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4話 森の中で

 フーリアが目を覚ましたのは半日後。


 意外と早かったのは、王子が宮殿に運ばれてからすぐに駆けつけた友人がフーリアにポーションをかけてくれたおかげである。


 彼女が用意してくれた食事で腹を満たし、十日ぶりの水浴びをして、現状を知った。


「王子の一命は取り留めたわ。今は王宮医師が数人体制で看ているみたい」

「そう、良かった……」

「よくないわよ! 一命を取り留めたのはフーリアのおかげなのに、貴族達は揃って不敬だと罵ったのよ!?」

「王子を釜で煮たからまぁ……仕方ないことではあるかな」


 予想していただけに驚きはしない。髪を乾かしながら、どのくらいの罪に問われるのだろうとぼんやりと考える。


「釜で煮たから助かったんでしょうが! あの場にいた聖女と神官ならそれがわからないはずないのに……追放なんてあんまりだわ」

「追放か。思ったより軽く済んだのね」

「はぁ!?」

「だって国を出るだけでいいんでしょ。私には家族もいないし、ここに執着する理由もない。厄介払いされたみたいなものだから気にしないで」

「でも……」


 納得いかないといった表情の友人を宥める。すると彼女は腹を決めたようにスクリと立ち上がった。そしてしばらくするとこんもりと膨らんだ布袋を持って戻ってきた。


「これは?」

「私のおさがりだけど、フーリア、服持っていないでしょ。これ持って行って」

「? 聖女服の替えならあるけど」

「どこに元々所属していた職場の服着て旅する人間がいるのよ! そうでなくとも聖女服を着た若い女が一人で歩いていたら怪しまれるわ」

「あ、そっか」


 言われてハッとした。教会入りしたばかりの頃、城下町に繰り出せた頃は他の服も持っていた。


 だが長らく聖女服以外を身に付ける機会がなかったため、フーリアにとっての服は聖女服となっていた。当然ながらあの頃の服は着ることが出来ない。


 友人から差し出されるまで服が必要だという考えに至らなかったほど、この環境に慣れきってしまっていたのだ。


 本当に、慣れとは恐ろしいものである。


「もうフーリアって変なところで抜けてるんだから」

「大事にするね!」

「あくまでおさがりなんだから、お金に余裕が出来たら新しいの買ってちょうだい。本当は新しい物を渡したかったんだけど、時間がないから」


 残念そうに肩を落とす彼女の背中に腕を回し「ありがとう」と囁く。

 王の間に呼び出されたのはそれから三日後のことだった。


 急いで神官長を泣き落として、便利アイテムをゲット。

 荷造りと部屋の掃除が済んだ頃に追放宣言をされ、今に至る。




 王子の容態が安定してから、サクサクと進みすぎてて怖いくらいだ。


 もしもフーリアの部屋に荷物が多かったら、処分したり人に譲ったりと間に合わなかったことだろう。さすがに薬釜を乾かして元の位置に戻す時間はなかったので、それは友人に託すことになってしまったが。


 周りからすればフーリアはあまりにも落ち着きすぎて怖いくらいなのだろう。掃除中、多くの視線を感じた。


 これでもクロードと会えなくなることに対して、若干は落ち込んでいる。

 ただ第一王子という立場柄、他国にいても新聞なりなんなりで活躍を目にする機会はあるだろうとは思っている。


 今まで気軽に話しかけてくださっていたのがおかしかったのだ。



 暗くなる前に水場を探し、飲み水を確保してからテントを張る。


 早速テントの中で友人からもらった服に着替えた。少し大きいが、腕と裾を少しまくれば問題はない。


 彼女はワンピースを好んで着ていたが、フーリアが歩いて回ることを考慮して動きやすいパンツを何本も用意してくれていた。


 そんな気遣いがありがたい。何も返せないのが申し訳ないくらいだ。


 着替え終わったらテントから出て、食べられる草を採取する。周りにも食べられる薬草が多くてホッとした。


 いつの間にかマジックバッグに入っていた釣り道具は神官長の私物だろうか。返す機会なんてないのでありがたく使わせてもらう。


 町に着いたら釣竿を買っておこうと思っていたので、得した気分だ。


 糸を垂らしてしばらくすれば魚がかかった。少し小さめだが、フーリアが食べるにはちょうどいい。調理しているうちに森は夜に飲まれて行った。


 朝起きて、昨日の残りを食べてからテントを畳んで歩き出す。

 薬草や木の実を探しながら歩いていると、木の上の方になった赤い果物を見つけた。


「あ、あれ前にクロード様からもらった果物だ」

 以前、クロードがお土産として持ってきてくれた果物だ。養父母と一緒に住んでいる時は見たことのなかったそれは適度に酸味があり、とても美味しい。隣国の食べ物だったのか。


『たまに特別酸っぱい物があるらしいから、気を付けてくれ。ジュースにしてもいいらしい』


 そう教えてくれたクロードが一つ手に取って頬張ると、見事に酸っぱいものを引き当てたらしい。


 眉間に皺を寄せながら口元を押さえていた彼を思い出し、ふふっと笑みがこぼれた。



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