14話 墓参り
朝食をごちそうになった後、ギアードがお墓まで案内してくれることになった。
墓地は海が一望できる高台にある。途中で養父母が好きだった花を買った。
墓地はひどく閑散としていた。
近々大きなお祭りがあるらしく、皆、そちらの用意で忙しいそうだ。
「知らなかったとはいえ、大変な時期にお邪魔してしまってすみません」
「祭りよりも君の安否の方が大切だ。むしろ君の元気そうな顔を見れたことで祭りが楽しめるようになったくらいだ」
だから気にしなくていい。
そう言いながらギアードはワインを買った。
養父母が好きだったワインだ。安物だからいっぱい飲める、と笑っていた二人を思い出し、笑みがこぼれた。それはギアードも同じらしかった。口元が緩んでいる。
二人の眠る場所の前で手を合わせ、今までのこととこれからのことを報告する。
教会で大聖女として働いていたこと。
第一王子によくしてもらったこと。彼の命を助けられたこと。
国を追い出されてしまったこと。
キュイに出会ったこと。
これから他の国を巡ろうと思っていること。
「お墓参りが遅れてしまってごめんなさい」
最後にそう締めくくり、養父母に別れを告げる。
また会いに来よう。そう決めて、坂を下る。
来た時とは違う道を歩きながら、ギアードはお祭りについて教えてくれた。
三年に一度の開催で、国内外から観光客が押し寄せるのだとか。
明後日から港に大きな船が続けてやって来るらしく、それに合わせて屋台にはお土産物も大量に並ぶらしい。
宿はどこもいっぱいで、ここにいる間は彼の家に泊まればいいと言ってくれた。
「その船って来たらしばらく港に止まっているんですか?」
「いや、二隻か三隻しか止められないから入れ替わりでいなくなって、祭りが終わった頃にまたやってくる。こちらに来るのがメインだから、帰りの船はいつもよりもかなり安い。祭りが終わればその逆。だからこの時期に他の大陸に旅行する人も多いんだ」
「なるほど……」
他の大陸に移るという選択肢もあるとは思っていたが、あまり真剣に考えていなかった。
だが使用言語が同じなら、思い切って大陸を渡ってしまうのもアリだ。
見知らぬ薬草なんかも見つけられるかもしれない。
ギアードは考え込むフーリアの肩をちょんちょんと突いた。
「あっちの通りにガイドブックが置いてあるよ」
「見てきていいですか?」
「ああ」
祭りの時期以外にも月に何回かは大きな船がやってくるらしい。
ガイドブックがズラリと並んでいた。
ギアードはその中から比較的治安がよく、同じ言語が使われている国の本をいくつか選んでくれた。
ガイドブックが入った紙袋を抱えて、彼の家へと戻る。
ページを捲りながら、キュイと一緒にどこがいいかなと相談しながら次の場所を決める。
泊めてもらっている間は家事やお使いなど、お手伝いをして過ごす。それからポーションも作って、受け取ってもらった。
お金は受け取ってもらえなかったので、本当にささやかなお返ししか出来ていない。
それでも二人はまたいつでもおいでと言ってくれた。
キュイと決めた船は、すぐ隣の大陸に向かう船だった。
潮の流れや天気にもよるが、三日から五日ほどで到着するらしい。
フーリアとしてはもっと先の大陸に行きたかったのだが、キュイが拒否した。
なぜだろう、とページをめくるうちにすぐに答えが分かった。
自生する植物が変わるから。いきなり食生活が変わることを嫌ったのだ。
なんともキュイらしい。
ギアード達も「食事は大事だね」と笑いをこらえていた。
チケットを買い、多くの乗客を降ろしたばかりの船に乗り込む。
まさか運河を渡った時よりも少し足した金額で、個室を取れるとは思わなかった。
「キュイッキュイ~」
「そんなにはしゃいでたら落ちちゃうよ」
初めての大型船にキュイも大喜びだ。
フーリアもキュイを撫でながら、はしゃぐ気持ちを抑える。
入れてもらえたとはいえ、中はまだ清掃中。甲板には出られないらしい。
船旅は数日にわたる。急がずとも海を楽しむ機会なんていくらでもある。
チケットに書かれた個室に到着したら、ギアードの奥さんに持たせてもらった昼食を食べながらゆっくりと過ごすつもりだ。
上機嫌で進んでいくフーリアとキュイだったが、個室が近づくごとにすれ違う人が増えて来る。
てっきり自分達が一番乗りだと思っていたが、そうではなかったらしい。いや、まだ降りていない客がいるのだろうか。
気になるのは、すれ違う人のほとんどが焦った顔をしていること。
年齢や服装は様々だが、狭い船内を早足で通り過ぎていく彼らは異質だった。
だがフーリアはこの様子に見覚えがあった。
『急病人』の文字が頭をよぎる。
「何かあったのかな?」
元とはいえ、教会で働いていた聖女として見過ごせるはずもない。
人がやってくる方向にズンズンと進めば、一般客立ち入り禁止エリアの前にやってきていた。
エリア名を見て、お得意様しか入れない場所だっけ? と思い出す。チケットを購入する際に注意された。
つまり、そのお得意様に何かあったのだ。
一般客のフーリアがここまでやって来ても、すれ違う乗員が注意する様子はない。それほどの異常事態。
通りがかった男の腕を掴み、何があったのかと問う。
彼は困ったように視線を彷徨わせた。
見知らぬ客に重要事態を説明しようか悩むなんて相当だ。だから背中を後押しする言葉を投げた。
「私は元聖女です。急病人がいるなら案内してください」
「それは本当か!?」
ガシっと肩を掴まれ、身体が跳ねた。だが驚いている場合ではない。
「神に誓って」
元だろうと、偽物が聖女を名乗るのは犯罪である。神に誓えば逃れることは出来ない。
それは男の国でも同じだったらしい。
男はフーリアを中へと案内してくれた。
すれ違う人達はエリア内に入ってきたフーリアに訝し気な視線を向ける。
当然だ。
だが先導する男はかなり地位のある人のようで、止められることはなかった。
そのままとある部屋と進んでいく。
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