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7話 魔素が満ちた森

 山道を少し進んだところに大きな森があった。


 森の入り口に立てられた看板には警告文が書かれていた。


 ズラリと並んだ文字を読み進める。

 ざっくりとまとめると『入るのはあまりお勧めしない』とのことだ。


 なんでも森全体に魔素が満ちているらしい。珍しい。

 あまりに多くの魔素は人間に限らず、動物や魔物の健康も損ねる。頭痛や方向感覚が狂う程度で済めばいい方で、最悪命を落とす。


 そのため、フーリアがいた国では魔素が一定量を越えた地域には聖女か神官が派遣されることになっていた。


 聖女と神官は一般人よりも魔素に耐性があるのだ。

 魔素が満ちた空間に入っても頭が痛くなったり、気持ちが悪くなったりすることはない。普通に進み、魔素を吸い込ませるための人工的な魔石を設置することが出来るのだ。


 ちなみに魔素を吸い込ませた魔石は教会で有効利用されることとなる。

 クロードを薬釜で煮る際に媒介として利用した魔石がまさにそうだ。


 看板の端に書かれた地図によると、このまま山道を進めばいくつかの町に辿り着く道があるそうだが、森を抜けたところでたどり着くのは小さな村のみ。


 救援が来ることはない・入るなら自己責任でと書かれている。



 フーリアがじいっと看板を見入っていたからか、通りかかった地元の人が声をかけてくれた。


「お嬢さんも冒険者かい?」

「はい、一応」

「あんたみたいな冒険者が年に何回も入っていくが、ろくな成果を持ちかえった試しがない。奥まで進めば珍しい草でも生えているかもしれないなんて、言葉に踊らされたのかもしれないけれどね、年に何人も入っていく冒険者もろくな成果を持ち帰った試しがないよ。悪いことは言わないから止めておきな」


 じゃあ私は止めたからね、と告げると、その人は山道を進んでいった。

 気を使ってくれたのだろうが、元聖女のフーリアは魔素の影響を受けることはない。


 忠告をありがたく受け取るべきか悩んでいると、大きな馬車がやってきた。

 乗り合い馬車だ。道の端に避ける。


 するとすれ違った馬車から『大魔法使い』『古龍討伐』『王子』という三つのワードが聞こえた。


 すぐに過ぎ去ってしまったので、詳しく知ることは出来ない。

 だがどれも今のフーリアが避けたい話題である。


「よし、森に進もう」

 噂話を避けたいフーリアは森に入ることに決めた。

 幸い、しばらく食料に困ることはない。多少迷ってもどうにかなるだろうとズンズンと森の中へと進んでいった。



 人がほとんど入ってこないという話通り、少し進めば草木は生え放題。足下もほとんど踏み固められていない。


 魔素酔いよりもこちらに足を取られぬように気をつけなければいけないほど。

 だがそれさえも薬草に詳しいフーリアからすればお宝の山ばかりだった。馬車から降ろしてもらったあの森とは生えている草がまるで違う。



 しばらくここに滞在しようと決めるまで時間はかからなかった。



 水場とテントの張れそうな場所を探して歩く。

 するとわずかに光が集まっている場所に、小さな水場を見つけた。川と呼ぶには小さすぎるが、見える範囲よりも水が続いているようだ。


 それに沿って歩いていけば、洞窟に辿り着いた。

 水の流れはまだまだ続いている。入るべきか、留まるべきか。魔獣がいないらしいという情報を信じ込むには情報が足りない。


 なにせ、ほとんど人が踏み入らない森である。

 鵜呑みにして怪我はしたくなかった。


 洞窟は人間にとっては雨風をしのげる場所だが、それは獣にも言えることなのだから。


 中を覗くのは諦めて、洞窟から少し離れた場所にテントを張ることにした。


 ランタンに火を灯し、今日のご飯を作る。

 水場にも魔素が溜まっているためか、魚は見当たらなかった。代わりに食べられる草や木の実、果実を見つけた。


 当分の食事はこれらと保存食を合わせたものになる。


 草と木の実はともかく、果物が食べられると分かったのは、クロードが国外に行った際、お土産に買ってきてくれたものと同じだったからだ。赤みがかったオレンジ色の果物。


 とある国でしか採れないと言っていたが、フーリアはすでにその国に入っているのだろう。


 話を聞いた時は随分と遠い国だと思っていたが、歩いてもいけたらしい。

 目的地に辿り着くには運河を越える必要があるが、ここまでは全て徒歩で来ている。墓参りを済ませたら、海を渡るのもいいかもしれない。


 彼の話にも海の向こう側の国が度々出てきた。その国に友人がいるらしかった。


 ポーションの材料となる薬草をすりつぶしながら、噂から離れても考えることは同じなのかと自分に呆れる。



 数年かけて育ててきたのだ。すっぱりと忘れることなんて出来やしない。


 魔素を大量に含んだ薬草をすり鉢に入れ、よく混ぜていく。

 それを鍋に入れ、汲んできた水と一緒に火にかける。そこからぐるぐるとかき混ぜる。


 沸騰させすぎないのがポイントだ。


 グラグラと煮立てたポーションは効果に変化はないが、味がとてつもなくマズくなる。効果が良くてもマズいポーションなんてゴメンだ。


 また水に溜まった魔素だが、混ぜながら魔法をかければ、有害な物から有益な物へと変化していく。


 魔素を大量に含んだ素材を使えば、消費魔力も少なくて済む。


 素材もある上に、いつもよりも魔力を消費しないとは、なんとポーション作りに適した空間だろうか。


 噂話からも離れられるので一石二鳥だ。


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