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◆もふもふに遭遇した彼ら(前編)

 幼馴染のみで構成されたとある冒険者パーティーは、ゲートに遭遇していた。


 それは大型魔獣を討伐した帰り道のこと。

 依頼にてこずったせいでメンバーの体力も魔力も底が近い。加えてポーションの残りも後一本。


「ついてない」

「運がなかった」


 十体以上も出てきた中型魔獣をどうやって退ければいいのか。

 周りに人が通りかかる気配もなければ、救援を呼びに行く余裕もない。


 全員の脳裏に『死』という文字が浮かんだ。


「最後にあのもふもふ撫でられて良かったなぁ」


 一人の女冒険者はポツリと呟いた。

 もふもふ、と聞いて思い出すのは大型魔獣の討伐に向かう際、出逢った少女が連れていた魔獣のこと。


 魔獣なのかすら分からないその獣の身体はとてももっふりとしており、可愛いもの好きの彼女の胸に刺さった。


 人懐っこいようで、手に身体をスリスリとされた時なんて「ふぉお」っと変な声が漏れたほどだ。


 あの子に会えた時点で運を使い果たしてしまったのかもしれない。



 それでも最後まで諦めたくない。

 冒険者になったからには常に死が隣り合わせである。これが最後の戦いになろうと足掻いてやる。


 彼女の目に宿る強い意志に、仲間たちは武器を強く握った。



 すると遠くから「キュイキュイ」と可愛らしい声が聞こえた。

 あのもふもふした子の鳴き声とよく似たそれが聞こえた瞬間、ポーションの瓶がパリンと割れた。


 ラストの一本さえもなくなってしまった。

 けれどやってきたのは絶望ではなく、希望だった。



「身体が、軽い」

「なんで?」

「わかんないけど、戦うなら今だ!」



 一体何が起きたのか。理解できぬまま魔獣へと突っ込んでいく。

 そして勝ち目がないと思っていた魔獣をアッサリと倒してしまった。


 それだけではない。そのうちの一体が、レアリティの高いアイテムを持っていたのである。


 冒険者たちはそのアイテムと、使えそうな素材を剥ぎ取った。そして割れてしまった瓶のカケラも拾い集めて袋に入れる。


 冒険者ギルドで依頼の達成報告とゲートに遭遇したことを告げ、報酬をもらった。


 部屋に帰り、どっさりと重くなった革袋を前に、彼らは放心状態だった。


 あの出来事が夢ではないかと思い始めたのだ。

 けれど瓶のカケラもレアアイテムも手元にあって、報酬だって引き受けた依頼だけではこんなに多くはならない。



「鳴き声、聞こえたよね?」

「ああ、あの声でポーションが割れた」

「そうしたら身体が軽くなって。今なら勝てるって思った」

「助けてくれたのかな?」

「でも、ただの魔獣だろ? あんな魔獣初めて見たけど、その場にいないのに人を助ける魔獣なんて聞いたことがない」

「聞いたことがなくても、私達があの子に助けられたのは事実よ」


 あの魔獣がどんな生物なのかは分からない。

 けれどメンバー全員があのもふもふとした生き物に助けられたことを理解している。


「ドライフルーツ、好きだったのかな」

 一人がポツリと呟けば、仲間たちは「そうかも……」と続いた。


 真っ白いもふもふに助けられた彼らは、この日を境に、割れたポーション瓶とその時にゲットしたレアアイテム、そしてドライフルーツを持って旅に出るようになった。



 あの声を聞いたのはあの日だけだが、もっと慎重に動くように意識し始めた彼らが死を感じるような目に遭うことはなくなったという。





 ◆◆◆

 もふもふに遭遇し、変わった状況に遭遇したのは冒険者たちだけではない。


 花畑で出会った少年も同じだった。

 少年は薬師の見習いと名乗る女性にもらった二本のポーションと摘んだばかりの花を持って家に帰った。


 鑑定してもらうように、という言葉を守り、父の帰りを待った。

 それまで妹に花畑であったことを聞かせてやることにした。


「それでさ、お姉ちゃん、花冠作るのすっごい下手で、もふもふちゃんが間違って食べちゃったんだ」

「なにそれ~」

「信じてないだろ。すっごいもふもふで、温かかったんだ。それにお姉ちゃんたちと会ったって証拠はちゃんとあるんだからな。父ちゃんが帰ってきたらもらったポーションを鑑定してもらうんだから」

「でもポーションってすごく高いんでしょ。花冠を教えただけでそんな高価なものくれないよ。兄ちゃん、からかわれたんだよ」

「そんなことないって」


 妹は全く信じてくれない。


 真っ白いもふもふが出てきた時点で嘘だと決めつけ、ポーションを見せたら、今度は「兄ちゃん、ポーションは草すりつぶしただけじゃ出来ないんだよ……」と憐れんだ目を向けてきた。


 妹は少年よりも頭がいい。

 花畑で妹は風邪だと話したが、妹がかかっているのは風邪だけではない。原因不明の病にかかっていて、ベッドから出て歩くのもやっと。


 一緒に花畑にいけたのはもうずっと前。病が発覚するよりも前のことだった。


 それから少年は度々妹が好きな花を摘みに行くようになったし、その日の話を聞かせてやるのが日課となった。


 楽しませようと、話を大きくしてしまうこともあり、妹もそれに気づいている。

 今回の話もそうだと思っているのだろう。



 だが今日の話は本当なのだ。

 むうっと頬を膨らましながら「父ちゃんが帰ってくれば分かるんだからな!」と怒ったような声を出す。妹は嘘だよ~とケラケラと笑っていた。


 こんなに妹が笑うのはいつぶりか。

 楽しそうな姿に、嘘だと疑われてもまぁいいっかと思えた。


 そうこうしているうちに父が仕事から帰ってきた。


 少年の父は少し離れた町で鑑定士をしている。

 母は妹の薬のために、貴族のお屋敷で住み込みの仕事をしている。医師からは薬ではもう限界で、教会に見せに行くように勧められている。


 だから二人して少しでも給料が良い場所で働いているのだ。

 両親がいない間、家のことや妹の世話は少年がしていた。今日も花畑から戻って来てすぐに夕食の準備も済ませている。後は温めるだけだ。


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