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◆意識を取り戻した王子は追放された聖女を探すことにした(前編)

「なぜ彼女を追放した!」

 意識を取り戻したクロードが空白の数ヶ月のことを知ったのは三日後のこと。


 意識を取り戻してからすぐに礼に行きたいと言っても、宮廷医師が許可をくれなかった。

 それどころか全てを自らの手柄にしようとさえしていた。


 釜に煮込まれていた時の記憶がうっすらとあったこと。

 そして騎士達が大聖女 フーリアが国外追放されたことを教えてくれなければ、事態を知るのは遅れていたかもしれない。


 クロードはフーリアのことが好きだった。

 国内外の様子を語れば彼女が喜ぶことを知って、様々な地を訪れた。功績を上げ続けたのも、平民である彼女との結婚を両親に認めさせるため。


 あの日、とっさに王都を守ったのは王都にフーリアがいたからだ。

 国のためだとか、民達の命だとか。王子として最も優先すべきものが守れたのは結論に過ぎない。


 倒れる直前だって、助かったら求婚しようと決めていた。

 古龍を退けることは大陸指折りの冒険者ですら容易ではない。ましてや被害は最小限。


 今回ばかりは両親も拒むまいと確信し、全力で生きた。



 けれど目が覚めれば彼女の姿はない。

 両親は初めからクロードとフーリアの結婚を許すつもりがなかったのだ。


 王族は貴族か他国の王族と縁を結び、関係を強固にしてこそと考える人達であることは知っていた。


 だが恩人を追放するなんてとんでもない。

 しかも不敬罪なんてくだらない理由で。


 クロードの秘めた恋心を抜きにしても、彼女は大聖女だ。

 彼女の今までの活躍を、一体なんだと思っているのか。


 騎士達の話によれば、今回の追放は陛下の独断ではない。周りの貴族もクロードとの結婚を進めたいがために加担した。


 彼女は文句一つ言わずに出て行ったのだと。

 怒りで頭がおかしくなりそうだった。だがグッとこらえ、弟を呼び出した。



「お兄様のご回復、心よりお喜び申し上げます」

「堅苦しい挨拶はいい」

「そうですか。それで、なぜ私は呼び出されたのですか?」

「率直に言う。王座が欲しくないか?」

「そりゃあもちろん。けれどお兄様が王座に就くことにも不満はない。父上が立つよりずっと良い国になる」


 クロードの弟 ルイスは野心家だった。同時に国や民を愛していた。


 ルイスが王を継いだ方がずっと良い国になる。

 昔からそう思っていた。けれど両親はルイスを恐れていた。彼がトップに立てば自分達が追いやられることを分かっていたからだ。


 クロード自身、現状に大きな不満はなかったし、ルイスも兄さんが王位を継ぐならそれでいいと言っていた。


 サポートをしつつ、自分もやりたいことを進めたい。もちろん検討してもらってからだけど、と。


 二人で国を作るのは、両親が退位してからのことだと信じていた。


 だがもうそんな悠長なことは言っていられない。すでに国民や貴族の一部が反乱を起こしている。


 教会だって、今は切れ者の神官長がなんとかしているが、大聖女の不在が続けば手が回らなくなる。


 だから、改革をすることにした。


「俺だけでは間に合わない。力を貸してくれ」

「なるほど。私も大聖女の追放には納得がいっていない。兄さんとの結婚を認めないのと追放はまた違う。功績は認めるべきだ。それに兄さんの気持ちは大聖女に伝わっていないのだから、求婚したところで受け入れられるとは限らない。こんなことせずとも他の男を、それこそ神官長でもあてがってしまえば良かったんだ」


 弟ながらグサグサと刺してくる。クロードは痛む胸を押さえる。

 だが、気を許した相手にだけストレートな物言いをするルイスのことは気に入っている。


 相談相手としては最適で、過去に何度もこの鋭さに助けられている。


「協力してくれるか?」

「もちろん。仲間に引き入れられそうな人間のリストは作ってある」

「用意がいいな」

「目を覚ましたら動くと思っていたから。遅いくらいだ」

「悪い」


 ルイスが作ってくれたリストは数枚に及んだ。

 リストにある人物に声をかけていく。聖女や神官の扱いに不満がある者やかつて彼女に身内を助けられた貴族達が協力してくれることになった。



 一番心強かったのは神官長である。

 教会側の協力者リストを作ったのは彼だそうだ。


 教会のトップである彼もまた、大聖女の追放に怒りを感じていた。


 そしてクロードの目が覚めるのを待っていたのだと。


「去り際に私を騙そうとするくらいには肝が据わっている娘ですが、彼女の実力と活躍は本物ですよ。そうでなければ衝突を起こしてまで議論を続けません」


 彼らの協力により、改革はサクサクと進んだ。

 若者と年寄りとの間に考え方の差が生まれていたところに大きく切り込めたのが大きな勝因だろう。


 貴族だけで国を回せる時代は終わったのだ。


 両親を王座から引きずり降ろした後、クロードは王位継承権を放棄した。そしてルイスは若くして、王座に君臨することとなった。


 改革の際に手を貸してくれた人々に支えられながら、今後も活躍していくことだろう。


 クロードも国をよくするための協力は惜しまないつもりだ。

 だがこれでフーリアが帰ってくる訳ではない。だから探しに行くことにした。



 絶対に連れ戻したいだとか結婚したいだとか、そんな大層な気持ちはない。

 思いは秘めたままでも良いから、お礼と謝罪だけでも告げたかった。



 会うまで探し続ける。

 そんな固い意志を持って、とある魔法道具の製作を開始した。それは古龍に遭遇するよりも前からクロードが着々と開発を進めていたものだった。


 国を出る直前、完成したばかりのそれをルイスに託す。


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