10話 怪しい女冒険者と魅惑のもふもふボディ
あと数日ほど進めば船渡し場に着く。後は平坦な道を歩くだけ。
船が出るのは早朝。そこから丸一日揺られることになるらしい。
前日はその町で一泊するのが一般的だそうだ。
そこに着くまではテント暮らしを続けるか、手前の村でも一泊するか悩みどころだ。
考え事をしていると、前方から女性が凄い早さで向かってくる。
邪魔にならないようにとフーリアが道を譲ると、彼女もまた少し方向転換をした。
「ちょっとそこのお姉さん! もしかしてこの先の運河を目指しているのでは?」
「はい、そうですが……」
いきなりなんだろう。怖いな……。思わず身構えてしまう。
「あ、いや私怪しいものではなくて。その、遠目からとても素敵なもふもふが目に入って……」
「キュイ?」
「ああ生き物だったのね! 可愛い! すごい、可愛い……」
キュイを見つめながら身悶える女性はますます怪しさが増していく。
一体何が目的か。詰め寄られた分だけ少しずつ距離を取る。
けれど彼女は訳も話さず可愛い、可愛いと繰り返すのみ。
触れてこないだけ良いと思った方がいいのか。早く解放してくれないかと困っていると、彼女が来た方向から三人の男女が走ってきた。
「すみません! うちのメンバーがご迷惑を……」
「この子、可愛いものに目がないもので。決して怪しいものではないんです」
「私達、こういうものでして……」
差し出されたカードは冒険者ギルドのパーティー登録カードだった。これは依頼者に身元を証明する際などに使用される。
銀色、ということは中堅どころのパーティーらしい。
女性を引きはがしてくれるのはありがたいが、冒険者であることと階級が分かったところで安心材料にはならない。
疑わしい視線を向けると、ようやく初めの女性が正気になった。
コホンと咳払いをし「失礼しました」と頭を下げた。
「あなたに有益な情報を渡す代わりに、その子を撫でさせてもらえませんか?」
「え?」
「運河を渡るなら、手にしておいて損はない情報だと思うのですが……どうでしょう?」
情報は欲しい。だがそのためにキュイの身を売るようなことはしたくない。
問いかけるようにキュイに視線を向ければ、キュイキュイっと楽しそうに飛び跳ねている。
キュイは構わないようだ。
「あの、優しくしてあげてくださいね」
「もちろん! 失礼します。ああ、もふもふと適度な重量感……たまらない~」
ゆるゆるな表情と口に出される言葉は不審者そのものだが、キュイを撫でる手つきは優しい。キュイも気持ちよさそうだ。
彼女がキュイを堪能している間、仲間の冒険者たちが対価である情報を教えてくれた。
なんでも船のある町だといろんな物の値段が高めに設定されているらしい。
船を乗り過ごせば、二日待つことになるもので、足りないものがあれば諦めて買ってしまう者も多いのだとか。船に乗ってからも食べ物や飲み物を買うことは出来るが、さらに割高になる。
この出費が案外馬鹿にならない、と力説してくれた。痛い目にあったのだろう。
また高いのは食べ物だけではなく、宿と船賃も同じこと。
さらに宿の質はとても悪い。寝られないことも考慮しておいた方がいい。
だから慣れている者は手前の村である程度物を揃えておいたり、そこで宿に泊まって休んでおいたりするのだと教えてくれた。
手前の村のオススメの宿とオススメの店も教えてくれた上、船酔いに効くという木の実を分けてくれた。
木の実は教会でもポーションの材料として使っていたもので馴染みがある。ありがたく受け取った。
「はぁ……良かった。ありがとう」
お礼と共に彼女がくれたのはドライフルーツだった。
撫でている途中にキュイが気にしていたらしい。袋ごとくれた。
変な人だけど、いい人でもあるらしい。
森の時は魔素に抵抗がないという理由で忠告を無視したが、フーリアが長時間船に乗るのは今回が初めて。今回は従うことにしよう。
「町についたら宿を取ろうか……ってキュイ、どうしたの?」
声をかければ、キュイがふるふると揺れている。手の中にすくい上げると「キュイッキュキュ」と鳴き始めた。
どうやら道の横側の林が気になっているらしい。
「こっちに何かあるの?」
「キュイッ!」
まだ日は高い。少し寄り道したところで宿が満室になることはないだろう。
困ったら、船に乗る日をずらせばいい。
今はキュイの望む道を進むことにした。
少し進んでいくと、足下に花が増えていく。
それに合わせてキュイのテンションも上がり、降りると言い出した。
キュイが自分で歩くのは久々だ。歩く、というか飛ぶというか。ぴょんぴょんと移動していく。
フーリアは数歩遅れる形でキュイの後に続く。
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