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5話 一人旅の楽しさ

「思い出したら食べたくなってきちゃった。……けど、さすがにあの高さはなぁ」

 もう何年も木になんて登っていない。クロードなら魔法を使ってひょいっと取ってしまうのだろう。フーリアが使える魔法は回復魔法と浄化魔法だけ。どちらも木の上の果物を取るために使えるような魔法ではない。無理に登って怪我をしては困る。


「町にも同じ物が売っているといいんだけど……」

 食べたい気持ちを胸に残しながらも、木の上の果物は諦めて先に進むことにした。

 それから夕方になればテントを立て、食事を用意して。朝になったらまた進み、の繰り返し。



 近くの町に着いたのは追放されてから五日が経ってからのことだった。

 フーリアが森をフラフラと散策していたためだ。普通に歩けば翌日の夜か、その次の朝には到着していたことだろう。


 だが成果はあった。

 ポーションに使えそうな薬草と保存の効く食糧をゲットしたのだ。



 町に到着したら宿を取ってシャワーを浴び、食料品を買い集める。

 例の果物は市場に行くまでもなく、宿の食事に出てきた。隣国ではわりとメジャーな果物らしい。


 宿の女主人が「酸っぱい物を引いたらその日は良い事があるんだよ」と教えてくれた。

 勝負事の前にゲン担ぎで酸っぱい物を引くまで食べ続ける人もいるらしい。


 フーリアが引いたのは甘い果実だったが、初めてこの果物を食べた日の思い出に更なる色が載ったようで、幸せな気分になった。


 食後はお湯を買い、風呂に入って汗と汚れを落とす。

 久々のベッドに寝転ぶとすぐに瞼が落ちてきた。



 翌朝、宿の主人にギルドの場所を尋ねて冒険者登録をした。

 旅をするにあたって旅費の他に、身分証が必要になるからだ。


 大聖女 フーリアの名前は広く知れ渡っている。目立ちすぎて強盗や人攫いに狙われても困る。


 友人に突っ込まれる前は聖女服で旅をしようと思っていたフーリアだが、それがおかしいことに気付けば、それなりの行動を取ることはできるのだ。


 登録名は、養父母の元で暮らす前に使っていた『ファイ』という名前にした。

 冒険者登録に嘘は厳禁だが、こちらの名前も完全なる偽名ではない。フーリアを捨てた親が付けた名前だ。むしろ本名であるとさえ言える。


「こちらがファイさんの冒険者カードになります。紛失した場合は再発行としてお金を頂くことになりますので、ご注意ください」

「ありがとうございます」


 カードを受け取り、依頼ボードの説明を受ける。

 登録の際にポーションが作れること・薬草を見分けられること・獣を狩ることは出来るが、魔物討伐はしたことがないことを伝えたからか、採取依頼を勧められた。


 同時に商業ギルドへの登録も勧められたが、ポーションだけなら薬屋に直で卸すことが出来るらしい。


 交渉は自分ですることになるので、商業ギルドに入った方が楽だし価格帯は安定する。

 ただ、その商業ギルド自体がある場所も大きな街か馬車道が何本も通っているような経由地などに偏っている。転々と歩くなら直売りでもいいかもしれない。


 ギルドの人も無理に勧めたりはせず、売る時に考えてみてもいいですよ、と言ってくれた。


 またどこかの町に長期滞在する予定は今のところなく、転々とするつもりだと話すと、なら常設依頼を受けるようにとも教えてくれた。


 初めて冒険者ギルドにやってきたフーリアは知らなかったのだが、討伐依頼とは違い、採取依頼は受けたギルドに報告しなければいけないケースが多いらしい。


 他の場所でも報告出来るのは常設依頼か相当難しい依頼。

 指名依頼も含まれるらしいが、初心者のフーリアには常設依頼一択だった。幸い、当面のお金には困っていないので、常設依頼を受けることにした。



 それから市場へと向かい、保存の効く食材も買い集めてから次の町を目指す。

 目的地に着いたら依頼の達成報告と新たな依頼の受注、食材の調達と同じことを繰り返しながら進んでいく。


 たまにクロードが話してくれた観光地にも立ち寄った。


 中でもフーリアが気に入ったのは建物全体が真っ青な塔だった。国で採れた鉱石を砕いて塗料にしているらしい。


 三階建ての塔の一番上まで登れば、塔のように真っ青な海が一望できる。

 フーリアが塔に登ったのはクロードがオススメしてくれた夕暮れの時間。たまたま町に着いたのが遅い時間ということもあるが、夕焼けが海に溶け込む景色はまさに圧巻だった。


 時間帯や季節によって全く違う景色を見せてくれるらしい。


 教会で話しを聞いた時はまさか自分の目で見られることになろうとは思っていなかった。


 クロードはもう隣にはいないけれど、こうして一つ一つ思い出を噛みしめることが出来る。


 思い出と言えば、彼が教えてくれたこの町の名物はもう一つある。屋台だ。


 サンリーシーシャイ王国でもお祭りの時はズラリと屋台が並んでいたが、この町はその状態が一年中続くのだ。しかも特定の通りだけではなく、至るところに様々な店がある。


 子どもがジュースを売っている姿も見かける。観光地ということもあり、旅行客が買っていくようだ。


 フーリアも今回は宿ではなく、屋台で食事を摂ることにした。

 あまりにも店が多いもので、どれにしようか迷ってしまう。


 同じ道を行ったり来たりして、ようやく立ち止まったのは小麦粉で作った生地で野菜と魚を包んだ食べ物が売っている店だった。


 サンリーシーシャイ王国では見たことがなかったが、この国に来るまでも何度か目にしてきた。


 名前は国によって多少異なり、包む物やソースも土地によってまるで違う。

 だから食べるときはいつもオススメ。その国の味を楽しむことにしている。


「これ、一つください」

「あいよ。旅人さんは青の塔にはもう行ったかい?」

「はい、塔も景色もとても綺麗でした」

「嬉しいねぇ。あそこは我が町の、いや国の宝だからね!」


 屋台の主人はハハハと陽気に笑って、多めに包んでくれた。


 お代を渡し、食べながら他の店を眺める。それからいくつかの店で美味しそうな物を買い求め、宿に着く頃にはすっかり満腹になっていた。


 一人旅というのも意外に楽しいものだ。


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