17話 鎖で繋ぐことなど望まない
「命を救ってもらったにも関わらず、不敬罪などというふざけた理由で国外追放したこと、王族の代表として謝らせてほしい。本当にすまなかった」
「頭をあげてください。クロード様は何も悪くありません。むしろ古龍から国を救った英雄です。あなたがいなければ追放どころか、私の命はありませんでした。こうして生きられているだけで、ありがたいことです」
「私は王族だ。王族がしでかした失敗は私の罪でもある。簡単に許されていいことではない」
「私は私の出来ることをしたまでです。たまたま同じ船に乗っていた男性を助けたのも、クロード様を助けたのも同じです。例え追放されたとしても、何もしなかった方が悔いが残ってしまうから。この先、似たような状況に遭遇すればまた私は動き出すのでしょう。そういう人間なんです。クロード様が気に病むことなど何もないのです」
フーリアは彼以外の人もたくさん助けてきた。その一つに過ぎないのだと強調する。
彼は困ったように視線を彷徨わせる。
こんな言葉が返って来ることを予想していなかったのだろう。
フーリアは国に戻ることを望んでいない。クロードの重みになることも。
彼を鎖で繋ぐくらいだったら、縁を切る道を選ぶ。
寂しいが、それがフーリアの愛なのだ。
「もう一度、クロード様の元気なお姿を見ることが出来て良かったです」
彼の両手に手を伸ばし、軽く包み込む。
手を離す際に「どうか今後もお元気で」と告げてから立ち上がる。
そして船を降りるべく、部屋の前で控えていた男に声をかけた。
この船を降りた後、どうしようか。
次の船を待って、同じ国に向かう船を待つ?
だがフーリアはデイビッドからの申し出を断っている。
船を諦めて陸路を進むという手もあるが、他の大陸に渡るならこの町が一番適している。
となると、違う大陸に向かうか。
購入したガイドブックはマジックバッグに入れてある。
船を降りた後、市場のベンチでキュイと一緒に決めることにしよう。
船が来るまでまた待つことになるだろう。
宿は取れないと思うが、だからといってギアードを頼ってもいいものか。また来ていいとは言ってくれたが、こうも近いと悩んでしまう。
宿に泊まるなら、この町付近はもちろん、近くの町まで満室。
早めに馬車に乗り込んで町から離れた場所まで移動する必要がある。
乗る船を決め、出航日に合わせて帰って来るか。
今後の予定を決めながら出口へと向かう。けれどエリアを出る途中でクロードに手を掴まれた。
「待ってくれ!」
「クロード様?」
「まだ、言いたいことがあるんだ。話したいことも沢山……。だから、だから」
「ゆっくりで大丈夫ですよ」
部屋を出てから少し歩いた後なので、引き止めるかを悩んでいたのかもしれない。
離れがたくなる前に、フーリアが話を早々に切り上げたのも悪かった。
優しく微笑めば、彼の口から出たのは衝撃的な言葉だった。
「……結婚してほしい」
「え?」
「違う! いや、違わないが、順番が……。目が覚めたら求婚しようと決めていたから、違わないか?」
普段の彼は、自問自答しながら話すような人ではない。
ましてやこんなに言葉を迷うなんて……。
罪悪感から、必死で言葉を紡いでいるのではないか。
彼のことは愛している。だが、フーリアの気持ちがクロードにも伝わっていて、責任を取る形での結婚を望んでいるのだとすれば、そんな求婚は悲しすぎる。
誰も幸せにはならない。
両手を包み込み、真っすぐと彼の目を見つめる。
「本当に、お気になさらず。私は今も幸せですから」
恋を教えてくれた人に笑ってさよならを告げる。けれど彼はますます顔を歪めるばかり。
「愛しているんだ。行かないで、チャンスをくれ」
何が最善なのか見失いそうになる。
傷は浅い方がいい。望まれぬ結婚は御免だ。それでもこれ以上クロードが悲しむ姿は見たくなかった。
「クロード様……。そんなに教会の管理が大変なのですね。分かりました。次の大聖女が育つまで、一度戻らせていただきます」
管理が大変かどうかは問題ではない。ただ不当に追放された聖女が戻ったという事実が大切なのだ。
時間が経てば追放した過去なんて少しずつ記憶から薄れていく。
そして彼の罪悪感も。それでいい。
ただそれが薄れるまで、どうかあなたの近くに……。
口では彼のためと言いながら、ただフーリアが欲を抑えられなくなっただけ。
あと少しだけ一緒にいたい。
欲が出て来ると分かっていたから、早くこの場を去ってしまいたかったのに……。
これ以上深みにはまらないように『自分は聖女として求められているのだ』と自身に言い聞かせる。
クロードは小さく「とりあえずはそれでいいか」と呟いた。
未だ彼はフーリアに何かしら形に残る謝罪を受け取らせたがっているようだ。
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