19 そんなつもりはなかったと供述しており…
袋から取り出す振りをして動物牧場のアイテムに保存してあったリンゴを2個とコップに入った水、それから低級ポーションを取り出す。
「チューフ、このリンゴ1つを切ってお兄ちゃんに、1つを摩り下ろすかして弟くんが食べやすいようにしてくれる?」
リンゴを渡すとチューフは何も言わずに受け取った。それと深めの木皿も2つ用意しておく。チューフはナイフを取り出すと一瞬で切って皿に並べる。おまけにりんごのウサギさんになっている。俺では見えないほどの早業である。もう一つのリンゴもナイフで細かく切ってすりおろしと変わらないように仕上げてくれた。
「ありがとう」
お礼を伝えるとコクッと頷いてくれた。チューフ、少し頬が赤いぞ。照れ屋か。
「「ウサギだ!チューフえらい」」
シロミミとクロミミもやってきた。その後ろに案内役のお兄さんもいる。
「「食べて食べて~」」
シロミミがお兄ちゃんの方にリンゴを差し出す。クロミミは低級ポーションを渡すと口元に運んで飲めるかを確認して少し飲ませる。レピのお手製だから少し含むだけで効果は劇的に現れる。一口飲んで目を開いてくれた。
「あぁ!アーク!めをさました!!」
食べていたリンゴも途中で弟くんに飛びつく。まだ名前聞いてないや。弟はアークくんね。優しくしてもらうための偽名じゃないのは確認済み。名前が我が弟に似すぎだ。
そのまま少し食べるのを待ち、落ち着くのを待ってから話を聞く。色々と聞きたいことを2人には聞けた。孤児院にいたが扱いは粗雑、このままではアークくんが死んでしまうので何かに縋れないかと思って逃げてきたそうだ。それでも子どもに手を差し伸べてくれるような人はおらず、呆然としていたところで俺が見つけたとのことだ。
帰る場所はあるかと聞くと孤児院にはもう戻れないからと言われ、チューフがその辺りにいたネズミを眷属に変えて(直接は初めて見た)二人の護衛として付けてくれた。別れる時にまたお兄ちゃん(名前はネイク。鑑定モードで知ってるけど名乗られる前に呼べないのがもどかしかった)には泣かれてしまったが、アークくんはまだ足元が覚束ないものの笑顔にはなったので良しとする。
「本当に領主邸まで行くのか?」
不意にお兄さんに話しかけられた。
「ええもちろん!」
「何を目的に?」
本気かと目が言っているので、極力笑顔できちんと目的を伝えておく。
「さっきの子どもたちの話を聞いて何とかしたいと思うのは当然だろうし、そもそも襲撃には襲撃で返さないと失礼でしょう?」
「せめて使用人には傷を付けないでください…!」
悪い奴らじゃないんですと、どうにか出来ないかと必死でがんばってくれてるんですと、絞り出す声で言っている。もしかしたら泣いているのかもしれない。ただ、格好は土下座。人も通る往来で。立派な町中ですよ~。
町に入る時の検問でお兄さんが権力をバリバリ使って通してくれた。素っ裸の男をぶら下げて身分証も持っていない集団を引き連れているにも関わらず「町中で何かあれば俺が責任を取る」と男らしく言い放った人が。
土下座を決めてらっしゃる。
この世界にも土下座ってあるんだなと妙な感動をしているとポチにつつかれる。
「こやつ、お館様待ちですぞ」
「そうなの?」
「我らはお館様の判断に従うので、あなたが声をかけないと話が進みませぬ」
そうだったのか。じゃあ顔をあげてもらおう。っていうか立ち上がってもらおう。この人には役割がある。
「まあ頭上げてよ。俺に媚びる必要ないよ。俺が土下座して命乞いしてほしいのは領主だからさ。お兄さんがするんじゃなくて奴にやらせてくれる?」
「なんか怒ってないか?」
「「そうみたい」」
