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3話 瀕死の王子を釜で煮た

 事の発端は十四日前。

 王都周辺の警備に当たっていたクロードが教会に運び込まれた。本来危険なものではなく、国民に顔を売るのが目的であった。


 だがその最中、ゲートが発生した。


 ゲートとは空中にポッカリと開く魔物の通り道を指す。普段はその場所にいないはずの魔物が通ってくることから大変厄介なものとして知られている。


 ただし大きなゲートが開く際には必ずといって何かしらの兆候があり、ない場合は小型から中型の魔物が通るゲートしか開くことはない。


 城に仕える騎士や腕利きの冒険者なら数人いれば対処できる。その時に備えて、今回も騎士を何人も連れ添っていた。


 本来、ここまで大騒ぎになるようなことではなかった。


 だが今回発生したのは巨大ゲート。兆候は一切なかった。

 ゲートから出てきたのはよりにもよって災害指定されている魔物、古龍。首の辺りに大きな傷があるその龍の被害は数知れず。人が住めなくなった都市も多い。


 そんな龍が王都に向かって咆哮を放とうとした。


 現場に居合わせた騎士は死を覚悟したらしい。


 クロードがとっさに周辺の土地を覆う結界を張らなければ王都は壊滅し、国民の多くは命を落としていたことだろう。


 彼は魔術の天才だった。それ故に国民の命を守ることに成功した。


 何度も咆哮を繰り返すうちに気が収まったのか、古龍はどこかへと飛び去ったそうだ。

 羽音が聞こえなくなったと同時に結界は消え、糸が切れるようにクロードは倒れ込んだ。



 騎士達はすぐにクロードを教会に運び込んだ。


 魔法を展開する際に足りない魔力を自らの生命力で補っていたことに気づいたのは、それからすぐのことだった。


 通常の負傷ならば騎士達が常備しているポーションを使えばある程度は癒える。

 怪我だけではなく、魔力消費だって酷くなる前にポーションを使うものだ。


 だが彼はあまりにも消耗していて、ポーションを飲ませたところでどうにもならない。


 フーリアの見立てでは、教会中の聖女や神官が総動員しても間に合わない。


 おそらくあの場にいた他の聖女や神官も同様の判断を下したのだろう。その目には光がない。


 それでも王子を助けようとしたというポーズを取るためにポーションをかけ、回復魔法を展開していく。


 このままでは死を待つばかりだ。


『クロードを見殺しにするのか』


 フーリアは自問する。

 教会から自由に出入りできないフーリアに、外の景色を教えてくれたのはクロードだった。


 彼が優しくしてくれているのは『フーリア』という少女ではなく『大聖女』という立場の相手であることも理解していた。それでも彼に恋をした。


 叶わぬ想いであったとしても、彼という存在はフーリアに色を与えてくれた。


「王子は私が助けます!」

 気づけばそんな言葉を口にしていた。

 近くの騎士に王子をフーリアの部屋に運ぶよう指示を出した。


 王子が運び込まれるまでの間、ありったけの薬草を釜に突っ込んだ。どれもポーションの材料である。加えて上位魔法を使う際の媒介として使う魔石も落としていく。


「フーリア様、王子をお運びしました!」

 運び込まれた王子の呼吸は浅い。重傷患者用にいくつか常備している酸素ヘルメットを被せ、正常に稼働しているのを確認する。


「では王子を釜の中に入れてください!」

「今なんと?」

「ポーションをかけても間に合わないので釜で煮ます! 煮ながら回復魔法もかけます」

「いくらフーリア様でもそれは……」


 騎士は言葉を濁す。

 不敬罪に当たるといいたいのだろう。おそらくフーリアは罪に問われる。だがそんなことで言い争っている時間はない。ことは一刻を争うのである。


「今は王子の命が最優先です。後で何か聞かれたら私の指示だと答えてください。聖女 フーリアのせいだと。だから早く!」

「は、はいっ!」


 フーリアの圧に押されるように彼らは王子を釜に入れた。ポーションを使用する際、飲むか直接患部にかけた方が効果は高い。


  今回の場合、服を脱がせた方が効果は高いが、そこまですれば確実に止められる。

 気を使った騎士が手首や首元のボタンを緩めて、ベルトを抜き取ってくれただけでもありがたい。


 そこから呼吸と魔力が落ち着くまで十日ほど。

 回復魔法をかけながら煮込み続けた。新たな薬草やら魔石を突っ込み、時にヘルメットを変えてグツグツと。


 部屋にストックしていた食料や飲み物、ポーションはすぐに底を尽きた。

 だが毎日のように押し寄せる騎士達が色々と持ってきてくれるお陰で釜の前を長時間離れずに済む。


 これもクロードの人徳だとありがたく受け取った。


「フーリア様! 王子の息が安定してきました!」

「魔力が!」

「では釜からあげて、王宮医師、の、元に……」


 クロードの生命力が回復したのと、フーリアが倒れるのはほぼ同時だった。そこでプツリと意識が途切れた。


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