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18話 帰還

 それから二人と一匹で城へと戻ることとなった。


 何カ月もかけて辿り着いたのに、帰りは魔法で一瞬だ。役目が終わったらここまで送ってもらおう。


 報告のため、王座へと向かう。

 ルイスはとても驚いていたが、すぐに謝罪の言葉を告げた。そして戻ってきたフーリアを受け入れてくれた。


 あの日宣言された王都追放は、彼の即位と共に破棄されたようだ。

 教会のフーリアの部屋も神官長の指示でそのままの状態で残されているらしい。


 そのままの状態、といっても荷物はほとんどない。数少ない荷物はマジックバッグに詰め込んだ。


 それでもすぐに使える部屋があるというのはありがたい。

 しばらくは滞在させてもらうのだ。荷物も置かせてもらおうと、教会に向かう。


 奥まで続く道を進んでいると、すれ違う聖女や神官は目を丸くして驚いている。それでもクロードが一緒にいるためか、声をかけてくることはない。



 フーリアだって自ら声をかけようとは思わなかった。

 そう、あんな姿さえ見つけなければ。



「神官長……その、大丈夫ですか?」

「ついに大聖女 フーリアの幻影が見えてきたか……。幻影でもいい。手伝いなさい」


 髪も服装もキッチリとしているが、目の下のクマは隠せないし、頬はやつれている。


 この数カ月間、よほど大変だったのだろう。

 そうでなければ厳格な神官長が幻覚と思わしき存在に話しかけるなんてことはしない。戻って来て正解だったのかもしれない。


「荷物置いてから神官長室に向かいますね」

「ああ。君の分の紅茶も用意させておく」


 そう告げて、神官長は亡霊のように廊下を歩いていった。


「帰ってきたばかりなのだから無理しなくてもいいんだぞ?」

「私なら仕事も慣れていますし、なによりあの状態の神官長を放置できませんから」


 クロードと別れ、荷物を置いてから神官長室へと向かう。


 想像以上の書類の山の真ん中に神官長はいた。

 彼は視線を上げることなく、フーリアに指示を出していく。割り振られたのはどれも大聖女の仕事だ。


 どうやらフーリアが不在の間、大聖女の役目は全て神官長がこなしていたらしい。


 大聖女の椅子が空いた際は各方面から推薦状が送られてくるものである。その中から神官長がふさわしいと思う相手を選ぶのだ。神官長の任命はその逆。


 フーリアが任命された時と同じく、神官長の元には大量の推薦状が届いたことだろう。


 なのに、なぜ……。その謎はすぐに解けた。


「多少能力が低くとも、仕事をする奴はいい。肝が据わった奴はもっといい。なのに、議論もまともに出来ない奴や全肯定する奴ばかり推薦してきやがって。何のためにトップが二人いると思っているんだ。ああ、フーリアの幻影。これも頼んだ」


 神官長はブツブツと呟きながら仕事を進めていく。

 ここまで追い詰められているのは仕事量が多いだけ、という訳ではなさそうだ。


 お疲れ様です、と告げて書類を受け取る。

 仕事がひと段落したら、大聖女の選定を手伝おうと心に決めた。



 神官長がフーリアを本物だと気付いたのは、それから三日が経ったときのこと。



「私の幻影も現れてくれればもっと楽に……」なんて不穏なことを呟き出したので、無理矢理ベッドに押し込んだのだ。


 寝ている暇なんてないと騒いでいた彼だが、ポーションを飲ませれば一発だった。

 よほど疲労が溜まっていたのだろう。監視役としてキュイを残してきたが、そこから半日は微動だにしなかったという。


 そして目覚めてからようやくフーリアが帰ってきたことに驚いた、と。


 キュイを抱えて戻ってきた彼は深々と頭を下げた。寝不足は人の判断力を鈍らせるらしい。


 彼が寝ている間に割り振っておいた仕事を渡せば、戸惑いながらも受け取ってくれた。


「よく帰って来たな。怪我もなさそうで何よりだ」

 神官長からそんな声をかけられたのは、書類の山が普通の高さになってからのことだった。



 一人で二人分の作業を請け負っているとはいえ、神官長がよくこんな量まで溜めたものだと思っていたが、途中から他の仕事が大量に混ざっていた。


 教会の改革に関する資料だ。

 特に平民出身者と貴族出身者の扱いの差がほとんどなくなっていた。


 さすがに完全にゼロには出来ないけれど、かなり頑張ってくれたようだ。

 平民側はともかく、貴族サイドにこれを受け入れさせるのは苦労したことだろう。似たような物がいくつも見つかった。



 大聖女追放は、誰よりも規則を重んじていた神官長に規則自体を変えなければと思わせるだけの威力があったのだろう。


 書類に目を通していくうちに、彼の考え方がかなり柔軟になっていると知ることが出来た。


 彼と上手くやっていける大聖女を見つけてしまえば、この国は以前よりもずっと良い国になることだろう。


 素直にそう思った。


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