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9話 王位

 フーリアが森に篭もっている間にあの国の王様が退位し、第二王子のルイスが王になったらしい。王位継承権第一位だった、クロード王子は王位継承権を放棄した。


 大聖女がいなければ死んでいた身だからと、弟 ルイスに王位を譲ったのだとか。


「その兄弟が始めた改革ってのももう片付いたらしい」

「は? 王子が即位したのも二カ月前のことだろう?」

「ああ、そうだ。その二カ月で教会も貴族のゴタゴタもどうにかしちまったんだよ。今回の事で隠居した貴族も多いらしいぜ」

「いやぁやっぱり若くして王に立つ人っていうのはカリスマ性が違うな」

「頭も良いんだろうよ。兄の方だって古龍を退けたくらいだから、けた外れに強いに決まっている」

「で、国に変化はあったのか? あそこは輸出品も多いし、物価が上がると困るんだよな~」

「中はだいぶ過ごしやすくなったみたいだけど、外に対してはどうだろうな。王様の考え方次第ってところじゃないか?」

「そこが大事なところだろうよ~」


 フーリアが想像していた未来とは違うけれど、良い方向に進んだらしい。

 国も安泰。噂を耳にする機会も減るだろう、とギルドを後にしようとした。


 けれど話には続きがあった。


「いや、今日の特大ニュースはこんなもんじゃないぜ。聞いて驚くなよ。第一王子は残りの仕事を陛下と側近達に任せて大聖女を探す旅に出たんだとよ」


 思わず耳を疑った。だが声の主は最近仕入れた新情報を自慢げに話している。


 あの国にいる知り合いから聞いたから間違いない、とまで付け加えて。


 聖女達が働きやすくなったのは嬉しいが、そこまで責任を感じてもらわなくてもいい。


 フーリアが彼を助けたのは生きて欲しいと思ったから。

 一人の聖女に縛られて生きることなど望んでいない。今まで通りでいいのだ。負担になりたくない。


 もしも聖女探しが弟君に国を任せる口実ならば、フーリアだって歓迎する。

 けれど彼の性格を知っているからこそ、楽観視は出来なかった。


 真面目な人なのだ。フーリアに優しくしてくれたのも、そんな彼だから。


 彼の好きなところに苦しめられることになるとは、誰が想像するだろうか。

 そうして恋心が芽生えたと知ってしまえば、彼は遠ざかってくれるのだろうか。


 嫌だ。知られたくない。嫌われたくない。

 美化なんてされなくていいから、ひっそりと消えてしまいたい。


 とはいえ、彼は第一王子だ。王位継承権を放棄したとはいえ、弟君一人に任せっぱなしという訳にはいかない。

 長く国を留守にすることなんて出来ない。見つからなければ代わりの人間に捜索させることになるに違いない。


 本人には会いづらいが、捜索隊の人相手ならメモくらいは渡す余裕もある。

 気にしないで欲しいと告げれば、彼だって無理に連れ戻すことはしないはず。


 それまで隠れていようと決めた。まぁ今までとあまり変わらない。



 盗み聞きを止め、ギルドで聞いた薬屋に向かうことにした。

 ポーションも売っておきたいが、空き瓶もいくつか欲しい。十、いや二十くらいあると安心か。


 今使っている瓶は中瓶だが、キュイが飲む量はこれの半分。

 小瓶もあると便利だと、追加でサイズ違いのものを五本足すことにした。計二十五本の瓶をカウンターに載せ、支払いを済ませる。



「ここ、ポーションの買い取りもしているって聞いたんですけど」

「ああ。やってるよ」


 空き瓶をバッグに入れ、代わりにポーションを取り出す。


 売りに出すポーションは十本。

 キュイの分も合わせて手元には五本残すことにした。足りなくなったら、新しい物を作る予定だ。


 薬屋はフーリアが出したポーションをまじまじと眺める。


「これ、あんたが作ったのかい?」

「そう。出来はいいと思うけど、心配だったら鑑定してちょうだい」

「私だって薬師だ。ポーションの質なんて見れば分かる。ほら代金だよ」

「ありがとう」


 代金は想像していたものの倍以上。

 効果は高いと思っていたが、まさかこれほどとは思わなかった。


 空き瓶の購入費とこの後購入する食材費を差し引いてもかなりの額が手元に残る。ありがたく財布に入れさせてもらう。


「ところで手持ちはこれで全部かい?」

「ええ、そうだけど」


 全部売ってくれと言われても困るので、平然と嘘を吐く。


 すると薬屋はそうか……と残念そうな声を漏らした。


「しばらくこの辺りにいるつもりなら、もう少しポーションを作ってくれんかね。代金も少し多めに出すから」

「……何かあったの?」


 ポーションが大量に必要なんて不穏だ。


 特にこの村の周りには何もない。フーリアは森を通ってきたが、山道の方も獣や魔獣は多くないはずだ。


 何か、イレギュラーでも起こらない限り。


 探るような視線を向けると、薬屋はふるふると首を振った。


「お嬢さんが心配するようなことはなんにもないよ。ただこんなに質の高いポーション、都市部でもなかなかお目にかかれないから買っておきたいだけさ。かなり若く見えるけれど、さぞ名のある薬師なんだろうね」

「そう、何もないならいいの。私、先を急ぐから」

「そうか。それは残念だ」


 詮索されたらたまらない。

 ポーションも売り、空き瓶も手に入れた。これ以上長居する気はない。軽く手を挙げて、薬屋を後にすることにした。



 それから近くの店で保存食と調味料を買い込む。

 森に戻ろうかとも思っていたが、あの場から離脱するために急ぐと言った手前、姿を見られては都合が悪い。


 森に行った後、山道に戻って他の道を行くというのも手間だ。

 それに、周辺の村にまで噂が広がる可能性も否定出来ない。


 噂なんてすぐに広まるものだ。実際、サンリーシーシャイ王国の情報は嫌というほどに耳にしている。


 フーリアが大聖女だとバレる心配はしていないが、訳ありがいると知られれば都合が悪い。


 ここから山道を少し歩けば、道がいくつかに分かれているらしい。その中から人目に付きにくい道を選ぶことにしよう。


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