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2 転生前の記憶を思い出す 


「本当に申し訳ございませんでした。色々と付けてありますのでご確認ください」


 女性の声で謝る声が聞こえた。






 それとは別に何かに『出せ』と言われているような気がした。同時に何かが『入って』くるのも感じた。






 目を覚ますと教会の中にある別室だった。たしか治療室として使われていたはずだ。


 既に頭痛はすっかりと無くなっている。そっと周囲を確認するとスキルを授けてくれた神父が難しい顔をして本をめくっている。

 神父さんの年齢は村長よりも年上だとは聞いているが、それでも聞いている60代という年齢にしては若々しい。ただ見かけの年齢に関して俺は何も言えない。俺も肉体年齢と精神年齢が一致しないからだ。


 目を覚ましたらいつまでも寝ていられないので、体を起こしながら声をかけてみることにした。


「神父様」


「あぁ、アーウィン。良かった。目が覚めましたか」


 声をかけられたことに反応した神父さんは、俺の方を見て息を吐いた。安堵の息ってやつかもしれない。持っていた本を閉じるとベッドの横の椅子に腰を下ろして顔をじっと観てくる。


「目を覚ましてくれて良かったです。何か体の具合が悪いところはありますか?」


「大丈夫だと思います。今は問題ありません」


「ふむ」


 言葉だけでは信用してもらえなかったのか。顔を更に覗き込み、頭に手を当てる。すると頭の上からほんのりとした温みを感じる。激しい痛みに侵された頭がよりスッキリする感じだ。まだ少し痛かったんだと気付かされた。これが癒されたってやつらしい。見たことはあったが体験するのは初めてだ。これが治癒魔法ってやつだな。


「一応説明をしておきますが、スキルを授けてからあなたは倒れました。今も治癒魔法で癒しておきましたが、原因そのものは、不明です」


「分かりました」


 素直に返事すると更に神父さんは説明を重ねてくれた。


「あなたが気を失っていたのはほんの少しです。あなたをこちらに連れて来る前に他の子どもたちに呼んで来るように頼みましたが、まだ来ていません。それくらいすぐに目を覚ましたということです。それからあなたのスキルを軽く確認しましたが恐らく前例の無いスキルのようです」


「そうですか。大丈夫です。自分で色々と確認してみます」


 前例がないスキルということはこのスキルで何が出来るか全て自分で探っていかなければならない。まあそんな心配もいらないのだが。


「アレクとウィノナとの相談になりますが、王都に行って検証してもらうことも出来ます。そういう道もありますが…」


 何だか行ってほしくなさそうだ。この人は両親の事情を何か知っているのかもしれない。まあわざわざ行きたくは無いので俺も自分で検証するに一票だ。


「分かりました。でもたぶん行かずに自分で確認します」


 そんなやり取りをして神父さんがホッとした顔を浮かべたところで、外から声が聞こえてきた。


「ア~~~~~~ウィ~~~~~~~ン!!」


 声が聞こえたと俺が認識した時には神父さんは既に壁際に避難をしていた。動きが見えなかったぞ。同時に緊張で身体が強張る。あの声は母ウィノナだ。


 もう一度自分の確認をする。自分の名前はアーウィン、父アレクの息子で母はウィノナ。弟の名前はナーク。転生した記憶はあったが、実は3回目の人生だ。思い出したが2回目の人生が記憶から抜けていた。にしても思い出した人生がひどすぎだ。ちょっと整理しよう。




 1回目は地球の日本育ち。悲しいことに成人前には天涯孤独の身だった。享年は37歳。ここ大事。最後の記憶は出張の飛行機で修学旅行の高校生集団と近かったことだ。いきなり光に包まれたかと思ったら人生が終了していた。今までの俺にうっすら残っていた記憶はこっちの方だ。



