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◆意識を取り戻した王子は追放された聖女を探すことにした(後編)

「これは?」

「置き型結界だ。危険地帯や人が密集している地域に置くことで、一定の範囲に結界を作り出すことが出来る。効果が切れるポイントに重ねて置くことで、範囲を広げることが出来る」

「いつの間にこんな物作ったんですか」

「数時間前に完成したばかりだ。精度の確認は済んでいるが、定期的なメンテナンスは必要だからそれに合わせて帰ってくる」

「城にも顔を出してくださいね……」


 ルイスはひどく呆れていたが、止めることはしなかった。


 メンテナンスの頻度と設置想定箇所を提出するまで離してくれなかったが、無事に捜索に出ることが出来た。




 城を出てからひと月ほどが経過したが、全く見つかる様子がない。

 予想はしていたが、手がかりすら掴めてはいない。



 彼女が追放されてからすでに数ヶ月経過しているということもあるが、大聖女フーリアはその存在のほとんどを隠されていた。


 国内でも彼女を見たことのある者は一部の上位貴族か近衛騎士、教会に所属している聖女・神官のみ。


 国民達からは『名前は知っているものの、存在しているかも怪しい』と思われているほど。


 両親はフーリアを大事な資源として隠し続けていたのだ。


 加えて馬車から降ろした場所が森の中であるため、その時点から目撃情報がない。



 もしも彼女がどこかで大規模な魔法を使用していれば、痕跡を辿ることも可能だ。

 だが彼女の痕跡は残っていなかった。


 大魔法を使うような場面に遭遇していないことを喜ぶべきか。

 残された道は、地道な聞き込みただ一つ。



 聞き込み場所は冒険者ギルドと商業ギルド、そして薬屋の三カ所に絞った。

 どちらのギルドにも『フーリア』という名前の登録はなかったものの、ギルドには人が集まる。

 一人くらい知っている人間がいるのではないかと思った。


 薬屋にも聞き込みをしたのは、彼女が道中、ポーションを売ってお金を稼いでいるのではないかと考えたから。




 そしてその読みは的中した。


 捜索から三ヶ月が経とうとした頃、ようやく一つの手がかりを手に入れたのだ。


 山に囲まれた小さな村の薬屋に、高品質のポーションを数本納品した少女がいたらしい。


 急いでいる様子で、ここにも一度きりしか来ていない。

 その後の足取りは分からないが、かなりの数の空き瓶を購入していたので、他の薬屋にもポーションを卸しているのではないか、とのことだった。


 薬屋の証言を元に聞き込みをすれば、フーリアらしき少女は森の逆側の道を進んでいったことが判明した。


 また、薬瓶よりも少し大きな毛玉のような何かをバッグの上に載せていたという情報もゲットした。


 そこから彼女が通過したであろうルートを考えていくうちに、一つの可能性が浮かんだ。


「もしかして彼女が目指しているのは……」

 年に一度手紙を送ってくる彼らの家を目指しているのではないか。


 文通相手は確か養父母の息子夫婦だったか。

 見せてもらったポストカードには海の絵が描かれていた。大きな港があることで有名な観光地である。



 だがあの場所に向かうにしてはかなり日数がかかっている。

 馬車や船を利用していれば、もうとっくに到着しているはずだ。節約して歩いている? だとすれば危険はないのか。



 彼女が持っていったのは魔物よけとテント、アイテムバッグ。

 どれも神官長が譲ったという最高ランクの品だが、それだけだ。後は心ばかりの退職金。



 警護の冒険者でも雇っていればいいのだが……。

 自分よりも頼りがいのある、体格の良い冒険者を想像して落ち込んだ。



 このまま探さずにいた方が彼女の幸せなのではないか。

 そう考えるとますます気分が沈んでいく。


 一度国に帰ろう。冷静になりたい。出来れば相談相手も欲しい。

 とぼとぼと戻った先で、クロードに与えられたのは的確すぎる言葉だった。


「え、今さらその可能性に気付いたの? 遅すぎる。動き出すよりも前に考えるべきことだと思うんだけど」


 普段よりも鋭く感じる言葉のナイフに、クロードのライフはゼロに近い。

 古龍と遭遇した時に次ぐほどのダメージかもしれない。胸を押さえていると、冷たいほどの視線が落ちてくる。


「その可能性を考慮した上で探していたのだと思っていた。でも、そこで怖じ気づくならその程度だったってことでしょ。兄さんが諦めるっていうなら捜索隊を出すよ。国としては兄さんがいてくれれば安心できる。けど、大事なのは気持ちでしょ」

「俺の気持ち……」

「胸を押さえてないで、ちゃんと向き合いなよ」


 辛気くささが移る、と部屋を追い出され、クロードは自室で自分の気持ちを見つめ直すことにした。


「お礼とか謝罪とかはついでに過ぎなくて、ただ生きて彼女に会いたいだけなのか……」

 そんな簡単な答えを導き出すために、十日もかかってしまった。


 暇なら結界のメンテナンスに行ってこいと城を追い出され、全て終えた後で捜索を再開することにした。


 けれど今までのようにひたすら足で捜索することはしない。


 そうしたところで見つからないことはこの数ヶ月で証明されている。


 だがこのまま諦める気はない。会いたい。そんな純粋な欲がクロードを突き動かしていた。


 あの村から目的地と思わしき場所までのルートを何百通りと割り出し、そこから細かく捜索していく作戦に移ることにしたのだ。


 そのために、自分にかけられた彼女の魔法を摘出・解析し、微量の残滓でも掬える魔法を開発した。


 唯一の目撃情報のあったあの村に向かい、その魔法を大規模に展開し、残滓を掬う。


 まだ同じ大陸にいればこれで拾えるはずだ。

 彼女は今も新たなポーションを作成し、所持している可能性がある。自分で使用しているかも。辿れなければさらなる方法を考えるだけだ。


 うっすらと見えた痕跡は地図にかき込み、それを元に捜索していく。

 多くは、薬屋がフーリアらしき少女から買い取ったというポーションを使用した痕跡と被っていた。だがそれ以外も、本当に微弱ながら残っている。


 なにより、一人で作れるポーションの数には限りがある。

 目撃情報が拾えないということは一カ所で大量に卸すことはしていないと考えていい。導かれる場所を一つずつ潰していけばいいだけだ。




 城を拠点としながら、大量の線と点、バツ印を書き込んでいくクロードに、ルイスは顔を引きつらせていた。


「その行動力があるなら、外堀埋めようとしていないでさっさと求婚するなり駆け落ちするなりすれば良かったのに……」


 そんなルイスの呟きが兄の耳に届くことはなかった。


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