コソウが不思議そうに言っている。後で説明するよ。鑑定モードでさっきの子たちを見ていたらイラっとしてしまったことが原因だ。さっきよりも派手に突入してやろうと思うのもそれが理由というか。
「屋敷が一部壊れるのは諦めてくれるかな。村長の家と教会燃やされてるんだ。罪の無い人にはケガさせない。罪はあるけど死なせたくない人は言ってくれるかな。死なせないように気を付けてもらうから」
まだ俺よりお兄さんの方が強いのは確かなんだけど主導権を握っているのは俺だ。お兄さんよりも遥かに強いのに命令が出せるから。でもこれもある意味で横暴なんだろうか。今まで意図的に人を傷つけたことなんて無かったのに何かが止まらない自分がいる。なんなんだろう…。
必死に首をコクコクするお兄さんを立たせて領主の屋敷まで案内させる。
夕暮れから少し夜が近づいてきたころ、門構えの大きい屋敷が見えてきた。門番も立っているがこっちを見て驚いた顔を見せる。
お兄さんの顔は知っているが知らない人間をぞろぞろと引き連れて帰ってきたからだろう。
お兄さんはそのままのスピードで歩いて来てくださいねと言って走って行ってしまった。門衛にすぐに門を開けるようにと言っている。開いてくれるなら待つくらいはするけどな。開けてくれないなら押し通るけど。
説得が成功して問題無く通過。庭の趣味は俺には分からない。石像とか見ても良し悪しの判断できないし、咲いてる花を評価するほど花にきれいさを求めたことが無い。そのあとの果実の方が大事。ここもスルー。
そして玄関までもう少しというところになって立ち止まる。俺が止まるから全員が止まる。お兄さんだけ少し先に進むけどついて来ないから振り向く。
「何か?」
「みんな、紐切るから俺のマネしてくれる?」
「は~い♪」
コソウが台車を引くのをやめ、ポチがかけていた布を剥ぐ。繋いであるロープを片っ端から切っていく。俺は『出入』で人と人をつなぐ部分を切り離せるように使用する。『指定したものだけを入れる』だけでなく、『空間ごと入れる』というやり方も出来るようになっている。チューフも俺とは別でナイフで切り離してくれる。引きちぎることも出来るんだろうけど大人しく待つシロクロにピヨ。
とにかく準備よし。
「じゃあとりあえず一人ずつ持って」
俺がまず適当に一人持ち上げる。俺だと両手で上に持ち上げるしかない。コソウやポチだと片手で軽々とやれるんだけど。この時点でみんなは大体何をするのか察しがついたらしく苦笑したり爆笑したり。ちなみにお兄さんは困惑顔だ。信じたくないのかもしれない。
「見た感じ壁際に人がいるってことも無いかな。当然だけど死なない程度に力は抑えてね。最低1人2回、残る分は早い者勝ちで」
了解だの承知だのが返ってきたのでこれで本当に準備良し。構え良し。では参りましょう。
「投擲開始!!!」
俺が投げたのは屋敷の扉に向かって投げて扉をぶち破ったところで止まった。みんなのは2階の壁やら窓やらに投げてて、更に突き破った先でもまだ何かを壊しているような音がした。屋敷の外壁だけでなく中でも貫通してる?思った以上に屋敷をぶっ壊したようだ。想定よりも威力がありすぎる。
「なんかやった?」
「俺たちがか?そのまま投げただけだと確実に死なせちまうからな。死なないようにってことだったから投げる前にやつらを魔力で覆っただけだ。全員そうだぞ。丈夫にし過ぎたか力の加減がうまくなかったか突き進み過ぎたようだなぁ」
コソウが何でもないように答える。他のみんなもその通りと首を縦に振っている。魔力で物を覆うって基本技能なんですかね。おれはまだ出来ないな。
あ~、お兄さんごめんね。ここまでするつもりはなかったんだ。本当だよ?(小首傾げ)
お読みいただきありがとうございました。