 思い出した記憶によると2回目の人生はすぐさま迎えていた。

 最初の記憶はデカい人間たちの背中が見えることと思い通りに動かない体への戸惑いだ。まあ種明かしをするなら異世界召喚に巻き込まれたんだ。17~18歳の年齢の人間たちを対象としていたらしいが、37歳の俺も不具合か何かで巻き込まれた。原因は知らん。

 そしてそのバグにより俺は3歳になっていた。体も年相応になったから、周囲にいたやつらは全員デカく見えて当たり前だ。デカい背中は一緒に連れて来られた高校生たちだったってわけだ。しかし2回目の人生は約1時間でで平穏との別れを告げた。


 高校生女子たちに抱っこされながら運ばれた先で念のためにと一緒にスキルを確認された時点で終了したんだ。俺のスキルは『異世界情報端末』だった。簡単に言えば異世界タブレットだ。文章検索、画像検索、果ては動画まで閲覧できた。他に機能は無かった。

 動力は俺の魔力だ。ただ魔力も計ってみると通常の大人の一万倍はあると言われた。魔力が尽きない限りはタブレットは誰でも使用可能。当然のように最初に奪われてから俺の手元には戻らなかった。俺が触ってないと消せない仕様みたいで一度出現させて取り上げられたら、後はどうしようもなかった。


 一か月もしないうちに召喚した側の城の者たちと調子に乗った一部の高校生たちが兵器を量産し始めた。召喚された理由は魔族に対抗するためとか言ってたがどう見ても怪しかった。後から分かったが別の目論見として世界征服も考えていたらしい。その世界にも魔法や魔道具があったからアイディアさえあればこっちの世界でも実現可能だったわけだな。目的だった魔族や魔物の殲滅も余裕を持って終わらせたが、話はそこで終わらなかった。


 高校生たちは希望する者は帰還できたが、希望しない者は残留した。無理矢理帰還させられた者もいたが、残らされた者もいた。俺?俺は希望しても戻れなかった。バグによって向こうの俺の肉体は存在していないからと言われたが、だったら待遇を改善してほしかった。聞いてもらえるわけも無かったが。


 理由は簡単。奴隷として既に縛られていたからだ。召喚した者たちからすれば異世界の知識や科学を知ることが出来る道具なんて見逃すはずがなく、召喚された日の翌日の朝には起きたら見知らぬ首輪が付いていた。成長と共に大きくなる首輪って何だよ。なんでそこだけ高品質なんだよって笑うくらいには心の余裕はあったな。


 そうそう。もう一つ理由があった。俺の保有魔力を有効活用したかったらしい。大人になればもっと保有魔力が増えるから相当な有効活用が出来るって言われた。物じゃないって言いたかった。


 そんなわけで生活環境は普通の奴隷よりもマシだったにしても、自由が無いのが辛かった。同じような環境の知り合いはいたが、俺には行動の自由はほぼ無し。タブレットが無くなっても困るし魔力装置としても逃がしてもらえなかった。死ぬ間際には魔力を吸われることに同情した奴らが優しくしてくれたがが、ただ生きるだけが俺の2周目だった。大体80歳くらいまで生きたのかな。


 一緒に召喚された高校生たちが寿命やなんかで死んでからは俺が詳しい説明をすることになった。だから最後だけは少し人間らしい生活を送れたように思う。それでも細かいことは思い出せない。思い出したい記憶でもないが。


 スキルを授かったことがきっかけで、こんな感じの2周目の記憶までついでに戻った。


 まあ正直この記憶は今思い出すので良かった。生まれた直後からこんな記憶あったらショック死してたかもしれない。




 比較してみると分かる。両親に揃って愛されている今世はなんと幸せなことだろうか。記憶があることで色々と申し訳ない気持ちにはなるけれど。


 おぼろげな記憶があった頃以上に、こんな悲惨な記憶があることはバレたくは無いから何とかしていかなくてはと思ったとき、部屋の扉が勢いよく開かれた。

お読みいただきありがとうございました。

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