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6 戦闘と帰宅

「ぐぅぅっ…!!」


 メッセージを読んだことをきっかけとして色々と記憶が蘇ってきた。ただ、気持ち悪いようにぶつ切りでしか思い出せないところは記憶をいじられているところなんだろうと納得することにした。


 しばらくして頭痛が治まった頃に改めて内容を整理しようと顔を上げると赤いものが見えた。


「え…?」


 それは見かけたらすぐに逃げて大人に知らせろと言われている赤スライムだった。普通の白スライムに比べると凶暴さが増している。体当たりなど食らおうものなら大人でも危険だと聞かされている。


「や、やば…」


 すぐに村の方向に行こうと振り返るとそちらには同じ赤スライムが2匹いる。スライムなど初めて見たが目も口も無い赤い塊でしかない。ただぽよんぽよんと跳ねるさまが獲物を見つけたと喜んでいるように見えて恐怖が沸き上がる。


 とにかく逃げなければ…!


 前後を挟まれているからと右に逃げようとするとそちらを見た瞬間に判断が遅かったことを悟る。


 最初に見つけた個体が既にそちらに回り込んでいたからだ。スライムの捕食はまず体当たりで獲物の足を止めて動かなくなるように捕獲し、最後にはゆっくりと溶かしていく。決してザコの類いでは無いことは言い聞かせられていた。


 というよりも村の近辺に現れるようなものでは無いはずなのに、と短い間に必死に打開する方法を考えるが思いつくわけも無く、せめて赤スライムの衝撃に備えようと体に力を入れる。




 ぽよ~ん




 ん?



 腹のあたりに何かが当たる感触だけを感じた。何度か。




 目を閉じていたので何事かといつまで待っても予想していたような衝撃が来ないので恐る恐る目を開くと赤スライムが何度も体当たりを仕掛けていた。な~んにも痛くない。


 やがて一体では無理だと判断した赤スライムは3体でかかってくる。ぽよんぽよんと繰り返す。ただじゃれているだけの光景にしか見えず自分のことなのに他人事のように見てしまっていた。



 あれ?赤スライムって実は弱いの?



 本人(?)たちも疑問に思ったらしく、相談するようなそぶりを見せた後でそのうちの一体が代表となって近くの木に体当たりをする。



 ドン!ゆさゆさゆさ~



 あ、結構な衝撃ですね。大人を一撃で仕留めるって話は本当だったみたいだね。え?じゃあなんで俺は無事なの?


 疑問に答えてくれる人はおらず、再度自信を取り戻した赤スライムは再度俺に仕掛けてくるが、やはり俺には何のダメージも無し。さすがに状況の変化を求めたくて攻撃の意思を固める。向かってくるタイミングに合わせて、


「えい」


 ドパン!!


 一撃で赤スライムの体を拳で打ち抜けた。爆発四散という言葉がふさわしい。


「What??」


 思わず使ったことも無い言葉が久々に飛び出してしまった。自分の拳と状況を何度か見比べる。気が付けば残り2体の赤スライムからの攻撃も止まっていた。どこに行ったかと見てみると固まっていたが、俺が見た瞬間にびくっと震わせたあと一目散に逃げてしまった。



 良く分からないがピンチは切り抜けることが出来たようだ。ほっとしたがこれは少々マズイ。赤スライムなんてスキルがあると言っても6歳の子どもが何とか出来る魔物ではない。しかもダメージを食らわなかったことに関して自分でも理由が分からない。ついでに赤スライムの体液が体についているので言い逃れも出来ない。


「え~、これきれいに出来ないかな。でもスライムの体液ってそれはそれで売れるものなんだっけ」


 ポーションの材料になるとか何とかだったような。では、試してみよう。タブレット起動!撮影!


「どれどれ。あ、確かにポーションの材料になるんだね。集めないと、ってそうか!」


 そのための自分のスキルではないか。ひとまず袋を出して手の届く範囲から入れていく。その作業中に革命的なことに気が付いた。


「手をかざすだけで発動してる!」


 俺がイメージする出し入れという行動に袋が関係しているだけだったようだ。手をかざすことも無く自分のイメージする通りにスライムの体液を入れることが出来た。地面に飛び散っていたものもきれいに回収完了だ。思ったよりも便利だ。


「ということは、手の届かない場所にあるものも回収していける…?」



 ダメージを受けない体のことは未解決だが、メッセージの内容に関しても整理が付かないまま新しい謎だけがどんどん増えていく。一旦全て放置で村へと帰る。その道中で果実や普段は見つけられない薬草なんかを回収していく。しゃがんで土を掘ることも無く、根っこごと回収することが出来る。神父さんへとお土産としては果実よりもこっちの方が喜んでくれるだろう。


「めちゃくちゃ便利なスキルじゃん。おっと、これは毒草か。危ないから全部抜いておこう」


 タブレットも持つ必要がなく自分の思い通りに飛んでくれるし画面を通せばどんなものかを判定してくれる。一気にチートだ。


 両方とも便利なので出来ることを把握することは絶対に必須なのは確定だ。ナークを寝かしつけてから眠るまでは色々と確認しよう。父アレクの手伝いも出来るだろうし、森から素材を集めて来て売れば両親に楽をさせられるのではないだろうか。


「これはやる気出てきた!でも、ばれたら大変だからそこだけ気を付けよう」


 タブレットのことは秘密にするとして出入のスキルの方も袋を介して発動できるスキルだと限定しておこう。いくらでも発動可能ってなると物が無くなったときに毎回犯人にされかねない。疑われるだけで精神的に参ってしまうことはありえる。狭い村社会であれば猶更だ。


「よし、目指せ平穏!」


 右拳を上に突き出して村まで警戒しながら歩いて帰っていく。薬草なんて少し歩くだけで見つけられるなんてことに疑問をもたないまま。



 きちんと帰りに教会で薬草を神父に渡して驚かれ、帰宅してからは手品よろしくナークを出入スキルで驚かせた。


「これはなんの特徴も無い袋です。ナークくん、どうぞ確認してください」


「は~い。………何も入ってないよ」


「ふっふっふ。甘いよ、ナーク。こんなにたくさん果物が入っているじゃないか!」


 そう言って採取してきたビワを取り出して見せる。


「ええっ!?そんなの入ってなかったよ!見せて!」


「どうぞ」


 そう言って袋を渡す。本当にただの袋だから種も仕掛けも出てくるわけが無い。


「え~、なんで~。もっかいやって!」


「いいだろう。今度はこの袋の中にしまってなくしてしまおう。例えばこのさっき出したビワを入れてみよう」


「なくなった!なんで!?」


「そういう風なことが出来るスキルなんだよ。へ~、すっごい!そしたら見られたくないものとか隠せるね」


 さすがは我が弟!既に見られたくないものがあることを見抜いてらっしゃる。やるとは思ってたがナチュラルに兄の弱点を見破るとは見事だぜ。


 袋を媒介にするということを外せばもっとすごいことも出来るんだが、いきなり自分で課した制約を破ることはしない。両親も見てるからな。


「あんまり寝る前にナークを興奮させるなよ」


「また眠れなくなるわよ」


「は~い。じゃあナーク、今日はこれでおしまいだ」


「え~。もっと見たい!」


「また明日な。俺は先に寝る~。おやすみなさい」


「兄ちゃんズルい!ぼくもねる!おやすみなさい!」


「「おやすみなさい」」



 ナークがじゃれてきたが、何とか寝かしつける。ナークの寝息が聞こえたところでタブレットを少し操作して俺も寝た。寝ている間も実験だ。

お読みいただきありがとうございました。

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