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13話 ようやくたどり着いた港町

 キュイを撫でながら、ドライフルーツを頬張る。


 冒険者からもらったものだ。

 少しちぎってキュイにもやると、フーリアの手に身体を擦りつけた。気に入ったようだ。



 飲み物にも食べ物にも余裕があるフーリアは、初めての運河を楽しむことにした。


 よく揺れるし、いびきのうるさい乗客はいたのと、おそらく睡眠不足などもたたり、体調を崩す客も多かった。

 船を降りる時、ふらついている者も何人か目に入った。


 だがフーリアにとっては悪い船旅ではなかった。



 まだ時間も早いが、船着場の付近の市場はすでに営業している。


 こうして船でやってくる客を相手に商売しているのだろう。

 港町だからか、魚料理が多い。フーリアは揚げ魚が挟んであるサンドとフルーツのジュースを二杯購入することにした。


 一杯はキュイの分だ。溢さないようにゆっくりと運び、ベンチに腰掛けた。


「溢さないようにね」

「キュイキュイ!」

 サンドを食べながら、今日はどうやって過ごそうか考える。


 養父母の息子であるギアードの家はおそらくここからそう遠くはない。

 といってもフーリアがこの国にやってきたのは初めてで、頼りになるのは手紙に書かれていた住所のみ。だが彼らに会わなければお墓の場所を教えてもらうことも出来ない。



 早く会いたいが、そもそも今の時間、彼らは家にいるのか。

 いきなり訪ねて邪魔にはならないか、と不安が沸き上がる。


 ここまで来ておいて、本当に今さらだが、大聖女追放の噂がここまで流れていたら、迷惑になるかもしれない。


「墓参りは諦めた方がいいのかなぁ」

 サンドが入っていた包み紙を畳みながら、ぽつりと呟いた時だった。


「フーリア?」

「え?」

「君、フーリアだよな」


 声のした方を見れば、見覚えのある顔があった。


 正確にはよく知っている人と瓜二つの顔。彼は、養父はもうすでに他界している。



 となれば彼はギアード。フーリアが挨拶したいと思っていた相手なのだろう。


 急いで立ち上がると、彼はにこりと微笑んだ。笑った顔もよく似ている。

 その顔に、一気に安心感が押し寄せて来る。


「はじめまして。フーリアと申します」

「堅苦しい挨拶はいいよ。ここまでよく来たな。遠かっただろう? 良かったらうちに寄っていかないか? 奥さんがご飯を作っているんだ」


 どうやら彼は散歩がてら、足りない食材の買い出しに来ていたらしい。

 たまたまフーリアとよく似た姿を見かけ、声をかけてくれたのだとか。


 彼が知るフーリアは、養父母と一緒に描いてもらった絵のみ。もう十年以上も前の姿だ。


「よく私だってわかりましたね」

「背が伸びて、少し大人っぽくなっていたけれど、あまり変わっていないから。あの絵を描いた絵師は本当によく特徴を掴んでいたようだ」


 フーリアを歓迎してくれているようだ。


 ここまでは噂は届いていなかったのか。そう思い、彼に着いていく。


 けれどその逆だった。

 家に着くと、彼は表情を一転させた。今にも泣き出しそうな顔だ。


「本当に、大変だったな」

 絞り出すような声で、すでに噂が届いていたことを察した。


 けれどさすがに追放理由までは伝わっていなかったらしい。


「どんな理由があったかは分からないけれど、君が追放されるほどの罪を犯すはずがないって信じていた」

「義父母さん達がそんなこと許すはずがないもの」

「第一王子が意識を取り戻して、君の追放に憤っていると聞いてからはますます意味が分からなくてね。居場所の分からぬ君のことが心配でたまらなかった。本当に、会えて良かった……」


 彼らとは手紙のやりとりをするだけの関係だった。


 けれど涙を流すほどに心配してくれていた。

 それこそ絵でしか見たことのないはずのフーリアを見つけ出してしまうほどには。


 彼らの温かさは昔、養父母と一緒に暮らしていた時の温かさとよく似ている。まるで実家に帰ってきたようだ。


「顔を見せてくれてありがとう。元気そうでホッとしたよ」

「ここに来たのはお墓参りをしたいと思っていたからで」

「そうか。父さん達も喜ぶよ」

「でもお墓参りの前に食事にしましょう。この時間だと船から降りたばかりよね?」


 いきなりお邪魔したにも関わらず、彼らは温かいスープとパン、ベーコンと目玉焼きまで付けてくれた。


 先ほどサンドを一つ平らげたばかりのフーリアには少し多すぎるくらいだが、温かい食事を前にしては、そんな野暮なことは言い出せなかった。


 二人はキュイを不思議そうに眺めていたが、途中で出会った相棒だと伝えると歓迎してくれた。そしてキュイ用にサラダを出してくれた。


 嬉しそうにもしゃもしゃと食べている。

 二人は食事するキュイを眺めながら「可愛い」と呟くものだから、キュイはますます上機嫌であった。


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