17 不憫な人登場
これから裏方になる人です
<影部隊隊長(隠れ属性:不憫)視点>
俺はロイラン伯爵家が抱える影部隊の隊長だ。今は名前は無い。隊長とか、影と呼ばれたら俺のことだ。6歳のとき伯爵家に生まれたにもかかわらず、盗賊なんてジョブスキルを授かった。これが他のものか、何なら無しでも良かったんだが、貴族が誇るようなスキルじゃねぇ。その日のうちに俺は病気になった挙句死んだことにされちまった。名前はこのとき捨てさせられた。
さすがに殺されることは無かったが、本来なら当主だけが知ることになる影部隊に入って動くことにされちまった。それから血反吐を吐くような訓練を課せられた。ジョブスキルが俺の積んだ経験から暗殺者に変化したころ、家督は2つ下の弟が継ぐことになっていた。
そこから二十数年経って色々あって俺が影部隊の隊長になった頃、当主をやっていた父が病気で死んだ。父とは25のときに隊長交代の挨拶をしたのが俺がスキルを授かって以来の会話だったな。一言で済んだから何の感慨も湧かなかった。決まっていた通り俺のすぐ下の弟が問題無く育ったからそっちが継ぐはずだった。しかし、そっちも死んだ。急な大雨による被害を視察するため、馬車での移動中に崖から落ちて死んでしまった。そのとき一緒に父から続く側近たちまで死んだのが痛かった。
当主が誰になったかって?俺が死んだことにされてから生まれたもっと年の離れた弟が当主になった。そいつにはスキルはあったが碌に教育がされてなかった。当然影のことなんて引き継ぎされてないし、当主ってのは好き勝手に振舞っていいっていう貴族の中でも塵みたいな性格のやつになってた。
なぜそいつが当主に選ばれたか。スキルが『幸運』ってやつだからだ。何をやってもほぼ自分の思い通りに運ばれるってやつだ。もっと性格と気質の良いやつに持ってほしいスキルだよ。小さいころから大体のことがうまくいくやつだった。だから性格も歪んでいったんだろうけど。
俺がいなくなってから生まれたから俺のことなんて存在も知りやしねぇ。それでも家と領地領民のためだ。仕方ないから俺から接触して影部隊のことを伝えた。この領地には決して手を出してはいけない村がある。国境にも近いから当主にはしっかりとその重要性を認識してもらう必要がある。
無駄だった。当主の言うことを聞かない者など皆殺しだとのことだった。せめて無駄な犠牲者が出ないように立ち回ることになった。気づけば影部隊の隊長と言いつつ俺が裏に表にと立ち回ることになってた。俺のことを知ってる世代がいたから他の奴らはうっすらと俺の事情を察知して指示に従ったり協力があった。
あんな暴君でも当主だし、もう家を引き継げるような若い男もいない。ちなみに弟は死んだのも含めて二人とも結婚相手が決まってなかった。生き残っている当主の弟の素行が悪すぎて誰も嫁ぎに来てもらえなかったからだ。弟が死なない限り嫁は来ない。が、死んだらお家断絶だ。俺は死んだことにされてるから今更当主に返り咲くことは出来ない。どうしろと!?
当主になった弟の唯一と言って良い趣味は良いスキルを持った者を集めることだ。その過程で何があったかは除く。だがおかげでギリギリ領内が回っているのでこれに関しては俺もなるべく受け入れる方向で動いていた。
今回レアなスキルを授かった子どもの中に『聖騎士』のジョブスキルを授かった子どもが出たと報告が上がってきたので早速迎えに行った。
引き取って教育し、そのまま領内に留まらせても良いし、王都に送って領地に目をかけてもらう材料にするも良し。
年齢の割に頭がヤバかった。いや、子どもはアホなだけだったがその父親が輪をかけてアホだった。村長をやっていたらしいが、不正の塊で指名手配されていたやつだ。即刻捕らえて首を晒した。弟にとっては逆らわないようにするための見せしめ、民にとっては鬱憤晴らしになる。自分たちを直接搾取した奴ではなくても多少の気晴らしにはなる。お互いの首を取り合おうとしてるんだからこの領地はそのうち潰れてしまうんだろうなと思った。でも俺にはどうしようもなかった。せめて一日でも長く続かせることしか頭に無かった。
父を亡くした子どもは大人しくなり、その教育している最中に「ユニークスキルを持ってるらしい子どもがいる」と言われた。そうなると調査せざるを得ない。ただ頭の痛いことに『手を出してはいけない村』だった。調べるだけだと思って調べてみると本当だった。どうやら物を自由に袋に入れて持ち運びができるスキルだ。
喉から手が出るほど欲しいユニークスキルの子どもだ。どれだけ袋に入るのかによるが子ども一人を守るだけでいくらでも運ぶことができるようになる。説得して協力できないかを持ちかけようと計画しているところで弟の耳に情報が入った。このときに影部隊に裏切り者がいることに気が付けば良かった。俺の知らないところで当主と影部隊の副隊長に繋がりが出来ていた。
俺が気が付いた時には影部隊の半数以上(俺よりも副隊長派のやつら)が村に向けて出発していた。手遅れになる前に止めようと俺も後を追った。
何とか村の近くまでやってきたとき、凄まじい気配に気圧された。村には森に入って進まねばならないが森に入ったら死ぬという直感が働いた。命を奪うスキルは上手く使えば命を助けることもできる。立ち止まった瞬間、背後から声をかけられた。
「それ以上進むな。今、我らがご主人様がこちらに来られる。お前も奴らの関係者だろう?死にたくないならここで待っていろ」
俺が百人いても勝てそうにない。気配は一瞬で消えた。森の中で何が起こってるんだよ。
待っていたら7人で影部隊全員を引きずって出てきた。あまり見ない格好をしている連中の中に明らかに村人みたいな服装の子どもがいた。保護された子どもかと思ったらそいつが代表として話を進めてくる。周囲もそいつをご主人だと主張する。俺は自分の頭がおかしくなったと思った。頬を叩いても正常だった。話を聞くことになる。
「あれ?あんた領主の血縁関係の人なんですね。じゃあちょうどいいや。領主を引きずり下ろすからあんたが領主やってね。それでこの村に迷惑かからないように気を付けて。かけたらあんたも引きずり落とすから」
子どもじゃなかった。悪魔だった。なんで俺を一目見ただけでおれの込み入った事情をすらすら話せるの?でも俺が百人いても勝てないやつが6人もいて、全員が『断ったらこの場で殺す』って目で見て来てたら俺はその通り生きるしかない。
「分かりました」
「あと、色々質問してもいい?」
「なんなりと」
村から出たことが無いから町や国の常識なんかを知りたかったそうだ。変なところで詳しい知識があるのに、知らないこともあったりしてなんだか穴だらけの奴だった。でも村から出たことが無いとか言っておいて詳しい知識があるのはおかしい。だがそれに踏み込むことは許されなかった。俺からの質問は許されていない。嘘も許されない。瞬きしている間に俺を殺せる奴らに囲まれてそんな度胸は無かった。
「方針は決まったかな」
「で、どうするんだ?」
割と親し気に話す男が子どもと話している。結構話したが、まだ名前すら聞いてない。俺のプライベートは全部暴いたくせに。
「とりあえずお別れは言いたいからさ。村には一度戻るよ。それでも先に領主を何とかするのが先かな。村に残っている…、皆のことなんて呼べばいい?」
「弟子?」
「配下?」
「友達♪」
「「それは無い」」
こいつら何なの。こんなに仲良さそうにしててほぼ初対面らしい。もう意味が分からん。
お読みいただきありがとうございました。




