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博士の研究

作者: おすし

「ついに発明に成功したぞ!」

 博士は大きな声を上げて両手でその発明品を持ち上げた。

「なにが完成したんですか?」

 助手である私は、こじんまりとした研究室を片付けながら博士に声をかけた。

「人類のやる気を引き出す画期的な発明だよ」

 大きなヘルメットのような黒い機械に線が5本ほどついている。伸びた線の先にはコンピューターがつながれていた。

「これを頭につけるとやる気がみるみるわいている。これさえあれば宿題や試験勉強、仕事だって効率よくみんなばりばりと行えるようになる」

「なんと、それはすごい」

 私たちは早速このやる気の出る機械を使ってやる気を出してみることにした。

 助手である私が先にこの頭の装置をつけた。博士はコンピュータのつまみをあれこれと調節する。

「なにかやる気を出したいことはあるかい」

 博士は私に聞く。私は「この発明品をもっと世の中に広めていくことを頑張りたいです」と答えた。

「よし、ではそれについてやる気を出してもらおう」

 博士はヘルメットの横にある小さなスイッチを押すと、ウィンウィンと謎の音を上げ始めた。


 しばらく時間がたち、ヒュウンと機械が動くのを終了する。

 眠っていたらしい私は、目を覚ますやいなや、この発明のすばらしさや魅力を世界に伝えたくて仕方がなくなっていた。

「こんなに素晴らしい発明は今すぐにでも世の中に伝えるべきだ。まずは付近の人々から売り込んで、インターネットを利用して事業をどんどん広げていきましょう!」

 そうして私は早速営業へ向かった。


 私のやる気はすさまじく、営業なんて微塵もしてこなかった私は様々な本で情報を集め、礼儀作法から人を引き込む話し方までありとあらゆる方法で努力を惜しまなかった。

 その成果もあって、この発明品は瞬く間に大ヒットした。これでやる気のでない子供の宿題事情から、窓際社員にまでその装置でやる気を出し始めていた。


 しかし、そううまくはいかなかった。やる気は出たことには出たのだった。しかしそれは本来やるべきことには適応されなかったのだ。

 つまるところ、宿題をやらない子供に、この装置をつけると全力で宿題をやり始めるわけではなく、全力で机や引き出しの掃除を始めるのだった。窓際社員に至っては、コピーに全力を出すせいでコピー機の修理まで行えるようになったとか。


 それはそれとして使えそうではあったものの、たくさん売れた分、苦情もたくさん届き、これを発明した博士は非難の嵐だった。

 人々を豊かにする発明をできたと思っていた博士はその非難に相当悲しみ、研究所から出て行ってしまった。

 博士の一番の助手だった私は、そのまま研究室の所長となったのだった。

「そういえば、博士」

 私の助手が声をかけた。

「博士も、元博士の装置を使ってやる気を出していましたよね。あれはなんでちゃんと動いていましたよね。なんで失敗作になってしまったんでしょうか?」

 私は元博士が発明した装置をいじりながら答えた。

「いやちゃんと失敗作だったよ」

 よし、と修理した発明品を見ながら私は言った。

「もともと私の目的は研究所の所長になることだったからね」

 しかし、博士もなにかもっと大事な論文があったと言っていた気がするが、まあもう気にしても仕方ない。もう博士はいないのだから。

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