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◆もふもふに遭遇した彼ら(後編)

「父ちゃん、おかえり! ねぇ、これ見て!」

 瓶を手に、帰ってきたばかりの父に駆け寄る。すると父は不思議そうに首を傾げた。


「それどうしたんだ?」

「いつもの花畑で会ったお姉ちゃんがくれたんだ。鑑定してもらって、大丈夫なら使ってくれって」

「そんなバカな……。一本は、水か?」


 二本のうち、父が注目したのは初めに差し出された方のポーションだった。


 もふもふが光った時点で色は変わって、水のような見た目になってしまったが、少年はこちらを妹に飲ませるつもりだった。


 自分でもよく分からないが、そうした方がいいような気がしたのだ。


「緑だったのが、もふもふちゃんがピカーって光ったらこの色になった」

「意味が分からない」

「いいから鑑定してよ」


 父が鑑定すれば分かる。だって父は元々王都で働いていたほど凄腕の鑑定士なのだから。


 瓶を置き、父の服を掴んでゆさゆさと揺らす。


 お願いだから。嘘だったら週末のお菓子はいらないから。

 そう告げれば、父は困ったように眉を下げた。



 少年の話を信じるどころか、理解することすら出来なかった。けれど本気だけは伝わってくる。


 なぜ一度会っただけの相手を信用できるのか。

 田舎の村とはいえ、純粋に育ちすぎるというのも考えものである。これが偽物だと分かればきっとがっかりする。けれど良い薬にもなるだろう。


「鑑定するだけだからな。偽物だと分かったら使わずに飾っておくんだぞ?」

「うん!」


 元気に返事をする少年の頭を撫で、父親は魔法を発動した。そして、言葉を失った。


「……会ったのって、いつもの花畑か?」

「うん、そうだよ」

「そうか……。神はいたんだな」

「え?」

「お前が会ったのは神様だ。薬草の色が付いたものもかなりの高品質だが、こんなの見たことがない……人間が作り出せるものじゃない。神様が来てくれたんだ。これを飲ませてあげなさい」


 父が少年に差し出したのは色が変わったポーションだった。

 少年が思った通り、こちらのポーションが良いらしい。ポーションを大事に抱えて妹の寝室へと走る。


「本物だって! 父ちゃんが言ったんだから間違いない」

「ええ!?」

「ほら、飲んで。きっと良くなるから」


 妹に瓶を押し付ける。少し悩んだようだったが、父の能力を信じているのは妹も同じこと。心を決め、小さく息を吸う。そして瓶を煽った。


 薬のような苦さはない。味のない、水のような飲み物だった。

 けれど普段飲んでいる水よりもずっと飲みやすい。まるで身体に染み込んでいくかのよう。


「なんか、眠くなってきた……」

「寝ていろ。ご飯は後であっためてやるから」

「兄ちゃん、嘘だって言ってごめんね」

「気にするなよ。元気になったらまた兄ちゃんが面白い話してやるからな」

「うん。おやすみなさい」

「おやすみ、いい夢を」


 妹の髪を撫で、空になった瓶を洗う。

 それから玄関でぼおっと立ち尽くす父の手を引いて食事を摂り、花畑であったことを話した。



 翌日の昼過ぎまでぐっすりと眠っていた妹の風邪はすっかりと治っていた。



 それだけではない。

 トイレに行く足取りが少しだけ軽くなったのだ。壁伝いに歩かなければならない、という点は変わらない。


 だが身体が軽くなったのだと、リビングまでやってきた。


 もう何年も使われていなかった妹の椅子に腰かけ「ちょっと低いね」と笑っていた。


 今日たまたま体調が良いだけかもしれない。

 ポーションという名前は知っていても、その効果をよく知らない少年にとって、この状況はポーションが作り出した時間制限付きの奇跡だった。


 それでもいいと、花畑で出会った女性ともふもふちゃんに感謝した。



 けれどこれは奇跡のはじまりに過ぎなかった。


 日に日に妹の体調が良くなっていくのだ。家の中だけではあるが、移動できる場所も増え、壁伝いでなくても歩けるようになった。


 医師も奇跡だと言った。

 嬉しくて、少年はあの日の出来事を医師に伝えた。やはり信じてはもらえなかったが、それでも良かった。


 もし花畑で見た光景が幻だったとしても、妹はこうして歩けるようになったのだから。



 来月には母が短い休暇をもらって帰って来る。

 驚くに違いない。少年は妹と一緒にケーキでも焼こうと話し、父は町で大きな鳥肉を買ってきてくれることになった。



 あと何回か寝ればやってくる日を想像して、三人は顔を突き合わせて笑いあった。


 彼らのいるリビングに置かれた棚の上には使われなかったポーションと、もふもふな生き物が美味しそうに食べていた花と木の実、そして家族四人が並んだ絵が飾られていた。


 絵の中の妹はベッドに寝そべっている。

 だから少年は大きくなったらお金を貯めて、新しい絵を描いてもらおうと密かに決めていた。


 画家を家の中に招いて描いてもらうのではなく、あの花畑で。

 家族全員が笑い合っている絵を描いてもらって、棚に並べるのだ。


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