11話 花畑と少年
「うわぁ綺麗!」
キュイが目指していたのは花畑だった。綺麗に咲く花をもぐもぐと食べ始めた。
ポーション続きでたまには他のものを食べたかったのかもしれない。
もふもふと揺れるキュイを眺めながら、以前、クロードが花畑の話をしてくれたなと思い出した。
その花畑は当然ながらここではない。生えている花も違う。
ここに咲いているのは白だが、王子の話で出てきた花は青。
教会にも咲いていない色の花についてもっと教えて欲しいとねだったものだ。
「あの時は、花冠をお土産にすれば良かった、って言って、違う花で冠を作ってくれたっけ?」
六年ほど前のこと。花冠をもらったことで、フーリアは恋心を自覚したのだ。
次はフーリアと同じ紫色の花を贈ると言ってくれたが、それが叶うことはなかった。
その時の流れで言っただけで、クロードは覚えていないのだろう。
それでも次があるかも、と思うだけで胸は高鳴った。
ああ、懐かしい。
その場にしゃがみ込み、いくつか花を摘んで冠を作ってみることにした。イメージはある。
あの時、クロードの手元を見ていたからきっと上手く出来るはず。そう思ったのだが、出来上がったのはボロボロになった花だった。
結び目もゆるゆるで、とてもかぶれそうにない。
切ったりすりつぶしたり煮込んだりするのは向いているが、この手の物を作るのは向いていないらしい。
出来上がったそれを見つけたキュイは、自分のために摘んでくれたのだと勘違いして食べ始めてしまった。
「はぁ……」
思い出もこうしてボロボロになっていくのか。
もしゃもしゃと食べられていく冠を見つめてため息を吐く。すると手元に影が出来た。
背後には見知らぬ少年がいた。
「お姉ちゃん、下手だね」
「初対面の人にいきなりそれは失礼じゃない?」
「ごめんね。代わりに作り方教えてあげる」
少年はそこに座り込み、花冠を作り始める。
フーリアに指導しながら、自分のことを話してくれた。
なんでも彼は近くの村に住んでいるらしい。
今日は風邪をひいた妹のために花を摘みに来たのだという。近くの村の人はよくここに来るそうだ。
彼も数日に一度は来るそうで、初めは見知らぬフーリアに声なんてかけるつもりはなかったらしい。
ただ、あまりの下手さに見かねて声をかけた、と。
親切なんだか失礼なんだか分からない。
だが教え方はとても上手く、フーリアでも綺麗な冠を作ることが出来た。
「そういえばお姉ちゃんはなんでこんなところにいるんだ? 道沿いに歩いていたら、ここ見えないだろ?」
「この子がこっちに行きたいっていうからちょっと寄り道してみたの」
「へえ、もふもふちゃんってそんなことも分かるんだ! 美味しい?」
「キュイッ!」
少年はキュイを『もふもふちゃん』と名付けたようだ。
キュイの可愛さに、わざわざ少し離れた木から木の実を取ってきてくれた。
キュイはそれを食べながら、少年に媚びを売る。
「お姉ちゃんって何してる人なの?」
「薬師修行の旅をしている途中」
「花冠作るの下手っぴなのに、お薬なんて作れるの?」
スルリと出た嘘に少年は疑わしげだ。
薬師は嘘だが、薬が作れるという点は嘘ではない。
といってもあの悲惨な花冠を目にした後では信じられない気持ちもよく分かる。
「作れるよ。そうだ、花冠を教えてくれたお礼にポーションを分けてあげる」
「いいの!?」
「うん。修行中の身だから売り物ほどではないけれど、効果はあるはずだから妹さんに飲ませてあげて」
そう告げて、ポーションを取り出す。
するとキュイがぴょんぴょんと飛び跳ねだした。かと思えば、ポーションに飛びかかる。
ポーションは自分の物という認識が強いのかもしれない。加えてこれを渡せば残りは一本。
今日明日で飲みきってしまう。
材料はあるので、作ればいいと思っていたが、キュイには伝わらなかったのかも知れない。
「キュイの分はまた作るから」
だから、と言い聞かせようとしゃがむと、キュイが大きく飛び上がった。
「キュイキュイッッッッッ」
耳を塞ぎたくなるほど大きな声をあげ、発光したのだ。
あまりの眩しさにぎゅっと目を閉じる。
光は徐々に弱くなり、キュイのもふもふを感じて目を開けば、すっかりいつも通り。
「面白い」「続きが気になる」「キュイスゴイ!」と思われた方は、作品ブクマや↓にある☆☆☆☆☆評価欄を★★★★★に変えて応援していただけると嬉しいです!




