。
必死の表情を浮かべるアレクを見た神父は同じ表情のウィノナを見ると何も問題無いと笑う。その横で今までに笑う神父の顔を何度も見た村長が二人を労わる。
「こやつもこんな顔をして若いころは暴れん坊だったからな。この年齢になってもそれが治ってないだけじゃよ」
「それにこの辺りの村から珍しいスキル持ちが同時に何人も出るなんてことは今までもありませんでしたから。自衛が出来るようになるまで報告しないようにしておきましょう。前例のあるスキルの方が報告が優先されるとか色々と言い訳はできますからね」
そんな報告でも許されるのか俺にもイマイチ分からないが、村長と神父さんを見ていると信用しても良いらしい。
というか村長のあんな笑顔初めて見た。なんというかイタズラが成功した子供の笑顔って感じだ。でもそれが何となく村長の優しさであることが分かった。母が感極まってか泣きそうな顔をしているからだ。
「過去の恩も返せていないというのに…、ありがとうございます…!」
「村長…、俺はまだまだ恩を返すまでがんばりますから…!」
「気にせんでええぞ。老人がやりたいようにやっておるだけじゃ」
おそらく結婚すら認められなかった両親は実家から逃げてきたのではないだろうか。それを村長に庇われたとか?息子としては真っ当な理由で両親が逃げていることを願うのみである。
「私も話を合わせておきましょう」
「頼むぞ。あとは村の大人には同じように説明することと、子どもたちにもスキル持ちであることを簡単に口外せんように話しておかねばならんな」
「「ありがとうございます」」
「気にすることではない。多かれ少なかれ秘密は誰にでもあるからな。では明日の朝からそのつもりで動くとするか」
「アレク。明日、魔力操作の説明をすることを伝えておいてください。アーウィンには不必要だと思いますが」
「そうじゃな。自分で魔力操作できるようになったことは秘密の方が良いじゃろう」
迷った表情をした母はその様子に気づいたアレクに言われて2人に質問している。
「あの…」
「どうかしましたか?……あぁ、アーウィンには不必要だと言ったことですかね?」
すぐに察することが出来る神父さん、マジ紳士。
「そ、そうです」
「心配にさせて悪かったね」
自分が言ったことが原因と気が付いた神父さんは言葉が足りなかったことを詫び、ちらりと父を見た。自分が言うよりも説明を任せた方が良いと判断したらしい父は頷くことで返事としている。
「スキル持ちは最初のきっかけだけ与えておけば魔力の扱いの得手不得手は自己責任なんですよ。アーウィンは既に魔力の制御も出来るようになっているようですから本当は明日来てもらう必要はありません」
「最初に使えるように少しだけ魔力の流れを自覚しておかないと逆に危険な場合があるんだよ。ウィノナはスキルが無いから分からないかもしれないけど話は知ってるだろう?」
「知ってはいます。なんだかアーウィンだけ特別扱いされて少し心配になったんです」
「キミ達の子です。大丈夫ですよ。危険なことだけしないように気を付けてあげてください。母が悲しむと言えば自重もするでしょう」
「分かりました」
ホッとするウィノナの肩を抱くアレク、その二人を見て微笑む村長と神父だった。
その後は4人で少しだけ打ち合わせをした。とは言っても村長と神父が主導する話なので父と母はほとんど聞いているだけだった。一つだけ口を挟んだのは俺には出来る限り時間を与えて自分で訓練するなら良し、訓練をしないのなら神父のところに通う日数を増やすこととなった。じゃあ自己鍛錬と言って自由時間をもらうことにしよう。
後は魔力操作が必要なスキルを授かった子が集まるのは明日の昼過ぎだと確認してから帰っていった。
見送った後両親は先程まで座っていた椅子に掛けるとどちらともなく話をし、ふと途切れたタイミングで母が俯いた。
「大丈夫かしら」
「大丈夫さ。俺がキミも子どもたちも守るよ」
「ありがとう、アレク」
「あぁ、ウィノナ」
二人は抱きしめ合うとどちらともなく顔を向かい合わせ、そして……
あっぶな~~~~~~~~~い!!
両親の仲が良いことは知っているが、生々しいところを見るのは避けたい。『そういう』知識、記憶は当然ある。あるが親と認識している人たちのそういった場面を見るのは激しく抵抗がある。しかも朝。速攻で停止をタップした。
確認し終わってもいつもよりもまだ早い。横で良く寝ているナークの頬をつつきながら今日の予定を確認する。
昼までに家の手伝いを終わらせて昼からは教会だな。あんまり自由時間は取れなさそうだ。
あと両親の状況は複雑なようだ。祖父母たちの話が今まで一切出て来なかったことに納得がいった。
そして自分のスキルは相当に珍しいことだ。前世でも『珍しい』ことは一長一短だった。身を守ることについてしっかりと考えておいた方が良さそうだ。
何にしてもスキルの訓練はちゃんとしよう。あれ?魔力の訓練とは別なのかな?
昼からの話もちゃんと聞いた方がよいかもしれない。タブレットで調べるのはその後かな。
お読みいただきありがとうございました。