5 超常存在からのメッセージ
そういえば画面に表示される文字は前世でも見覚えのある文字、2周目と同じだ。最終的に文字が読めるようにはなっていたし、今は神父から文字を学んでいるため読むことだけは出来る。まだきれいに書くのは難しい。
つまりこの時点でここは2周目の世界と同じか、非常に関係のある世界と考えても良いのではないだろうか。読みたくない意識が読むのを先延ばしにしようとさせる。
「読まないとダメだよな…」
確認すべき1件のメッセージをタップする。
この手紙を読んでいるということは無事に6歳を迎えたことでしょう。おめでとうございます。
わたしはこの世界を管理する者です。まあ超常の存在だと思っていただければ構いません。
まずは謝罪をさせてください。今更ではありますがご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。謝罪しても仕方が無いことは承知しています。以前は過酷な生き方を押し付けてしまうことになり、どれだけ言葉を尽くしても不足することを申し訳なく思っています。
辛い記憶は可能な限り消えているでしょうか。我々の方でも念のため手を加えましたが不快なことになっていませんでしょうか。あまり魂をいじると精神が壊れてしまう可能性もあるため記憶が少々残っていた場合は申し訳ありません。授けたスキルを使いこなせるようになればご自分でも調整することが出来ますので成長したのちにご確認ください。
今回のメッセージは謝罪と主にスキルについての連絡をメインにさせていただきます。
では早速スキルについてお知らせいたします。『 出 入 』は習熟度によりあらゆるものの出入りを可能とします。まだそれほど定着していないでしょうから少しずつ慣れていき、ぜひ有効活用してください。
他のスキルと同様に使えば使うだけ出来ることが増えていきます。はじめは水や土、石などを繰り返し出し入れすることを訓練にすることをお勧めいたします。動物や魔物などの生物を入れることは出来ませんので、無機物や植物や食料などを入れて必要な時に備えておくことも良いでしょう。
これでいつでもサバイバル生活に突入できますのでぜひお楽しみください。
また、戦闘に使用するにはかなりの習熟度が必要になります。すぐには使えませんのでこれに関してはこれから先のお楽しみとしてください。スキルの詳細は自分で深めていくものですからアドバイスはここまでに致します。
それではもう一つのスキルである。この『タブレット』に関してご説明いたします。
あなたになぜ2つのスキルがあるかという疑問をお持ちでしょう。以前は『あなたに』使用して頂くことが出来なかったためです。これも我々の感謝と謝罪の気持ちです。謝罪については先程述べた通り、謝罪については後述とさせていただきますね。
まず重要な点ですが、基本的には以前のあなたのスキル『異世界情報端末』をベースに2つの点で改良しています。
1つ目にはあなたの魔力を使用しますが、念じることでほとんどの操作を自由にすることが可能となっています。遠隔飛行、手元への瞬間移動、人の目に見えないよう透明化、簡単な機能であれば念じることでの使用も可能です。
2つ目は利用できる機能を増やしました。以前の検索機能はそのままに、カメラは写真や動画の撮影が可能です。また様々な機能を増やしています。
新たな機能改善が必要になった場合はこちらまでご連絡ください。
さて前述のとおり、前回の記憶を封じているところはあります。が、今回のあなたには今までの2回の生の代わりに穏やかに過ごしてもらうことが出来るように、と考えております。
今あなたは前回亡くなってから約500年ほど経過した世界に生きています。
少々状況を詳細に記載しますが、あなたが以前生きていた世界、地球は実験的に魔力を必要としない発展の仕方をしていました。しかし、魔力は存在しているのです。生物が感じられないだけです。
既にご存知だと思いますが、あなたがこちらの世界に来ることになったのは偶然でした。決してあなたを意図的に命を失わせることになるとは想定していませんでした。
