1話 国外追放されました
「大聖女 フーリアを国外追放とする」
高らかに宣言されたのはサンリーシーシャイ王国第一王子 クロード=サンリーシーシャイが一命を取り留めた後のことだった。
批難の声もあがっているが、国王陛下より下された命が覆ることはない。
フーリアの功績は大きいが、不敬罪であることも事実。
何より、貴族達が平民のフーリアを大聖女の席から引き摺り下ろす機会を見逃すはずはない。王の間の中ですら、薄っすらと笑みを浮かべている貴族がチラホラと目に入る。
抵抗する姿を楽しみにしているのかもしれない。だがフーリアが異議を唱えることはない。納得いかなければ、王の間にノコノコとやって来るはずがない。
コクリと頷けば、王宮騎士二人に左右を固められた。
知らない人が見れば罪人扱いだが、騎士達の目つきは優しいものだ。
腕を掴む時、フーリアにだけ聞こえるほど小さな声で「お守りできず、申し訳ありません」と悔しそうに呟いた。
彼らの顔には見覚えがある。クロードと一緒に度々教会へとやってきていた騎士達だ。
今回の追放役に自ら名乗りを挙げてくれたのかもしれない。腕を引かれる形で馬車に乗せられる。
今から追放する人間を乗せるには随分と立派な馬車だ。
まるで貴族か王族専用の馬車みたい。クッション性も高く、この椅子なら数日乗りっぱなしでも身体が痛くなることはないのだろう。
すでにフーリアの荷物は運びこまれており、仲の良い相手との別れは済んでいる。
追放という形ではあるが、荷物をまとめる時間はもらえたのだ。それに手切れ金が含まれているのだろう退職金ががっぽり入った。
後半は貴族達には内緒だろうが、わざわざ伝えてやる義理はない。
それら全てはマジックバッグに収納されている。
神官長曰く、小規模のキャラバンが使用している物と同じ物らしい。
そう言われても実際どのくらいの量が収納できるのか、フーリアにはさっぱりだった。
ぼんやりとした返事をしてからお礼を告げると「とにかく沢山入る」と付け加えてくれた。
細かい数字を気にする彼には珍しい表現だ。
とにかくこの先、重宝させてもらうことだろう。
バッグを撫でながら、ガタゴトと揺られていく。
王都から出たのは何年ぶりか。
教会に入ってからすぐは王都の城下町に繰り出すことも出来たが、大聖女になってからは教会からの出入りも自由にさせてもらえなくなった。
教会から出るのは、王城に行く時のみ。だがそれすらも年に片手の指を折って数えられるほどしかない。
王都を出るどころか、王都で何が流行っているのかすら知らぬまま聖女の仕事に明け暮れる日々を送っていた。
聖女の仕事は嫌いではなかったが、平民であるフーリアを見下すくせに体調が悪くなったらすり寄ってくる貴族達の応対は苦手だった。
もちろん貴族全員が悪いのではない。身分制度も否定はしない。
教会の運営費は国家予算と貴族からの寄付金で賄われていることだってちゃんと知っている。
例えそれが嫁入り前の令嬢に『聖女』という箔を付けるための一年間の世話代だとしても、お金とは貴重なものだ。
理由は何であれ、聖女や神官の称号を賜った者は有事の際に駆り出されることとなる。
多くの令嬢や令息は戦力にはならないが、代わりに多額の寄付なり物資援助をしてくれるのである。その制度のおかげで今まで多くの命が助かってきた。
なんだかんだで持ちつ持たれつの関係なのだということも理解している。
だから事あるごとにいちゃもんをつけられようが、その数ヶ月後に平然と怪我した親戚を連れてこようが我慢できた。
さすがに裏で「薬品色の髪でよく恥ずかしくないわよね」と悪口を言われていた時はイラッとした。たまたまクロードが通りかからなければ、ポーションを馬鹿にするなと食って掛かっていたかもしれない。
だがそれも彼女達の横を通り過ぎる際「彼女の髪と同じ色のポーションとなると、かなり高品質のものですよね」と、クロードが嫌味を言ってくれたので溜飲が下がった。
それからフーリアは自分の髪が今まで以上に好きになった。
嫌味なんて言われ慣れている。
大聖女というポジションもあくまでフーリアの魔力が多いから。それでも平民がトップに立つことを貴族のご令嬢・ご令息は面白くないのだ。
表立って文句を言うことが出来ないのは、フーリアと並び、教会のトップに君臨し、国内有数の名家出身の神官長を敵に回したくないから。だから悪口で発散している。
これでも教会に閉じ込められている分、向けられる悪意は最小限で済んでいるのだろう。
権力に興味はないが、ちょうどいいバランスで成り立っているものを壊したいと思うほどの欲はない。行動は制限されているが、老後の蓄えは着々とたまっていた。
だからこれでいいと思っていた。
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