そこで緊急の対応としてあなたにも役割を担ってもらうことで平穏に過ごしてもらおうと考えました。我々が望んでいた役割である『地球世界の魔力を分けてもらうための楔』としての適性があるあなたには役割を果たしてもらうことにしたのです。
亡くなった瞬間の引きちぎれそうになっていた魂を引き取りこちらの世界で生きられるように何とか幼い肉体で再生しました。とはいえ幼くなったあなたでは戦闘は無理でした。そのため情報系のスキル『異世界情報端末』を付与していました。
あなたが急遽こちらへ来られたおかげでこの世界を安定させる作業に取り掛かることができるようになりました。召喚した者たちを監視する役割の者たちも含めて全力で。それが間違いでしたね。
戦力として見込んでいた魂は余りにも短絡的にしか思考しないことに気づかず、世界に混乱をもたらしました。そしてあろうことか勇者を名乗り楔であるあなたを害しました。
気が付かずにあなたを結果放置してしまったこと、この点に関しては何の申し開きも出来ず、ただただ申し訳ないと不手際を詫びるばかりです。
召喚したことによる世界の歪みを修復し終わり、世界の確認をして初めてあなたの状況に気が付きました。すぐに我々の手の者を派遣し、あなたの生活を改善しました。
以前のあなたも最後の2年ほどはゆっくりと生きることが出来たとは思いますが、人としての生を終えようとしていたあなたに生活の急激な変化は負担と考え穏やかに生きられるようにだけ整えました。
恩着せがましく感じる必要はありません。ただ出来る限りをさせていただきたいというこちらの意志だけはご理解いただきたいのです。
やがて前回の生が終わったあなたの魂を回収し、今回に繋がるように保護させてもらったのです。あなたがいなければ世界の歪みを修復するには時間をかけるしかありませんでした。魔力が決定的に不足していたからです。今この世界に魔力が溢れているのはあなたのおかげです。
よって、今回の生は穏やかに生きてもらうために平穏な時代を狙って転生させています。御承知の通り、あなたの両親はこの世界でも良い精神の持ち主ですし、過ごしている村の者も善良な者を選んでいます。ただ、村の外には悪事をはたらく者もいますから注意してくださいね。
ちなみにあなたが作り出した技術を不当に搾取した上で栄えていた王国諸々に関しては我々の方で削除しました。自称勇者に関してもすぐに誅滅致しましたが、ほとんど生き残っておらず残念でした。その血に連なる者までは消し去ることは出来ませんでした。我々も一枚岩ではなかったのです。この世界に生きる者として受容するべきだとの意見が出てしまいました。ほんの少し混じるくらいなら影響はありませんが、そう上手くはいきませんでした。
今のあなたが生きている10年前のことです。自称勇者たちの血と思想を濃く受け継いだ人間たち、邪人族と名付けて世界に定着させましたが、その中でも特に強かった者である邪王を我々が派遣した英雄が滅ぼしました。可能な限り多くを滅ぼさせましたが、少し取り逃がしました。世界の敵であるという神託は下ろしていますが、根絶はどんなものでも難しいものです。
邪人族は姿も普通の人間と同じですから気を付けてください。世界規模の誅滅対象ですから遠慮は必要ありません。『出入』での戦闘が使えるようになれば簡単に滅せますからね。
自称勇者の子孫たちを保護するように謳っていた存在たちに関しては邪王が現れて世界を乱した時点で我々の中での階級を落としました。世界の歯車としてしか活動できないように封じ込めて自由に動くことが出来る者が増えるよう拘束して肩代わりさせています。簡単には手出しできないようにしましたから安心してください。
それから以前に作り出した技術は他国に出回っていた害の無さそうなものは残していますが、時の経過とともに現物は朽ち果てています。当時の技術者が解析し遺した書物などから技術を再現して栄えている国や都市もあります。ご自分の目で確かめるのも良いかもしれませんね。
では、あなたの健やかなる生活を過ごすことを願っております。
読み終わった俺は画面を伏せて呟く。
「長いよ…」
読むだけで疲れた。
お読みいただきありがとうございました。今日はここまで。明日は1話かも